厨二病設定てんこ盛りの王子殿下が迫って来ます。 〜異世界に転生したら、厨二病王子の通訳者にされました〜【R18版】

笛路

文字の大きさ
25 / 196

25:解るだろう?

しおりを挟む
 


 晩餐が終わり、部屋に戻りました。
 バスルームでバスタブの可愛さや、王族の居住区ならではの最新の設備にひとしきり感動しつつ湯から上がりました。
 侍女のザラに髪を乾かして貰った後にナイトティーを飲んでいましたら、夫婦の寝室に繋がっているドアがガタガタと異音を発していました。
 ザラが私の肩に厚手のガウンを被せ、前を閉じるように言いつつドアに向かったので開けなくていいと言いました。

「ですが……」
「いいの。ザラ、下っていいわ。誰かに何か言われたら貴女は部屋にいなかったから、対応できなかったと言いなさい」
「……かしこまりました」

 ガタガタ、ガチャガチャ、とドアが鳴り続けるのを申し訳無さそうな顔で見つつ、ザラが部屋から出て行きました。

 ――――さて。

 多少煩いですが前衛的な音楽だと思う事にし、ナイトティーの続きを堪能していましたら、ふと静かになりました。
 やっと諦めたのかと思っていましたら、ガチャリというありえない音が聞こえ、次の瞬間にはバーンとドアが勢いよく開く音が部屋に響き、セオドリック殿下が登場しました。

「ふん! 鍵程度で我を阻もうなど、ルシファーがへそで茶を沸かすぞ」
「ブ…………ゴホッ」

 どんな慣用句ですか。
 ちょっと吹き出してしまったじゃないですか。

「どうした? 風邪か?」
「いえ……それよりも、殿下はこのような時間なのに、何故、私の部屋に、来られたのですか?」

 淑女の部屋にこんな遅い時間に何の用だ、とほぼストレートに伝えましたが、何故かフフン! とか鼻息が聞こえました。

「夫婦の寝室に我が赤き果実がいなかったのでな。迎えに来てやったぞ!」
「……なるほど?」

 セオドリック殿下はラフそうなズボンとチュニックを着られていました…………ガントレットを着けたままで。
 たぶん、寝られる恰好なのでしょう。たぶん。

 色々とツッコミたいのをグッと飲み込んで、ドアの前でいつもの変なポーズをキメている殿下の前に立ちました。
 殿下はチラチラと私の胸を盗み見ては、挙動不審に視線をずらされていました。

「セオドリック殿下……」
「っ! ん⁉ 何だ?」
「おやすみなさいませっ!」
「ぬおっ⁉」

 両手でグイッと殿下の胸を押して、隣の部屋に押し戻そうとしましたが、抵抗されてバタバタしている内に右手首を掴まれ、左胸が何故かがっちりと握られていました。

「っ!」

 左手で力の限り殿下の頬を平手打ちしました。

「何をする!」
「こちらの台詞ですわ! 手を離して下さいませ!」
「…………」
「っ! やっ……」

 私の言葉にムッとされた殿下が胸をぐにぐにと揉みながら左手を腰に回し、抱き寄せて来ました。
 何をするのですかと睨み付けると、少し悲しそうな顔をされました。

「……解るだろう?」

 切なそうに言われても、全くもって、何も、解りません。解りたくもありません。
 胸の先やお腹が痛いほどに何かを感じているのも、絶対に気のせいです。

「男が女の部屋に来る理由はひとつしか無い」
「解りませんっ! 出て行って下さいませ。これ以上は人を呼びますわよ」
「……解った」

 何故、酷く傷付いたような顔をされるのですか! まるで私が悪者みたいではありませんか。イライラ、本当にイライラします。
 だから、殿下の顔が近付いて来ている事に気付くのか遅くなりました。
 あっ、と気付いた時には、私の唇と殿下の唇が重なっていました。
 ちゅ、と軽いリップ音が鳴った後、殿下の泣きそうな顔が離れて行きました。

「…………そんなに嫌そうな顔をしないでくれ」
「……」
「すまなかったな。おやすみミラベル…………愛している」

 セオドリック殿下は呆然とする私を置いて、部屋から出て行きました。

「…………ばか」

 胸が、喉が、ギュッと締め付けられて、とても苦しいです。ハラリと落ちてくる雫は、きっと髪の毛がまだ濡れていたからなのでしょう。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...