58 / 63
57
「結局貴方は私を愛する事は無いのよ」
「どういう意味だ」
「貴方と初顔合わせをした時、貴方は私に何て言ったか覚えてる?」
「婚姻に感情は必要ない。婚約者など誰でも良い」
「そう。貴方はまた同じ事を言ったの。だから私も貴方と婚約したの。今度は感情なんて持っていなかったから」
「どういう意味だ」
「別に貴方を愛したいとも愛してほしいとも思ってないわ。だって貴方は一人の女性しか愛せない人だから。それなら私も私で他で遊べば良いと思ったの。その中の一人と恋をするかもしれないでしょ?愛するかもしれないでしょ?
だって私達に愛は存在しないもの」
「お前は俺との婚約を嫌がっていただろ?」
「当たり前よ。どうしてまた惨めな婚約者にならないといけないのよ」
「さっきからまた、とは何だ」
「え?貴方も覚えているのよね?」
「だから何を覚えているんだ」
「はははっ、本当に何も覚えていないのね」
「何を言ってる」
「エティーシア」
「エティーシア?」
「娼婦の名よ」
「娼婦?」
「はははっ、本当に覚えてないのね。
マーメイル国」
「マーメイル国……エティーと言う名の王女、そしてシア…エティーシアが本当の名か」
「どこまで覚えているの?ルーベン殿下」
「ルーベン?あぁ、あの青年の名か」
「は?」
「たまに青年の夢を見るだけだが」
「はははっ、
ねぇ、貴方の恋人ってリアムの妹さんでしょ?」
「お前に言う必要はない」
「なら、もしかして犠牲者ってリアムの妹さん?」
「お前に言う必要はない」
「そう、やっぱりね」
「どうして分かった」
「だって貴方は一人の女性しか愛せないもの。だからちょっと仕返ししただけよ」
「お前、まさか」
「そのまさかよ。わざとリアムに近づいたの。
彼女を見た時直ぐに分かったわ。エティーシアだと、あの娼婦だと。リアムは妹をとても大切に大事にしていたわ。だから彼女の大切に大事にしているもの、大好きなお兄様を今度は私が奪おうって思ったの。今の彼女から奪っても意味なんて無いけど、それでも大好きなお兄様を傷つけたら少しは気が晴れるでしょ。
あの女だけ愛されるなんておかしいじゃない」
「それだけで、」
「それでも私だって今と前では違う人間だわ。彼女も違う人間。それでもちょっとくらい仕返ししても良いでしょ。
殿下、お願いがあります」
「何だろう」
「私に罪があると言うのなら私を処刑して下さい」
「処刑?」
「首を落として下さい」
「何言って、」
「この二人に振り回されるのはもう嫌なの。この二人の歯車に巻き込まれるのはもう嫌なの。もう私は逃れたい………」
「エリーゼ、君は、」
「もう私を自由にしてほしい…」
「おい!詳しく教えてくれないか!」
「知らない方が良いと思うわ。それに私もそこまで詳しくないの」
「それでも良い。頼む、教えてくれないか」
「はぁぁ、私が覚えているのはルーベン殿下がエティーシア元王女を自分の部屋に囲っていて、周りは皆、エティーシアはルーベン殿下の娼婦だと思っていたくらいよ。ルーベン殿下は愛していたけどエティーシアの気持ちは知らないわ」
「最期はやっぱり毒殺だったのか」
「そうよ。メイドが毒を盛ったの。あのメイドもフローラと一緒で単純で扱いやすかったわ」
「どういう意味だ」
「メイドはルーベン殿下の腹立ち紛れに言い放った言葉を鵜呑みにしたの。だから私は毒を手渡して囁いただけよ。そしたらメイドはエティーシアに毒を盛ったわ。まぁメイドは秘密裏に処刑されたけど。
メイドもフローラも貴方を本気で愛したりするから、ほんとバカな子よ。
前世の私はルーベン殿下を本気で愛していたわ。だから最期に願ったの。来世でも貴方に会いたい、来世でも婚約者になりたい、そう願ったの。来世なら愛し合えるとそう信じて。
私、貴方の婚約者に選ばれた時、本当はすごく嬉しかったの。それでも貴方と初顔合わせをした日までだけど。その日私は前世を思い出したわ。
前世の私はルーベン殿下の乳兄妹を殺した罪で厳しい修道院に入れられたわ。死にたくなるような環境の中でも死ぬ事は許されなかった。地獄の毎日だったわ。だから殿下を思う事で生きていたの。
殿下を愛したばかりに、願ったばかりに、こうしてまた貴方と絡まったわ。今の貴方を愛さなければ回避できると思っていたのに、結局私は前世と同じね。修道院で最期を迎えるの」
「エリーゼ、君は前世を思い出したから自分で毒を用意したんだね」
「ええ。死にたい時に死ねるように。地獄の毎日を生きる為に生かされ続けるのはもう嫌だったから。それでも今は過ごしやすいですけど」
「君の罪はまた伝える」
「分かりました」
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
4人の女
猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。
うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。
このご婦人方には共通点がある。
かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。
『氷の貴公子』の異名を持つ男。
ジルベール・タレーラン公爵令息。
絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。
しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。
この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。
こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)