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アイリスを人族街の入口まで送り俺は騎士団の詰所に来た。
コンコン
「隊長、ガイです」
「入れ」
俺は部屋に入った。
「アイリス嬢を送り届けて来たか?」
「はい」
「そうか。俺の大事な友の妹だ。俺はクロードの代わりに大事な妹を護らないといけない」
「それは」
「ガイ、クロードとの約束だ。アイリスを頼むと。息の根が止まる前に友から託された願いだ。 ガイの番でガイは狼だ。だが俺も友の願いは絶対なんだ、分かってくれ」
「あの隊長」
「何だ」
「アイリスの兄上と隊長はどちらが強いのですか?」
「体術は俺の方が勝っていた。だが剣の腕はクロードの右に出る者はいなかった」
「それならどうして兄上は剣を抜かなかったのですか」
「ガイは誰から聞いた」
「ラシュ殿とアイリスから少しです」
「ガイ、発情期の雌がいたらお前ならどうする?」
「俺はつがいになる雌一人だけですので」
「そうだったな。狼は生涯一人の雌を大事に大切にする」
「はい」
「他の種族の雄、例えば俺のような獅子、虎や豹ならどうなると思う」
「お互い発情期ならその場の勢いとかで発散すると思いますが」
「そうだ。クロードが庇った獣人は猫だった。そして発情期で発情していた。襲っていたのは虎や豹達だった」
「え?」
「虎や豹達も発情期に入っていて発情していたとはいえ酩酊状態になる程ではなかったはずだ」
「はい」
「発情した雌を目の前にし、それも猫族だ。分かるな?」
「発情が昂った」
「そうだ。発情が昂り酩酊状態になった。我を忘れ我先にと発情してる雌に襲いかかった」
「どうして雄ならまだしも雌が夜に出歩いていたのですか。それも発情した状態で。襲ってくれと言ってる様なものです」
「そうだ。襲ってくれと言ってるものだ。雌だって分かってただろうな。獣人には発情期がある。番や恋人がいる者は愛を深める期間だ。番や恋人が居ない者は家で大人しくしているしかない」
「はい」
「だが街には発情期に入った雄雌の者達が集まりお互い発散する場所もある」
「はい」
「それも獣の性だ。目を瞑るしかない」
「はい」
「雌猫が居たのは街の外れ、境界線近くだった」
「はい」
「雌猫は好きな男が居たそうだ」
「は?」
「好きな男は人族で騎士団の騎士だった。その日夜勤で騎士団の詰所に居ると知っていたらしい。発情中は人族の男でも色香が分かるらしい。熱い吐息や潤んだ瞳、人族に言わせると行為中の女のようだと言っていた。雌猫は普段から相手にされない男に色仕掛をしようとしていたらしい」
「馬鹿ですか」
「発情期で冷静に考えられなかったのだろうな。一人で詰所まで来た。雌猫を街のどこかで見つけた雄達は後を付け襲う機会を伺っていた。雌猫は詰所近くで詰所の中を伺っていた時に後ろから襲われた。
クロードはいつも剣を振っていた。同じ夜勤の時は俺もクロードと剣を振るう。クロードはいつも同じ場所で剣を振るうんだ」
「隊長がいつも剣を振るう場所…。詰所の外れの所ですか?」
「そうだ」
「あそこは獣人側です」
「昔は今程厳しくない。おまけに詰所は街から遠い。人族の騎士でも獣人側に入る事は出来た」
「今では考えられません。人族と同じ詰所で建物の中は自由に行き来出来ても、許可なく獣人側の地を踏めません」
「ああ。俺が規則を決めた。もし獣人側の地に許可なく入る事が出来なければクロードは死なずに済んだかもしれない。悔やんでも悔やみきれない。 嫌、クロードなら規則を破って入ってきそうだがな」
「………」
「クロードは剣を振っていた時に襲われてる雌猫を見つけた。他の騎士に声をかけクロードは我先に駆け付け雄達を戒め諭した。同意のない行為はやめろと」
「酩酊状態の獣人相手が聞く訳ありません」
「クロードも分かっていたはずだ。だがクロードは獣人を一人の人と見ていた。同じ国に住む人だと」
「それは聞いてますが…」
「戦争で他国と戦えば剣を向ける。俺達騎士は国の為に振るう剣だ。国を護る為、住む人を護る為に剣を抜き剣を振るう。そこに躊躇いはない。
だが、クロードにとって同じ国に住む我等獣人は剣を向ける相手じゃない。剣を抜く相手じゃないんだ」
「どうして、どうして隊長は兄上に言わなかったのです。酩酊状態の獣人は獣と同位。獣は人ではありません。迷わず剣を抜けとどうして言わなかったのです」
「俺も何度も言った。だがクロードは獣相手にも峰打ちで殺しはしない。心優しい奴だが心が強い奴だった」
「だから峰打ち…」
「そうだ。獣相手に峰打ちをした。酩酊状態の獣人は獣と同位と分かっていた。だから峰打ちをした。だが酩酊状態の獣人は痛みなど感じない。己の欲望に忠実で欲望の為に躊躇いもない。虎や豹だ、獣の本能で狩りは得意だった」
「許せません。雌猫も虎や豹も、俺は許せません」
「俺もだ。だから酩酊状態の獣人に発情を止める注射を研究し開発して貰った」
「それって」
「酩酊状態なら発情が止まる程度で何も問題ないが、発情期でない時に打てば男としての機能がなくなるだけだ」
「匂いは?」
「匂い?あー、施設に入る者達は嗅覚の機能を取るが注射だけで嗅覚は無くならない」
「隊長はどうしてそれを知ってるんですか?まさか…」
「俺は実験体に己を差し出した」
「え?」
「俺に雄としての機能はない」
「隊長…」
コンコン
「隊長、ガイです」
「入れ」
俺は部屋に入った。
「アイリス嬢を送り届けて来たか?」
「はい」
「そうか。俺の大事な友の妹だ。俺はクロードの代わりに大事な妹を護らないといけない」
「それは」
「ガイ、クロードとの約束だ。アイリスを頼むと。息の根が止まる前に友から託された願いだ。 ガイの番でガイは狼だ。だが俺も友の願いは絶対なんだ、分かってくれ」
「あの隊長」
「何だ」
「アイリスの兄上と隊長はどちらが強いのですか?」
「体術は俺の方が勝っていた。だが剣の腕はクロードの右に出る者はいなかった」
「それならどうして兄上は剣を抜かなかったのですか」
「ガイは誰から聞いた」
「ラシュ殿とアイリスから少しです」
「ガイ、発情期の雌がいたらお前ならどうする?」
「俺はつがいになる雌一人だけですので」
「そうだったな。狼は生涯一人の雌を大事に大切にする」
「はい」
「他の種族の雄、例えば俺のような獅子、虎や豹ならどうなると思う」
「お互い発情期ならその場の勢いとかで発散すると思いますが」
「そうだ。クロードが庇った獣人は猫だった。そして発情期で発情していた。襲っていたのは虎や豹達だった」
「え?」
「虎や豹達も発情期に入っていて発情していたとはいえ酩酊状態になる程ではなかったはずだ」
「はい」
「発情した雌を目の前にし、それも猫族だ。分かるな?」
「発情が昂った」
「そうだ。発情が昂り酩酊状態になった。我を忘れ我先にと発情してる雌に襲いかかった」
「どうして雄ならまだしも雌が夜に出歩いていたのですか。それも発情した状態で。襲ってくれと言ってる様なものです」
「そうだ。襲ってくれと言ってるものだ。雌だって分かってただろうな。獣人には発情期がある。番や恋人がいる者は愛を深める期間だ。番や恋人が居ない者は家で大人しくしているしかない」
「はい」
「だが街には発情期に入った雄雌の者達が集まりお互い発散する場所もある」
「はい」
「それも獣の性だ。目を瞑るしかない」
「はい」
「雌猫が居たのは街の外れ、境界線近くだった」
「はい」
「雌猫は好きな男が居たそうだ」
「は?」
「好きな男は人族で騎士団の騎士だった。その日夜勤で騎士団の詰所に居ると知っていたらしい。発情中は人族の男でも色香が分かるらしい。熱い吐息や潤んだ瞳、人族に言わせると行為中の女のようだと言っていた。雌猫は普段から相手にされない男に色仕掛をしようとしていたらしい」
「馬鹿ですか」
「発情期で冷静に考えられなかったのだろうな。一人で詰所まで来た。雌猫を街のどこかで見つけた雄達は後を付け襲う機会を伺っていた。雌猫は詰所近くで詰所の中を伺っていた時に後ろから襲われた。
クロードはいつも剣を振っていた。同じ夜勤の時は俺もクロードと剣を振るう。クロードはいつも同じ場所で剣を振るうんだ」
「隊長がいつも剣を振るう場所…。詰所の外れの所ですか?」
「そうだ」
「あそこは獣人側です」
「昔は今程厳しくない。おまけに詰所は街から遠い。人族の騎士でも獣人側に入る事は出来た」
「今では考えられません。人族と同じ詰所で建物の中は自由に行き来出来ても、許可なく獣人側の地を踏めません」
「ああ。俺が規則を決めた。もし獣人側の地に許可なく入る事が出来なければクロードは死なずに済んだかもしれない。悔やんでも悔やみきれない。 嫌、クロードなら規則を破って入ってきそうだがな」
「………」
「クロードは剣を振っていた時に襲われてる雌猫を見つけた。他の騎士に声をかけクロードは我先に駆け付け雄達を戒め諭した。同意のない行為はやめろと」
「酩酊状態の獣人相手が聞く訳ありません」
「クロードも分かっていたはずだ。だがクロードは獣人を一人の人と見ていた。同じ国に住む人だと」
「それは聞いてますが…」
「戦争で他国と戦えば剣を向ける。俺達騎士は国の為に振るう剣だ。国を護る為、住む人を護る為に剣を抜き剣を振るう。そこに躊躇いはない。
だが、クロードにとって同じ国に住む我等獣人は剣を向ける相手じゃない。剣を抜く相手じゃないんだ」
「どうして、どうして隊長は兄上に言わなかったのです。酩酊状態の獣人は獣と同位。獣は人ではありません。迷わず剣を抜けとどうして言わなかったのです」
「俺も何度も言った。だがクロードは獣相手にも峰打ちで殺しはしない。心優しい奴だが心が強い奴だった」
「だから峰打ち…」
「そうだ。獣相手に峰打ちをした。酩酊状態の獣人は獣と同位と分かっていた。だから峰打ちをした。だが酩酊状態の獣人は痛みなど感じない。己の欲望に忠実で欲望の為に躊躇いもない。虎や豹だ、獣の本能で狩りは得意だった」
「許せません。雌猫も虎や豹も、俺は許せません」
「俺もだ。だから酩酊状態の獣人に発情を止める注射を研究し開発して貰った」
「それって」
「酩酊状態なら発情が止まる程度で何も問題ないが、発情期でない時に打てば男としての機能がなくなるだけだ」
「匂いは?」
「匂い?あー、施設に入る者達は嗅覚の機能を取るが注射だけで嗅覚は無くならない」
「隊長はどうしてそれを知ってるんですか?まさか…」
「俺は実験体に己を差し出した」
「え?」
「俺に雄としての機能はない」
「隊長…」
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