元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ

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11 守

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「俺が行かせない」

「お前には関係ない。ラナベル早くしろ!」


殿下の怒鳴り声に体が震える。


「この子は今懸命に生きようとしている。それにようやく自分を取り戻そうと頑張っている。この子を傷付けたお前に渡す訳がないだろ。

お前は見た事があるのか?楽しそうに笑った顔を、話してる姿を。ようやく笑えるようになったんだ。ようやく人と話せるようになったんだ。お前に邪魔なんかさせない」

「ラナベル!」


私は手で耳を塞いだ。

もう私の名前を呼ばないで。もう私を解放して。


「なぁラナベル、私達は仲が良い婚約者だったじゃないか。お前は私を慕ってくれていたよな?いつも私を支えてくれていたよな?」


それだって何度も何度も繰り返される断罪に貴方を慕う気持ちなんて無くなった。


「私の妻になりたいと言っていただろ?私にはラナベルが必要なんだ。分かるよな?

このままではチェルシーがお前の弟と婚姻してしまう。そしたら今までのように会えなくなるんだ。でも私がお前と婚姻すればチェルシーと今まで通り会える。義理の兄と妹になっても側にいられる。

なぁラナベル、私を助けてくれないか」


貴方はチェルシー様の側に居たいだけ。そして私を公爵令嬢に戻し、ただ利用したいだけ。そこに私の意思は入っていない。チェルシー様以外は自分の駒と思っている貴方にどうして私が利用されないといけないの?

貴方は私を修道院へ送り排除した。

お父様と弟と結託して私を排除したのは貴方。ようやく自由を手に入れられ感謝したわ。あんな地獄から早く抜け出したかったから。なのに貴方はまた私を地獄へ送ろうとする悪魔ね。


「わか、分かりたく、ありません。私は分かりたく、ありません。もう帰って、下さい。もう、貴方の、顔なんか、見たくない」


私は絞り出して声を発した。

団長さんの手が私の震える手を握った。『大丈夫だ』そう言われているような…。私は団長さんの手にようやく息を吐けた。


「悪いが帰ってくれ。この子は俺が支える。お前はこの子を捨てた。一度手放したものは己の手には戻ってこない。

お前が第一王子でも自分の思い通りに何でも出来ると思うな。人には心がある。譲れない思いがある。

それにこの子の家族はこの子を捨てた。捨てた家族の元にどうしてもう一度戻そうとする。戻した所で幸せになるのか?なれないだろ。幸せを自分で見つける人もいるが与えてもらう幸せもある。この子の事を大事に思い大切に思い愛しいと思う人から幸せを受け取る権利がラナベルにはある。

街の一員として家族の一員として受け入れられた。それはラナベルが頑張った証だ。

俺がラナベルを幸せにする。ラナベルを捨てた家族よりも捨てたお前よりも、必ず俺が幸せにする。

だから帰ってくれ。今度顔を見せた時は俺も黙ってはいない。不敬罪と言われようが今度はお前を殴る」

「なっ!」


チリンチリン


「殿下!」


切羽詰まった顔をした騎士が入ってきた。

扉は開いたまま。

目に入った光景。


「どうした」

「早くこの街から出て行きな!この子を傷付ける奴は私達が許さないよ!」


食堂の外には街の人達が集まり馬車を囲んでいた。

野菜屋さんのおばさんの声。肉屋のおじさん。常連の年配の男性。食堂のお客様。


「どこぞの王子か知らないけどね、あんた人としてもう一度赤ん坊からやり直しな。それにあんた達も騎士なら主の間違いを正さなくてよく騎士なんかやってるね。そんなんで国を護れるのかい?辞めちまいな。

ほらさっさと帰って行きな!」


私は涙が溢れてきた。

団長さんが私の背を押した。


「見てみな、皆ラナベルを守る為に集まった。ラナベルの頑張りを皆見て知っているからだ。そして認めた。街の住人として一員として皆が認めたんだ。一人で戦わなくていい。皆で戦えばいいんだ。人は支え合って生きてる。一人じゃない」

「はい」

「辛い時は手を握ってやる。悲しい時は胸を貸してやる。一歩踏み出したい時は背中を押してやる。一人で戦えないなら一緒に戦ってやる。

だから堂々と前を向け。胸を張れ」

「では、手を、手を握っていてくれますか?」

「あぁ」


団長さんと繋がれた手から勇気を貰う。

目を瞑り『ふぅ』と息を吐きそして目を開けた。


「アーカス殿下、お引取り下さい。もう私は公爵令嬢でもなければ公爵令嬢に戻りたいとは思っていません。父も弟も貴方も皆愛しい人の手を取り私の手を離しました。

殿下、私はただ誰かに生かされ、悲しいとも辛いとも何も思わない、私はずっと貴方の隣にいるだけの感情のない人形でした。

お慕いした時もありました。貴方の妻に、そう望んだ時もありました。ですが空っぽだったんです。ただ鼓動を打ち息をしているだけ。肉体としては生きていますが心は死んでいました。

修道院に入り私はようやく地獄だった日々から解放されました。心のない人形の安息の地、そう思いました。

ですが私はこの街でこの街の人達のおかげで心を取り戻し人間になろうと、ようやく自分を取り戻し始めました。

お願いします。私はもう人形に戻りたくないんです。あの地獄のような日々に戻りたくないんです。私は喜怒哀楽を持った人間にこれからはなりたいんです。もう私を解放して下さい。私を自由にして下さい。

貴方がお探しのラナベル・バレッジはもう死にました。今ここにいるのはこの街の住人、ラナベルです。貴族令嬢でもない、第一王子の婚約者でもない、ようやく人形から人間になれたラナベルです。

どうか、どうかこのままお引取り下さい。お願いします」


私は頭を下げた。


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