落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

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 何やかやと激流のような流れに逆らえずにいたら、いつの間にか北地区にある高層住宅の中層フロアの一室にやって来ていた。
 しかも今、男の人と二人っきり。さらにいえば、いきなりシャワーを浴びてくるからベッドの上で待っておけと言われて……。

(ベ、ベベベベベベッドって……そ、そそそそそういうことをするつもりってこと!?)

 脳裏に浮かぶのは、まだそういうことを経験もしていないが、年頃の娘として淡い知識を総動員させたピンク色の妄想。
 学院でも一般知識としては一応習うので、男女の生命の営みについての知識も少しは持っているのである。性格はサバサバしていても、最低限の知識くらいは持ち合わせているのだ。

 それに興味がまったくないというわけでも……ない。

(ヤ、ヤ、ヤるって……やっぱりそういう……ことだよね? シャ、シャワーまで浴びるって言ってたし)

 いきなりのことで頭の中がパンパンになって、そのまま逃げ帰るという簡単な選択さえ思いつかずにいた。

(で、でもあのリリーシュ先生が推薦してくれた人で……。だったらこれから行うのって、しゅ、しゅ、修業の一環ということなんだよ……ね?)

 モンモンと膨らむ妄想に、全身の体温が急上昇していく。
 思わず部屋を見回してしまい、自分の初めてはどういうところで行うのかという思考に移ってしまっていた。

 この高層住宅は、結構家賃も高いはずだし、人気のある物件でもある。それをあっさりと手に入れるということは、リリーシュの凄さが垣間見えるものだ。

 大きなリビングに寝室、ダイニングキッチンやトイレと浴槽も設置されている。一人で住むには少し大きいと思われるほどの部屋。
 今いる寝室だけを取ってみても、ホテルにあるような巨大なベッドや寝室専用の冷蔵庫、クローゼットなどがあり、まったくもって至れり尽くせりである。

 するとそこへガチャリと寝室の扉を開ける音が聞こえ、反射的に身体がビクッと硬直してしまう。

「ふぃ~気持ち良かったぁ~。お前もどうだ?」
「け、け、結構でしゅ!?」
「そっか? まあ、これからヤるし、汗もかくと思うしな。その後でもいいか」

 ドクンッと激しく高鳴る心臓の音。

(あ、あ、あ、汗をかくようなことを……ヤる……!?)

 ああ、もう間違いないようだ、と心が震える。
 初めて会った人と、いきなり男女の営みに望むなんて思ってもいなかったが……。

(…………決して悪い人じゃないと思うけど……!)

 チラリと、タオルで頭を拭いているイオを見つめる。着用しているバスローブの胸元がはだけており、そこからは服を着ていて分からなかったが、厚い胸板が視界に飛び込んできた。
 男の身体というものに思わずドキッとしてしまった。それによく見たら、胸には細かい傷も走っている。

「――ふぅ。よし、んじゃさっそく、ヤるか」

 とうとうその時間がやってきてしまった。

「おい、アミッツ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「そう緊張すんな。お前はただ、ベッドに横になってればいい」
「よ、よよよよよ横に!?」

 これがいわゆる天井のシミを数えていたら終わるというやつだろうか。

「そうだ。ほれ、オレの言う通りにしてみろ」
「だ、だけどボ、ボボボボクはその、は、は、初めてで!」
「そりゃ見たら分かる。オレが初めてだってことはな。いいからオレに全部任せろ。すぐに終わるから」

 イオが近づいてきて、そっと肩に触れてきた。

(ああ~っ、マ、マザー、ごめんよ! ボクは今日、今日、お星様になってしまうかもぉぉ!)

 顔を真っ赤にしながら、優しく肩を押されて力なくベッドに仰向けになってしまう。

「……さて」
「あ、あのっ!」
「何だ?」
「ボ、ボクも強くなるためだし! リリーシュ先生も応援してくれてるから頑張るけどっ、その……で、できれば優しくしてほしいんだっ!」
「へ? 別に最初から乱暴にするつもりなんかねえぞ」
「そ、そう! じゃ、じゃあお願い……しますっ!」

 強く瞼を閉じる。
 多分、これから服を脱がされていくのだろう。上からだろうか、それとも下からだろうか。

(できれば下は最後にしてほしいな)

 その時、最初に触れられた場所、それは――額だった。

「…………へ?」
「今からオレの魔力を流すけど、自然体でいいからな」
「ま、魔力……?」
「ああ、その方がお前という人間の構造が分かり易いし」

 構造……何のことを言っているのかサッパリ分からない。すると額に添えられた手から、陽だまりのような温もりが伝わってくる。

「ん……」

 とても優しく、心が穏やかになるような温もりが全身に行き渡っていく。頭からつま先まで、まるで誰かに抱きしめられているような感覚があった。
 先程まで感じていた緊張と不安が一気に払拭されていく。
 しかしじんわりと身体の内側が徐々に熱くなってきて、少しずつ汗が浮き出てくる。



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