元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ

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14 文

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街の人達に見送られ私は修道院へ帰ってきた。


コンコン

「ラナベルです。只今戻りました」

「入りなさい」


シスターの部屋に入った。


「街での生活はどうでしたか?」

「はい、とても楽しい1年でした」

「貴女の顔を見れば分かります。ラナベル、貴女はようやく心を持つ人間らしくなりましたね」

「はい、皆さんのおかげです」

「ラナベル、貴女の処遇ですが、こちらを読んで貴女が決めなさい。ようやく貴女に渡す事が出来ました」


シスターから文を2通貰った。

私は私室に戻り文を読む。


『ラナベル嬢

この度愚息が迷惑をかけた。一人の女性に愚息を始め子息達が好意を持ちこの国の秩序を乱した。その犠牲になったのがラナベル嬢始めか弱い令嬢ばかりだ。

バレッジ公爵家、一貴族の当主が下した決定に私の耳に入るのが遅くなった事、本当に申し訳なく思っている。

ラナベル嬢、君は罪人ではない。罪があるのは愚息であって君は受けなくて良い罪を着せられた。

公爵令嬢の君には何も落ち度はない。公爵令嬢として愚息の婚約者として皆の手本になり皆を導いてきたのは明らか。

修道院での生活は辛いであろう。シスターにも伝えてあるが君が望むようにしてほしい。君の貴族籍は抜けていない。バレッジ家ではなく違う公爵家の養女になる手筈も済んでいる。この国での生活が嫌だと思うのなら他国の親類の家の子になれる手筈も整えてある。

繰り返しになるが、ラナベル嬢、君は罪人ではない。君は幸せを手に出来る女性だ。私は君の幸せを願っている。

この度愚息が迷惑をかけた事、本当に申し訳なかった。


          ガレード 』



国王陛下からの直筆の文。それも修道院へ入って直ぐの日付け。

シスターはこの文を私に渡しても読まず捨てるだろうと、もしくは読んでも何も思わないだろうと、そう思った。だからずっとシスターは私に言い続けた。

『人として生きなさい。心を持ちなさい』

と。でも私は変わらなかった。だから陛下の文も渡せなかった。

きっとこの文を貰っても私は拒絶した。今読めば謝罪も融通も心に入ってくる。でも当時だったら、この楽園が私の生きる道で、謝罪も謝罪とは受け取らず、融通もただ邪魔者を追い払うだけだと、隠し手の内に入れて監視する、そう思ったと思う。

修道院へ送られた令嬢が貴族籍を残せる訳がない。公爵家当主が自分の娘を修道院へ送った。一貴族の一家族の問題に陛下が口を出す事は出来ない。例え自分の息子の婚約者とはいえ、まだあの時私は公爵令嬢だった。

殿下が他の女性に好意を持ち婚約破棄をされて、その償いとしても男爵家くらいなら有り得ても別の公爵家へ養女として入れる訳がない。他国の親類って、前陛下の王妹、陛下からすれば叔母様、他国へ嫁ぎ今は前王妃にはなったけどそのお方の娘?それだって本来なら有り得ない話。

だって私を修道院へ送ったのはお父様と弟なんだから。

でも、今なら分かる。

陛下はその有り得ない話を本当に用意した。


でも私は罪人で良いと、罪人が良いと、ずっと思っていた。俗世を遮断するここは私には楽園だから。人と付き合わなくても生きていける。殻に閉じ籠もっても生きてこれた。狭い空間が私には安らぎだった。

でも外の世界に無理矢理出され、人と関わり繋がり縁を結んだ。とても優しく温かい人達に囲まれて私は外の世界が素敵なものだと知った。

心のない人形から心を持つ人間になったから。


そしてもう一通。

アーカス殿下の処遇について書いてあった。食堂へ来た次の日の日付け。

アーカス殿下は第一王子のまま幽閉された。廃嫡し平民にすれば私に迷惑をかける。また押しかけ何とかチェルシー様との縁を繋ごうとする。

第一王子のままなのは王族しか入れない、従者すら入れない王族の監獄。そこに一人だけ死ぬまで入る事になった。勿論抜け出せる窓もない。外から頑丈に掛けられた鍵。食事を入れる小さい扉だけ。猫なら出入り出来ても子供でも無理。

後は、お父様は公爵から男爵になった。お父様や弟を平民にすればそれこそ私に迷惑をかけるからだそう。貴族として陛下が監視するのが一番良いと。

公爵令息から男爵令息になった弟はチェルシー様を部屋に閉じ込めているらしい。邸から一歩も出ない弟とチェルシー様の現在の様子は誰も分からないらしい。

そしていつまでも私の返答を待つという陛下の文だった。


次の日シスターに呼ばれた。


コンコン

「ラナベルです」

「入りなさい」


私はシスターと向き合った。


「文を読みましたか?」

「はい」

「ラナベルはどうしますか?修道院でこのまま修行するのも良いですし、陛下のお世話になるのも良いです。貴女は自由です。元々貴女は罪人ではなく修行としてこちらは受け入れました。心を持ち人として生きてほしいと私達も厳しくそして諭してきました。

ラナベル、もう貴女は自分の意思で選べる、私はそう感じました」

「はいシスター。陛下のお気持ちはとても嬉しく思いますが、貴族籍を抜いて頂きたいと思っています。私は何も背負わないラナベルとしてこれからは生きていきたいです。

私が自由を選んで良いのなら、私は街で暮らしたいです。街の一員として家族の一員として、皆さんに恩返しがしたいです。街で暮らす働く一人として、皆さんの力になりたいです」

「分かりました。陛下にはそのように伝えます」

「お願いします。陛下のお気持ちは本当に嬉しく思います。ですが街の人達は私の家族です。私は家族が大好きなので側に居たいです。陛下のお気持ちに感謝しますが私の気持ちは変わりません。すみませんがお願いします」

「街へ行かせて正解でした。貴女の笑顔を見れるなんて、こんな幸せな事はありません。良い人達に恵まれましたね」

「はいシスター」


私は笑顔でシスターに答えた。



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