元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ

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10 敵


この街で働き始めて7ヶ月


「悪いけど注文書を届けて来てくれるか」

「分かりました」


休憩に入り遅い昼食を3人で取り、私は団長さんから紙を受け取り食堂を出た。


「行ってきます」

「気をつけろよ」


何気ない会話、3人での生活、毎日食堂を手伝い日々楽しく暮らしている。

私は食堂を出て明日食堂で使う野菜、肉の注文書を届けに行く。もう慣れた街並み、慣れた道。


「お嬢ちゃん」

「こんにちは」


街を歩けば食堂の常連さんが話しかけてくれ挨拶をするようになった。


「こんにちは、注文書を持ってきました」

「食堂の姉ちゃんか」


肉屋の店主さんに紙を渡した。

少し歩いて野菜屋さんに着いた。


「もう慣れたようだね」

「はい」

「そうかい」

「あのこれ注文書です」

「あぁ確かに。後で食べな」

「いつもありがとうございます」


野菜屋さんに行くと必ず果物を一つくれる。今日はオレンジを貰った。

オレンジの匂いを嗅いだ。


食堂に戻り残り少ない休憩をしていた時だった。


チリンチリン


「すみません、まだ営業時間ではありません」


扉の開く音を聞いて振り向きながら声をかけた。

店主さんと団長さんは厨房の奥で夜の営業の為に仕込み中。


振り向き私は固まった。

楽しくなりだした私の日常を闇に落とす人。

そして私は一人孤独になり懺悔する毎日を送れと戒める人。


「ラナベル」


低く私を憎むその声は私を震えさせる。


「ひ、久しぶりです、アーカス殿下」


私を睨みつけるその視線に私は顔を俯かせた。


「お前がこんな所で何をしている」

「あの、」

「修道院からどうして出ている」

「あの、」

「あのあのばかりでは分からないだろ!修道院へ行けばお前はここにいると言われたが、まさか本当にここにいるとは思わなかったがな」

「社会、勉強の、為に…」

「社会?お前はこの先一生俗世とは関われないはずだ。お前は罪人だ!」


突然私の腕が引かれ私は団長さんの背に隠された。


「お前は誰だ」

「俺はここの息子だ。お前こそ何のようだ」

「私を誰だと思っている」

「お前か?お前は難癖をつける輩か?」

「何!」

「この子は今頑張って生きている。お前達に捨てられ自分を見失い孤独に逃げた。それでも今は懸命に生きている。誰にだって生きる権利はある。どんな罪を犯そうが誰にも平等に生きる権利はある。やり直す機会がある。

お前が誰であろうとこの子の邪魔は俺が許さない」

「退け」

「退くか」


殿下と団長さんの睨み合いが続いた。


チリンチリン


「お嬢様!外に」


ルナが食堂に入ってきた。


「お前はラナベルのメイドだったな」

「アーカス、殿下……」

「お前からも言ってやれ。この男は私が誰か知らないらしい。まあ最もこんな田舎じゃあ私の事を知らなくても仕方がないがな」

「貴方が誰か?そんなのお嬢様を傷付けた浮気男でしょ」

「お前!」

「お嬢様という婚約者がいながら他の女性を好きになればそれは浮気です。お嬢様は確かに貴方の好きな人を傷付けたかもしれません。ですが貴方もお嬢様の心を傷付けました。

婚約者としてお嬢様は耐え続けました。妃教育にも耐え、殿下の婚約者として公爵令嬢として恥じないように、皆の手本になるように、やりたい事も言いたい事も何もかも耐え続けました。その仕打ちが修道院ですか?なら貴方は、お嬢様を傷付けた貴方はどんな罰を受けたんですか!」

「なっ!私は王太子を外された!この女のせいでな!」

「そんなの婚約者以外に好意を持った時点で王太子の資格はないです。いずれ王になる人が浮気男なんて誰も付いていきません。そんな人が王になればこの国は終わります。

それにお嬢様のせいにするなんてどれだけ自分勝手なんですか」

「私は第一王子だぞ!」

「王太子になれない第一王子なんてお荷物でしかないと思いますが」

「ッ!だから、だから私がここに来たんだろ!ラナベルをもう一度婚約者にしてやろうと。だからわざわざここに迎えに来てやったんだ!

父上に頼んでラナベルを公爵令嬢に戻し私の妻にする。そしたら私はチェルシーと一緒に居られる。王太子はもうどうでも良い。私にはチェルシーさえ側に居れば良い。例え義理の妹にはなっても側に居られるのなら、その為ならこんな女でも少しは私の役には立つ」


団長さんの握り拳に力が入っていた。


「お前は馬鹿か?阿呆か?それはお前の都合だろ?この子の意思ではないだろ。

それにもし父上に頼むならその父上がここに来てこの子に頭を下げて頼め。愚息に嫁いでくれってな」

「お前!」

「第一王子だろうが国王だろうがまずは先に謝罪じゃないのか?婚約者がいながら浮気をしたお前が悪い。誰にだって恋をする事はある。婚約者がいようがいないだろうが誰かを好きになるのは誰にも止められない。

でもな、誰かを好きになったのならその人にも婚約者にも誠実でないと駄目だろ。婚約者に理由を話し婚約を解消してそれから堂々と好きな人を思えばいい。

婚約者はお前に何かあった時の為に存在するんじゃない。婚約者にも心があるんだ」

「お前に関係ないだろ。ここの息子だからと私に指図するな。

おいラナベル、早くこっちへ来い!今なら私も全て水に流してやる」



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