憎しみあう番、その先は…

アズやっこ

文字の大きさ
14 / 43

14

しおりを挟む
「半獣?」


 私はボソッとつぶやいた。


「おい!人族!」


 私はビクッと身体が強張った。


グルルルルル、グルルルルル


 ガイの唸る声が大きくなった。私を抱き抱えてる手に力が入り、ギュッとより包まれた。


「ジン、すまないが」

「ああ、分かってる」

「アイリス、目を瞑れるか?絶対に目を開けるな、いいな」


 私はコクコクと頷いた。


グルルルルル
ガルルルル


 争ってる?ジン様? 私はギュッと目を瞑り、身体が震えてる。


グルルルルル
ガルルルル


「アイリス、愛しい俺の番」


 ガイは私の頭に口付けを落としてる。


「アイリス、怖かったな?もう目を開けてもいいぞ?」


 私は目を開けガイを見つめる。いつの間にか出ていた涙をガイは舐めてる。


「涙も甘い」


 ガイは流れる涙を全て舐め尽くそうとペロペロと舐めている。


「アイリス、愛してる」


 ガイの唇が私の唇に重ねられた。


「おい!ガイ!覚えてろよ!」


 横目で見るとジン様が虎?の獣人の方を捕らえていた。


「そんなに人族の番が大事かよ!自分の匂いをプンプンと纏わせて!人族はお前の仇だろ!お前は人族に寝返るのか!お前はそれでも狼か!」


 私を隠す様にガイが抱きしめた。


「ガオ、お前も番が出来れば分かる。獣人とか人族とか関係ない。匂いに誘われ囚われ、俺はもう番以外いらない。番を愛し護り包み込む、それが俺の役目だ。番を害する奴は例え身内でも許さない。俺にとって唯一無二の存在だ。魂も身体も番を求め離さない。抱きしめると安心して心が埋まる感覚だ。安らぎ心地いい感覚だ」

「腑抜けになりやがって」

「何とでも言え」

「お前、その人族に裏切られ捨てられるぞ」

「捨てられたら喜んでこの身を捧げるさ。番を思いながら死ねるなんて本望だろ?」

「狂うんだぞ!」

「ああ、もう俺は番の匂いを感じ取った時から狂ってる」

「そんなにその番が良いのか!」

「ああ。もし番が牙と爪が怖いと言ったら俺は直ぐにでも牙を抜いて爪を剥ぎ取る」

「どうしてそこまで」

「そこまでしてでももう離せないからだ。笑った顔も怒った顔も怯える顔も睨む目も全てが愛しく美しい。匂いだけじゃない、コロコロ変わる表情も、恥ずかしがり屋で少し頑固な所も、優しい所も全てが愛しい。番だからじゃない、人としても俺はアイリスを愛してる」

「ッ」

「なあガオ、俺の姉さんは人族の番に裏切られ捨てられた。俺も姉さんの番を恨んだし憎んだ。人族は正直嫌いだ。 だけどな今だから分かる。 姉さんは最後まで番を愛し思いながら死んだ。

俺達獣人は人族の番を失うと狂うと言われてるが、人族の番と出会った時に俺達獣人は狂ってるんだよ」


「そこまでだ!」


 一瞬ピリっといた空気が漂った。


「隊長!」

「話は聞こえていた。ガオは一週間独房で謹慎だ。そこで人族に対する態度を改めろ」

「…はい」

「ジン連れて行け」

「はい」

「ガイ、番を下ろすんだ」

「ですが」

「ガイの番を害する者は居ない」

「はい」


 私はガイから下ろされ、隊長さんと呼ばれる方は私の前に居た。獅子?


「お嬢さん、私の部下が心無い言葉を言ってすまなかった」

「いえ、」

「怖い思いもさせた」

「いえ、」

「アイリスと言ったか?」

「…はい」

「そうか…」


 とても優しい声だった。そしてどこか悲しげな声だった。 そして私を見る目が優しくとても温かい目をしている。


グルルル

「ガイ、心配するな。友を懐かしく思っただけだ」


 私は無意識に聞いていた。


「友?」

「そうだよ。その髪の色、目の色、友と同じだ、懐かしい」

「髪の色?目の色?」

「ああ、クロードと同じだ」

「クロードお兄様を知っているのですか?」

「ああ、俺の友だ」

「お兄様に獣人の友がいたのですね」

「ああ。クロードだけは我等獣人を一人の人として接してくれた。俺達は同じ騎士として切磋琢磨してきた。一緒に剣の稽古をし、俺相手に獣人相手にどう戦えば傷を付けずに押さえれるか毎日挑んできた。夜遅くまで付き合わされ、その度に君の話を聞かされたよ」

「私の話ですか…」

「ああ。少しお転婆で人見知りする所もあるけど、優しく可愛い自慢の妹だとね。そして嫁には絶対に出さないと言っていたよ。口を開けばアイリスアイリスと君の話ばかりだったよ」

「お兄様がすみません」

「嫌、こちらこそすまない。俺は友を護れなかった」

「いえ…」

「知らせを聞いて直ぐに駆けつけたが間に合わなかった」

「………そうですか」

「あの時、我等獣人は発情期の最中で獣人側の騎士が手薄だった。言い訳にしかならないが」

「…………いえ」

「発情期の期間が違う獣人が街を警邏してたが、街から境界線まで行く獣人がいるとは思わなかった」


 私は首を傾けた。


「どうした?」

「街から境界線まで行く者がいないとはどういう意味でしょうか」

「我々獣人の街はこの境界線から離れていて遠くにある。多くの獣人はその街で暮らしている。クロードの事件があり街と境界線までの間に騎士達の住居を作った。休暇中の者でも直ぐに動けるように。あの日俺が境界線の近くにいたらクロードの匂いで気が付けた。クロードがこちら側に入り争っていると…。そしたら俺は直ぐに助けに行ったのに…」


 隊長さんはとても悔しそうで苦しそうで、そして悲しそうな顔をしていた。

 お兄様を亡くし悲しみに暮れるのは私達家族だけだと思っていた。同じ人族でもお兄様の行動に「自業自得だ」「馬鹿な男だ」「騎士が聞いて呆れる」「ヒーローきどりか」と散々言われた。


「ありがとうございます。お兄様にこんな素敵なお友達がいて本当に良かった」


 私は涙を流した…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜

く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた 静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。 壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。 「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」 番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。 狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の 少年リノを弟として家に連れ帰る。 天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。 夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...