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116:これで、仲直り……?
しおりを挟むテオ様が床に膝をついた状態で、ベッドに上半身を投げ出されました。
「婚約式の準備で、誓約書を読み進めていて、気付いたんだ。他にも色々と問題はあったが……ミラベル以外の可能性は絶対に嫌だ」
「……でも、サインせねば、婚約も結婚もできないのでしょう?」
「…………ん」
それなら、素直にサインすればいいと思うのですが。と、つい言ってしまいました。
テオ様がガバリと頭を上げ、信じられないものを見るようなお顔になり、徐々に眉間に皺が寄り、険しい目つきになりました。
――――あ、やっちゃった。
「ミラベルは…………いや、いい。聞いたところで、だな」
「え?」
テオ様がスンと真顔になり、何かを一人で納得されると、立ち上がって私を見下ろしながら、一気に話されました。
「誓約書は、書籍だ――――」
――――王族に名を連ねる者たちを護るものでもあり、縛るものでもある。
内容は婚姻を控えた者にしか開示されない。
何代か前まで婚姻は、国同士の繋がり、国を栄えさせる為などが主な理由だった。誓約書はそれが当たり前だった時の内容のままだ。
それでも……それなのに、現在でも法的効力を持っている。
私達の望まぬ結果に行き着かぬよう、内容の訂正を評議会に提出し、殆どは可決された。
だが、後継者と王位継承権だけは、それに関わる全ての王族の承認が必要だったが、遠方にいる者も多く、時間が足りなかった――――。
「私は、なんとしてでも、ミラベルとの未来を護りたい。が、ミラベルはそうではなかった。ということなんだろう」
テオ様の想いが嬉しかった。
テオ様の優しさが嬉しかった。
テオ様を怒らせるつもりも、落胆させるつもりもなかったのです。
ただ、私は、誓約書へのサインは、愛し合っている証で、テオ様と家族になれる大切なもの、そう思っていたのです。
――――伝えないと。
「違うの……」
「何が?」
底冷えのするような目つきで睨まれました。
心臓がジクジクと痛むような気がします。
「大切に思う場所が、ものが……違ったの」
テオ様は、未来を見てくれていた。
私は、目の前の事を見ていた。
ベッドから下りて、テオ様の目の前に立ち、テオ様の軍服の裾をちょこっと握りしめて、勇気を振り絞りました。
「ごめんなさい。テオ様、未来を見てくれて、ありがとう」
「……ん」
テオ様が、壊れ物を扱うかのように、そっと抱き寄せてくださいました。
そして、頭をゆるゆると撫でながら、ポツリと「私もすまなかった」と謝られました。
「あそこだけ聞いたら、勘違いもするだろう――――」
はい、見事に勘違いしました。と言おうとしていました。
これで、仲直り。そう、思っていました。
「――――が、何故、私の愛を疑えるのか、甚だ疑問だ。どこまでもミラベルに刻み込んでいたと思ったのだがな? 足りなかったということか? そういうことなんだろうな。幸いなことに、まだ夕方だ。時間はたっぷりある。しっかりと覚えるんだよ?」
――――あらら?
「えと…………言葉で?」
テオ様が一瞬きょとんとし、直ぐに真顔に戻り、口角だけを吊り上げて嗤われました。
「身体、に決まっているだろう?」
――――あらららら?
途轍もなく、身の危険を感じるのですが…………え? 気のせい? …………いえいえ、コレ、絶対に気のせいでは…………あ、はい、わたくしも……愛していますわ。
あ、え? ちょ…………い、いえ、はい、愛して…………あんれぇぇぇぇ⁉
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