麗しの騎士様の好きな人

アズやっこ

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「あの、背中の傷、痛くないのですか?」

「え?」

「先程お着替えされてる時に少し見えてしまいまして」

「あ!はい。随分前の傷なので、痛みはありません」

「そうなのですね。騎士様は傷が勲章なのですか?」

「勲章…ですか。これは不名誉な傷ですので」

「すみません。知らずに。気を悪くなされたのなら申し訳ありません」

「いえ。初恋の子を護れなかった情けない傷です」

「ですが、騎士様も傷を負いました。護れたのではありませんか?」

「いえ。これは私への罰です」

「それは…」

「さあ着きましたよ」

「態々ありがとうございました」

「いえ。楽しんで下さい」

「はい…」

「どうされました?」

「いえ、楽しみますね」

「はい」


 私は会場の方へ歩いて行った。遠くから


「リー」


 と微かに聞こえた。振り向いた時、誰も居なくて私が呼ばれた訳ではないのに、何故か呼ばれた様な…。 私をリーと呼ぶ人はいない。私じゃないのに何故だろう。とても懐かしい気になるのは、とても温かい気になるのは、とても嬉しい気になるのは、とても優しい気になるのは、とても苦しくなる気になるのは、とても悲しい気になるのは…。




 その日の夜、夢の中、

 王宮の庭園で手を繋ぐ幼い女の子と少年。少年が女の子に

「リー、おいで」

 少年は芝生の上に座り、女の子を自分の膝の上に座らせる。

「リー、花の冠作ってあげよっか?」

「ルト、つくれるの?」

「うん」

「つくって」

 女の子は少年に満面の笑みで答えた。少年は庭園に咲いてるピンクの花を摘み、花冠を作り、女の子の頭にのせた。


「リーの瞳の色と同じ色の花だよ」

「ルト、ありがと。うれしい」

 女の子は少年の頬に口付けした。

「リー!」

「ルト、まっかっか」

「リー、こういう事は誰にでもしてはいけないよ。好きな子にしかしては駄目だよ。分かった?」

「リー、ルトすきよ?」

「リーの好きは、花が好きやぬいぐるみが好きと同じだろ?」

「わかんない」

「リーが分かる様になったら俺がお嫁さんに貰いに行こうかな」

「リー、ルトのおよめさん?」

「リーが俺を好きならね」

「リー、ルトのおよめさんなる」

「うん。俺のお嫁さんになって」

「ルトはおよめさんにチュしないの?」

「え?」

「とうさま、いつもかあさまにしてる」

「え?リー?」

「リー、およめさん…なれないの?」

「リー」

 少年は女の子の額に口付けした。

「これでルトのおよめさん」

「そうだね」

 女の子は少年に抱きついた。とても幸せそうな笑みを浮かべて。少年も愛おしそうに女の子を見つめている。

 女の子と少年の顔は分からずぼんやりと見えるだけ。会話だけが鮮明に聞こえた。



 朝、目が覚めると涙が溢れていた。どんな夢を見たのかすら思い出せない。だけどとても幸せだった夢…。そして大事な事だった気がする…。


 定期的に王女様のお茶会が開かれ、私もリーシャも参加した。毎回違う場所である時はサロン、ある時は四阿、ある時は花壇の花が咲く庭園、ある時は薔薇園。

 今日は王宮から少し離れた庭園で、王女殿下付きの近衛隊が周りを護りながら、その中でお茶会が始まった。今日は婚約者の居ない令嬢だけが集められ、人数も少人数だった。私はリーシャの隣に座り、リーシャと話をしていた。庭園を自由に見て回る事も出来て、私とリーシャも庭園を見て回った。リーシャがお花を摘みに行ったので私は一人でブラブラと…。


 少し歩くと体が勝手に動いた。気付いたらピンクの花が咲いている花壇の前。少し後ろに木が立っていて私は木の下の芝生の上に座り、花壇を見ていた。見た事なんてないはずなのに、懐かしい気持ちになった。風に揺れるピンクの花を見つめた。


「フランベル伯爵令嬢、こちらでしたか」


 私は上を見上げた。黒髪が風でなびいている。


「探しましたよ。会場から離れています。さあ戻りましょう」

「すみません。もう少しだけ…」

「ピンクの花、フランベル伯爵令嬢の瞳の色と同じですね」

「え?」

「花冠でもお作りしましょうか?」

「え?」

「成人した女性に失礼でしたね。さあ戻りましょう」

「はな、かんむり………」


 私は突然意識を失いそのまま芝生の上に倒れた。


「フランベル伯爵令嬢!しっかりして下さい!フランベル伯爵令嬢!聞こえますか?」


「ルト、かんむり、つくって……お、よめ……」

「リー? リー!リー!しっかりしろ!リー!」


 私はふわふわの雲の上、とても幸せな気分だった。


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