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「どうぞ私を殺して下さい」
私は両手を広げ抵抗する意思がない事を告げた。
そして目を瞑った。
目を瞑ると走馬灯のように幼い頃からの記憶が頭の中を駆け巡った。
私の家は子爵家。お父様は資産家で有名で私は幼い頃から誘拐されたり、馬車で出掛ければ必ず誰かに襲われる。
子爵なのに資産家?そう思う人は多い。
領地経営も確かに潤っている。でも領地経営だけなら資産家と呼ばれるまでにはならない。
お父様と結婚したお母様は侯爵家の令嬢だった。お母様が結婚した時にお祖父様から貰った鉱山。ただお金だけがかかる何もない鉱山だった。
お祖父様も騙されて買った鉱山。侯爵家がまだ裕福の時に買ってそのまま放置されていた。
子爵家でも領地経営が潤っていたお父様と侯爵家のお母様との結婚はお金の援助。持参金の代わりとして差し出せたのが鉱山だけだった。
野心家のお父様が何故侯爵家を乗っ取らなかったのかって?
お父様はお金には強欲でも爵位には興味はない。繋がりさえ出来ればそれでいいらしい。侯爵家のお墨付き、それが信用も信頼も得られるって言っていたわ。
お父様は何もないただの鉱山を掘り進めた。そしたら金が採掘された。それからお父様は投資をした。お父様が投資すれば儲け、儲けたお金で金貸しにもなった。
私は子供の頃から見ていた。
お父様からお金を借りてる人達はなんでお金が無いのに豪遊するの?この人達は馬鹿なの?お金が無いから家を存続出来ないのになんで自分達の身なりにお金を使うの?
お金は降ってこないのよ?
コツコツ働く平民を見なさいよ。私達みたいに贅沢は出来なくても日々暮らしているわ。ドレスや宝石を着けなくても温かい食事に家族の愛が溢れているわ。
政略結婚の私の両親とは大違い。
この家は家族の愛は冷めきっているもの。
女でも家の跡継ぎになれるこの国で血筋こそが重要なの。誰の血筋か、それだけで跡継ぎが決まる。お父様の血筋を受け継いだのは私だけ。
お父様はお金が大事な人。お父様の愛人になりたいと近寄って来てもお父様は見向きもしないわ。
お母様は愛しているから?いいえ違うわ。
お母様は元からお父様を愛していない。子供を一人産む、それがお父様との約束事だった。『俺の子供を産んだら好きにしてくれ』お父様にそう言われたらしいわ。
ただ、『愛人を作ってもいいが子は作るな。それだけ守ってくれれば実家への援助もお前の生活も守ってやる。俺の子はエリーゼだけだ』
別に私を愛している訳じゃないのよ?
自分の子供だと確信があるからだけ。
貴族令嬢のお母様はお父様と結婚するまで生娘だった。夫に捧げるもの、それは貴族令嬢なら当たり前。勿論私もそう教えられているわ。
私がお腹に宿るまでお父様はお母様を邸から出さなかった。お母様が邸の外に出られるのは夫婦で出席するお茶会や夜会だけ。それだって常にお父様が側にいて監視付き。周りからはお父様がお母様を愛していると思われていたらしいわ。
でも残念。ただの監視。お母様が他の男性と関わらないようにね。
お母様は私を産んでようやくお父様から解放された。監視のないお茶会、監視のない夜会、今は好きなようにしているわ。
どれだけドレスを買っても宝石を買っても、どこに出掛けても、お父様は何も言わずサインをするだけ。
生き生きしているお母様を見ているとそれはそれで幸せなのかも…と思う。
私だって別に窮屈な生活はしていない。
ただ、少し寂しいだけ…
ただ、少し愛してほしいだけ…
贅沢な生活よりも家族の温もりが少し羨ましいだけよ。
少しね…
両親の愛はあっても政略結婚をしたお母様。両親の愛がなくても政略結婚する私。
結局は同じなのよ。
両親が仲が良くても悪くても政略結婚の先には何もない関係。政略結婚の先は自分達が作る愛の物語だから。
お父様とお母様はその物語を作る努力をしなかっただけ。役目の一つとして淡々とこなしただけ。
夫婦としての幸せは築けなかったけど個人個人は幸せを築いているわよ。
だから私は政略結婚の先の物語を作りたいの。私の旦那様になる人と愛の物語を作りたいの。
寂しさも愛も、幸せもその人と築いていきたい。
願うなら相手にもそう思う気持ちがある人がいいな…。
『エリーゼ、お前の婚約者が決まった』
お父様からそう告げられた。
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