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80:絶対に、嫌です。
しおりを挟む王族の男性陣のみでもう少し会談するとの事で、議事堂を出て行くように、とブラッドフォード王太子殿下が文官や武官たちに指示を出してありました。
「ミラベル嬢は、少し残りなさい」
「…………はい」
これ以上、何を貶められるのでしょうか?
あの男の子供を身籠ったと言われ。
姙娠しているかもしれない、テオ様の子供を人質にされて。
「そうだ、将軍。貴殿の部屋に色々と用意しておいた。もちろん、美しい花々も」
「これはこれは。手厚い待遇、感謝いたします」
ブラッドフォード王太子殿下が去り際の男を呼び止めていました。
男はお礼を言い、自国のエフセイ王太子殿下にも挨拶をして議事堂を出て行きました。
去る直前に、「夜、部屋に来い。奉仕くらいは出来るだろう?」と言われました。
ロブにも聞こえていたらしく、ごく小さな声で「クソ野郎が」と罵っていたのには、少し肝を冷やしました。
議事堂には、国王陛下、ブラッドフォード王太子殿下、テオ様、エゾノイ王国のエフセイ王太子殿下とその側近の方々の計六名が残られました。
静まり返った議事堂に、こちらに向かって来ているテオ様の足音が響き渡っています。
今一番、お顔を見たくない方が近付いて来ます。
「ミラベル、立てる?」
「っ⁉」
テオ様が私の足元に跪いて、そっと手を差し出してきました。
膝に置いていた手を、触れられる直前に胸の前に引くと、とても悲しそうな顔をされてしまいました。
「何も教えてあげられなくて、ごめんね」
テオ様が、更にそっと手を伸ばして来て、私の手を両手で手包み込みました。
その手に、ゾワリとした吐き気にも近い気持ち悪さを覚えました。
「ミラベル嬢、こちらに来てくれないかい?」
「っ、はい!」
ブラッドフォード王太子殿下に呼ばれて、テオ様の手をバッと振りほどき、王太子殿下の元へと向かいました。
その後ろで、テオ様がどんな顔をしていたのかは、私にはわかりません……。
ブラッドフォード王太子殿下の横に座るように言われ、そっと腰を下ろしました。
「ミラベル嬢、この度は本当に迷惑をかけた。私が出来る事であれば、いくらでも償いをしよう」
急に、向かい側に座っていたエゾノイ王国のエフセイ王太子殿下がそう仰られました。
私は言われた意味がわからず、何も反応が出来ないまま、ただ不躾にエフセイ王太子殿下のお顔を見続けていました。
「……ミラベル?」
テオ様の不安そうな声を聞いて、ハッと覚醒しました。
「ご厚情を賜り、感謝いたします。その、可能であればですが、修道院に入れれば、と思っております。エゾノイ王国将軍様とだけは――――」
――――絶対に、嫌です。
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