私を殺して〜貴方に殺されるなら本望だわ〜

アズやっこ

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7 ヒュース視点


俺はあまりに難なく行き過ぎる事に違和感を覚えた。

子爵も時もそうだった。

まるで…




俺はようやく妹の仇を討った。

はずだ…

目の前で倒れている彼女を見下ろし、頬を伝う雫は汗か涙か…、それとも彼女の返り血か…。

後は自分の腕を切り公爵家に帰ればいい。

どうしてだ。どうして足が動かない。


「ヒュース様急いでここを出ましょう」

「分かってる」


いつまでも来ない俺を騎士が迎えに来た。


騎士も少しずつ公爵家の息がかかった者に変えた。使用人もだ。今日勤務している者達は公爵家の息がかかった者達で固めた。

執事やメイド長は今日休みだ。エリーゼ付きのメイドはこちら側に付いた。

順調に事を運んできた。順調過ぎるくらい順調に…。

順調に?

あの子爵が気付かなかった?

子爵が気付かない訳がない。確かに子爵家は使用人の入れ替わりが激しい。給金が安いとか使用人に無体を働くとかそんな事じゃない。働くには良い環境だと思う。

ただ、金を借りた者が怒鳴り込んでくるだけだ。

借りたものは返す

当たり前な事をしない者が多い。少し強引な取り立てに腹を立て子爵家はいつも物騒だ。使用人は盾にされ、そして辞めていく。

それに、

もしかして子爵は本気を出さなかった?

俺が剣を構えた時、子爵も剣を構えた。それは俺もこの目で見た。子爵の剣の腕は知っている。今までも賊や輩を反撃し子爵家の騎士よりも強い。

そんな人を俺が殺した?

ハッ!子爵は剣を構えただけで剣を振っていない!俺に反撃もしていない。ただ剣を持ち俺に斬られただけだ。

まるで…

『はいどうぞ』と言わんばかりに…。



騎士達が家中強盗が入ったように荒し、使用人達は鍵の付いた部屋に口元を塞ぎ閉じ込めた。

血だらけの俺は騎士達と公爵家に行き、街の騎士団と子爵家へ戻った。

そして寝室で死んでいるエリーゼを抱きしめた。


「エリーゼは賊に捕まり、だから俺は公爵家に助けを求めに行った…。

行かなければ…、俺が代わりに殺されれば…、すまないエリーゼ、俺が行かなければ、エリーゼは殺されなくて…、良かった…。

ああぁ……、許してくれエリーゼ、俺を置いて行かないでくれ。

愛してる、愛してるエリーゼーーー」


俺は涙を流しエリーゼをギュッと抱きしめた。


街の騎士達が家の中をくまなく調べた。

まるで義母と己の血を混ぜるように子爵は義母を抱きしめていた。

書斎から、ここまで、来たのか…?

絶命したはずだ。何度も斬りつけ動かなくなったのを俺は確認した。

子爵の執念に俺は背筋が凍りついた。


「この扉の鍵を壊せ」


エリーゼの私室で騎士達の声が聞こえ俺はエリーゼの私室に入った。

衣装部屋の奥、鍵のかかった扉。鍵が壊され扉が開いた。

小さな祭壇に祭壇の前に数個置かれた小さな人形。

そして…、

アニーと一緒に笑う子供の頃の姿絵。綺麗な箱に入れられたブローチ。

まるで大切な宝物のように薄暗い部屋の中で光り輝いていた。


毎朝寝室からお互い私室へ戻り身支度を整える。私室から出てきたエリーゼはいつも俯き真っ赤な目をして出てくる。

そして俺を見つけると気丈に振る舞う。

知っていた…、知っていて見て見ぬふりをしていた。

エリーゼの弱さも強さも知っていた。子爵の娘に産まれその定めに抗い諦め受け入れ、そして気丈に振る舞う。

弱さと強さとその清らかさを、その姿を何度も目にした。

だから俺は仇だと知っていてもそれまでは俺が守ってあげたいと…。

ただ、エリーゼよりも妹の仇討ち、そっちが勝った。

でもどうだ。

今の俺は…どうだ…

エリーゼを失いこの迫りくる喪失感…

エリーゼの寂しさも悲しさも知っていた。それに温もりも優しさも。

あの笑顔が恋しい…

俺を呼ぶ可愛い声が恋しい…

恥じらう顔も、

俺だけに見せる華奢な体も、

艶めかしい妖艶な姿も、

全てが恋しい…、


エリーゼ、君が、恋しいよ……



俺は唯一の生き残りとして子爵になった。毎日何かがすり減っていくような感覚に少しずつ狂っていくのが分かる。

俺に群がる人達、俺の顔が金に見えるらしい。俺の嫁に娼婦の代わりにと娘を差し出す親達。

馬鹿馬鹿しい


静かな子爵家に俺は一人…


『ヒュース様』


その声に俺は後ろを振り返る。


「エリーゼ」

『ヒュース様おつかれですか?』

「ああ、疲れた…。エリーゼ抱きしめさせてくれ」

『ヒュース様、愛してます』

「エリーゼ、俺も愛してる。俺の愛しい人はエリーゼだけだ。もう離さない、永遠に…」


俺は今日も幻影エリーゼと生きていく…



            完結


感想 2

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みんなの感想(2件)

まゆ
2023.10.01 まゆ

ふわ〜
めっちゃ好き
復讐に頭いっぱいで1番大事なもの自分で無くしちゃって、生きる気力も無くすの最高〜!
ヒロインが生きてたら何があっても手を取り合って側にいてくれただろうに…😊
ヒュースに囁いてやりて〜
可哀想可愛い😊
そのうち後追いしちゃいそう🥺

ヒロイン父もメリバで最高
捨てられた女性だから溺愛してたらそれっぽくできたでしょうに…父、狂愛でしたね。
母は父のこと1ミリも好きじゃなかったんでしょうか?
というか母…捨てられて男見る目なく、父に目をつけられ男運もなく!最高!

2023.10.02 アズやっこ

まゆ様

コメントありがとうございます。

父親の愛は狂愛です。
母親は父親の事を1ミリも好きではありませんでした。だから余計に父親は母親に執着したのではないのかと思います。

事終わりそれから後悔しても遅い。ヒュースは今もエリーゼの幻影と恋していると思います。

また他作品がまゆ様の目に止まれば幸いです。

解除
Vitch
2023.04.22 Vitch

【妄想劇場】
数年後、公爵と子爵が刺殺された。
下手人は公爵夫人だった。

取り調べによると、夫人が【息子】を訪ねると、子爵が先の子爵父娘殺害計画を、うわ言のように語っていたという。

【息子】を騙った【偽物】と、加担していた公爵を夫人は殺した。
夫人は全てを自供した後、牢の中で自害した。

2023.04.22 アズやっこ

Vitch様

コメントありがとうございます。

妄想劇場、偽物ヒュースは誰かに殺されるのを待っているのであながち間違いではないんです。

本作品がVitch様の目に止まり読んで頂けた事嬉しく思います。今後投稿する違う作品も目に止まる事を願っています。

解除

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