元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ

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夜の営業が終わり遅い夕食を食べている時。


「ルナちゃん、悪かったな。明日は店を休みにする。俺も親父も気づかなくてごめん」

「いえ」

「ルナに言われてな。あんたは良いけどルナちゃんは休ませろって。従業員を酷使する気かって。母さんが生きていた時は月に一度休みがあったんだ。だけど俺と親父だけになって二人共何も言わないから休みがいつの間にかなくなってな。

これからは月に一度休みにするから」

「ありがとうございます」

「すまんな」


いつも寡黙な店主さんの声をきちんと聞いた気がする。


「月に一度しか休ませてやれないけど」

「十分です」

「明日、もしルナちゃんさえ良かったら街を案内しようと思っているんだげど、どうだ?」

「お願いします」

「なら明日昼ご飯を一緒に食べようか」

「はい」

「後、少しだけど給金だ」


団長さんは私に封筒を渡そうと目の前に差し出した。


「ですが、こうやって食事も食べさせて頂いてますし、住む所も用意して頂きました。何から何までお世話になっているのにお給金まで頂けません」

「これは働いた対価だ。ルナちゃんが汗水流し働いた対価だ。受け取ってほしい」


私は店主さんを見た。頷く店主さん。

私は封筒に入ったお給金を受け取った。


「ありがとうございます。大切に使わさせて頂きます」


私は初めて自分で働いて得たお金を抱きしめた。


次の日私はルナのお店に行った。


「ルナ、お給金が貰えたの。だからこの前の服を買わせてほしいの」

「お嬢様あれはプレゼントします。お嬢様が働いて得たお金は違う物で使って下さい。お菓子を買っても良いし美味しいものを食べても良いし、好きなものを買う為に使って下さい」

「ありがとう。でもね、私が初めて働いて得たお金だからこそルナの服を買いたいの。自分のお金で自分の好きなものを買う、大切なお金だから私の為に作られた物を買いたいの」

「分かりました」

「ありがとう。部屋に飾らせてもらうわ」

「はい?」

「私は修道女よ、食堂で働いている時は別だけど、色の付いた服を着る訳にはいかないわ」

「お嬢様、お嬢様は今街で暮らしていて働いています。街で暮らす一人の女性です。何を着ようがお洒落をしようが誰にも文句は言われません。もし誰かが文句を言ってきたら私が蹴り飛ばしに行きます。だからお嬢様は好きな服を着て下さい」

「今は街で暮らしていても私が修道女なのは変わらないわ。修道女は慎ましく生きないといけないの」

「ですが…。お嬢様、お嬢様の気持ちは分かりました。ですが、私が作った服を飾るだけなんて、私が悲しいです」

「そうね…」

「お嬢様が修道女なのは事実ですが、この街で暮らしている時だけは良いじゃないですか。一人の女性としてお洒落を楽しんでもバチは当たりません。

お嬢様一度着てみて下さい」

「え、ええ」

「調整します」


私はルナが作ってくれたすずらんの花の刺繍が施された淡いピンク色のワンピースに袖を通した。


「調整は必要なさそうです。お嬢様、良くお似合いです」

「ありがとう。でも私がピンクなんて似合うのかしら」

「今までは殿下の色の青が多かったのでそう思うだけです」

「そうね…。

ルナありがとう。この服もそうだけど、団長さんに言ってくれたのでしょ?私を休ませろって。私に休みなんて贅沢だと思っていたんだけど嬉しかったわ。このワンピースも贅沢品だけど一枚くらいは贅沢じゃないわよね」

「そんなの当たり前です。まず従業員には休みは必要です。それは従業員の権利です。だから贅沢ではありません。

それに…、公爵令嬢だった時も贅沢なんてしてなかったじゃないですか。お菓子も坊ちゃまにあげていましたし、ドレスだって必要な時しか購入していません。

他の令嬢方は着る予定もないドレスを購入します。でもお嬢様は、」

「何かあれば殿下が贈ってくれたし、それにお父様は私の事なんて殿下の婚約者としての価値しかないと思っていたから…」


私は俯いた。悲しくはない。お父様が私をどう思っていたかなんて何度も味わって知っているから。

殿下から婚約破棄されて私の価値は無くなった。それも事実だもの…。


「お嬢様…。それより今日は食堂休みですよね。今日は私とお出かけしませんか?」

「ごめんなさい、今日は先約があるの。今度の休みの時でも良いかしら」

「先約ですか?」

「ええ、団長さんが街を案内してくれるのよ」

「あいつが?ならこのままこのワンピースを着ていって下さい。ついでに久しぶりにお嬢様の髪を整えさせて下さい」

「でも、」

「お嬢様、あいつと出かけるのに修道服で行くつもりだったんですか?それはあまりにもあいつが可哀想です」

「そう、かしら…。なら、お願いしようかしら」


奥の部屋に入りルナは嬉しそうに私の髪を整えてくれた。私の髪を整えるのはルナの役目だったから。


「今日は街娘風です」

「ありがとう」

「では楽しんできて下さい」

「街を案内してもらうだけよ?」

「何事も楽しんだもん勝ちです」


楽しそうに笑うルナの顔。


「ルナの明るさに私は何度も助けられたわ。いつもありがとうルナ」


ルナに見送られ私は食堂に向けて歩いていたら食堂の前に団長さんが待っていた。


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