14 / 15
14 文
しおりを挟む街の人達に見送られ私は修道院へ帰ってきた。
コンコン
「ラナベルです。只今戻りました」
「入りなさい」
シスターの部屋に入った。
「街での生活はどうでしたか?」
「はい、とても楽しい1年でした」
「貴女の顔を見れば分かります。ラナベル、貴女はようやく心を持つ人間らしくなりましたね」
「はい、皆さんのおかげです」
「ラナベル、貴女の処遇ですが、こちらを読んで貴女が決めなさい。ようやく貴女に渡す事が出来ました」
シスターから文を2通貰った。
私は私室に戻り文を読む。
『ラナベル嬢
この度愚息が迷惑をかけた。一人の女性に愚息を始め子息達が好意を持ちこの国の秩序を乱した。その犠牲になったのがラナベル嬢始めか弱い令嬢ばかりだ。
バレッジ公爵家、一貴族の当主が下した決定に私の耳に入るのが遅くなった事、本当に申し訳なく思っている。
ラナベル嬢、君は罪人ではない。罪があるのは愚息であって君は受けなくて良い罪を着せられた。
公爵令嬢の君には何も落ち度はない。公爵令嬢として愚息の婚約者として皆の手本になり皆を導いてきたのは明らか。
修道院での生活は辛いであろう。シスターにも伝えてあるが君が望むようにしてほしい。君の貴族籍は抜けていない。バレッジ家ではなく違う公爵家の養女になる手筈も済んでいる。この国での生活が嫌だと思うのなら他国の親類の家の子になれる手筈も整えてある。
繰り返しになるが、ラナベル嬢、君は罪人ではない。君は幸せを手に出来る女性だ。私は君の幸せを願っている。
この度愚息が迷惑をかけた事、本当に申し訳なかった。
ガレード 』
国王陛下からの直筆の文。それも修道院へ入って直ぐの日付け。
シスターはこの文を私に渡しても読まず捨てるだろうと、もしくは読んでも何も思わないだろうと、そう思った。だからずっとシスターは私に言い続けた。
『人として生きなさい。心を持ちなさい』
と。でも私は変わらなかった。だから陛下の文も渡せなかった。
きっとこの文を貰っても私は拒絶した。今読めば謝罪も融通も心に入ってくる。でも当時だったら、この楽園が私の生きる道で、謝罪も謝罪とは受け取らず、融通もただ邪魔者を追い払うだけだと、隠し手の内に入れて監視する、そう思ったと思う。
修道院へ送られた令嬢が貴族籍を残せる訳がない。公爵家当主が自分の娘を修道院へ送った。一貴族の一家族の問題に陛下が口を出す事は出来ない。例え自分の息子の婚約者とはいえ、まだあの時私は公爵令嬢だった。
殿下が他の女性に好意を持ち婚約破棄をされて、その償いとしても男爵家くらいなら有り得ても別の公爵家へ養女として入れる訳がない。他国の親類って、前陛下の王妹、陛下からすれば叔母様、他国へ嫁ぎ今は前王妃にはなったけどそのお方の娘?それだって本来なら有り得ない話。
だって私を修道院へ送ったのはお父様と弟なんだから。
でも、今なら分かる。
陛下はその有り得ない話を本当に用意した。
でも私は罪人で良いと、罪人が良いと、ずっと思っていた。俗世を遮断するここは私には楽園だから。人と付き合わなくても生きていける。殻に閉じ籠もっても生きてこれた。狭い空間が私には安らぎだった。
でも外の世界に無理矢理出され、人と関わり繋がり縁を結んだ。とても優しく温かい人達に囲まれて私は外の世界が素敵なものだと知った。
心のない人形から心を持つ人間になったから。
そしてもう一通。
アーカス殿下の処遇について書いてあった。食堂へ来た次の日の日付け。
アーカス殿下は第一王子のまま幽閉された。廃嫡し平民にすれば私に迷惑をかける。また押しかけ何とかチェルシー様との縁を繋ごうとする。
第一王子のままなのは王族しか入れない、従者すら入れない王族の監獄。そこに一人だけ死ぬまで入る事になった。勿論抜け出せる窓もない。外から頑丈に掛けられた鍵。食事を入れる小さい扉だけ。猫なら出入り出来ても子供でも無理。
後は、お父様は公爵から男爵になった。お父様や弟を平民にすればそれこそ私に迷惑をかけるからだそう。貴族として陛下が監視するのが一番良いと。
公爵令息から男爵令息になった弟はチェルシー様を部屋に閉じ込めているらしい。邸から一歩も出ない弟とチェルシー様の現在の様子は誰も分からないらしい。
そしていつまでも私の返答を待つという陛下の文だった。
次の日シスターに呼ばれた。
コンコン
「ラナベルです」
「入りなさい」
私はシスターと向き合った。
「文を読みましたか?」
「はい」
「ラナベルはどうしますか?修道院でこのまま修行するのも良いですし、陛下のお世話になるのも良いです。貴女は自由です。元々貴女は罪人ではなく修行としてこちらは受け入れました。心を持ち人として生きてほしいと私達も厳しくそして諭してきました。
ラナベル、もう貴女は自分の意思で選べる、私はそう感じました」
「はいシスター。陛下のお気持ちはとても嬉しく思いますが、貴族籍を抜いて頂きたいと思っています。私は何も背負わないラナベルとしてこれからは生きていきたいです。
私が自由を選んで良いのなら、私は街で暮らしたいです。街の一員として家族の一員として、皆さんに恩返しがしたいです。街で暮らす働く一人として、皆さんの力になりたいです」
「分かりました。陛下にはそのように伝えます」
「お願いします。陛下のお気持ちは本当に嬉しく思います。ですが街の人達は私の家族です。私は家族が大好きなので側に居たいです。陛下のお気持ちに感謝しますが私の気持ちは変わりません。すみませんがお願いします」
「街へ行かせて正解でした。貴女の笑顔を見れるなんて、こんな幸せな事はありません。良い人達に恵まれましたね」
「はいシスター」
私は笑顔でシスターに答えた。
89
あなたにおすすめの小説
「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私
白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?
あなたの言うことが、すべて正しかったです
Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」
名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。
絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。
そして、運命の五年後。
リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。
*小説家になろうでも投稿中です
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。
石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。
その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。
実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。
初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。
こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~
岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。
王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる