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29:ベッドの中に……。
しおりを挟む頬が温かいです。
遠い昔にお母様からよく撫でていただいていました。
……夢でしょうか。
こんなに温かい夢ならば覚めてほしくはありませんね。
「ミラベル」
止めてください、揺すらないで下さい。
ふわふわとして心地良いのです。目を覚ましたくないのです。
「ミラベル」
「ん…………」
「ミラベル・メヒテルト・イルセ・デ・アップルビー」
「……」
目が覚めました。
もんのすごく長く、妙に聞き慣れてしまった名前のせいで、心地良い夢からバッチリと覚めてしまいました。
ちらりと窓の外を見ましたら、真っ暗なのでまだ夜中のようです。
「……」
「待っていろと言ったのに、グースカと寝おって……」
「……セオドリック・アドなんちゃら四世殿下、何をしておられるのですか?」
目が覚めたら、目の前にセオドリック殿下のキラキラしいご尊顔がありました。
私はベッドの中で殿下に抱き締められていました。
……ベッドの中で!
「まさか、人の名前をほぼ覚えていないのか? 我はセオド――――」
「煩いです」
「お前はすぐにうる――――」
「煩いです。殿下、いったい、何を、していらっしゃいますの?」
「添い寝だがぐぁぁぁっ」
どうしたのでしょうか? セオなんちゃら殿下がベッドから転がり落ちて、両手で鼻を押さえていらっしゃいます。
「ほまへ、ほんひへはぐっはな⁉」
「え? 何語を話されているんですか? 嫌ですわ、気高き令嬢が拳で語るなど、あり得ませんことよ?」
「ひひほへへいふはほ」
「えぇ?」
右手を耳にあてて『よく聞こえません』のジェスチャーをしました。
セオドリック殿下は、両鼻から鼻血をダラダラと流していましたので、呼び出しベルを鳴らして夜間担当の侍女を呼びました。
「きゃぁぁ、どっ、どうされたのですか⁉」
「知りませんわ。急に鼻血を垂れ流しはじめましたの。絨毯が汚れるので、どこかに連れて行って頂けます?」
「ひらへる!」
「殿下、何を言われているか判りませんわ。出て行って下さいます? おやすみなさいませ」
殿下は何かモゴモゴと言いながらも素直に部屋から出て行って下さいました。
それにしても、今度はどこから入って来られたのでしょうか?
繋ぎのドアは、家具を移動させて塞ぎましたのに。
翌朝、目覚めるとまたもや目の前にセオドリック殿下がいました。
もう一度鼻めがけて拳を飛ばそうとしましたが、受け止められてしまいました。
「寝顔はアンゲルスのようだったが。我が赤き果実は少しお転婆が過ぎるな――――」
セオドリック殿下が話しながら顔を近付けて来て、ちゅ、と軽く口付けるとともに、ゆったりとお尻を揉んで来ました。
何となく足に当たる固いモノの存在が気になってしまいます。
「ちょっと!」
「ふっ……顔が真っ赤だ」
「っ――――」
「我は着替えてくる。朝食はこの部屋で二人で取るよう伝えている」
そう言ってセオドリック殿下はバルコニーへ繋がっているドアから出て行きました。
――――侵入口はそこなのですね。
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