落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

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「―――っ!? お、とうとうやったみてえだぜ」

 アミッツがまた部屋へ籠って三十分後――部屋の奥から大量の魔力量を感じた。
 テーブルに着いているリリーシュも気づいたようで、部屋の扉を見て目を点にしている。

「……ちょ、こ、こんなに凄かったの、あの子の魔力量」
「何言ってんだ。これはまだ一つの扉を開けただけのものだぜ」

 そうは言っても、彼女の気持ちも分かる。この魔力量だけで、すでに勇者として活躍しているリリーシュを超えているのだから。
 魔力量は鍛えることによって無論増やすことは可能。だがどれだけ才能のある者が鍛錬をしたところで、生まれ持った魔力量から精々2~3倍程度が限界とされている。

 何故ならそれ以上は、器を超えてしまい扱えなくなるからだ。
 しかしアミッツの場合、生まれ持った魔力量だけで、すでに鍛錬で増やし続けてきたリリーシュをも越えているのだからそれは驚くだろう。

「あ、け、けどこれ大丈夫? 暴発したりするんじゃないの!?」
「一度開いてっから大丈夫だ。今のアイツの器なら、一つの扉を開けるくらいは何でもねえ。それにもうすぐ……」

 しばらくすると、魔力が感じられなくなった。

「…………あれ? どうなったの?」
「それは多分、もうすぐアイツも聞いてくるだろうな」

 そう予想した通り、扉が突然開いて、

「せ、先生! せっかく開いたのに、扉が勝手に閉じちゃったよぉ!」

 ほとんど涙目状態で教え子が駆けつけてきた。

「はいはい。説明してやっから」
「うぅ……お願いしますぅ」

 イオは近づいてきたアミッツの頭を撫でながら言う。

「まず先に言っておく。よく一人で鍵を開けられたな。やるじゃねえか」
「あ…………う、うん」

 こういった魔法関連で褒められたことなどなかったのだろう。明らかに照れている様子を見せるアミッツ。
 そのまま頭から手を放すと、名残惜しそうにアミッツは上目遣いで見つめてくるが、イオは気にせずに椅子の背もたれに全身を預けて指先を立てた。

「いいか。人の身体ってのは、どうしても無理がかかると無意識にリミッターがかかる。お前の魔力が普段封印状態なのは、そうしておかなければ身体、精神がもたねえからだ」
「うん」
「ま、それは当然よね」

 アミッツもリリーシュも納得済みのようだ。

「だからいくらお前が自分の意志で扉を開けて魔力を引っ張り出したとしても、そのまま何もせずにいると、再びお前の心が無意識に扉を閉じちまうのも当然なんだよ」
「あ……なるほど」
「そういうことだったのね。だからいきなり魔力を感じなくなったってわけか」
「で、でもどうすればいいの? 開けていられる時間なんて、ほんの十秒ほどだったし!」
「そうね。たった十秒じゃ、ほとんど役には立たないかも。戦闘中とか使う度にわざわざ時間をかけて扉を開けるなんて手間がかかり過ぎだしね」

 リリーシュの言う通りだ。いくら大量の魔力があるからといって、それを引っ張り出すため度に時間を費やすようでは、戦闘中にそれが隙となって殺されることもあり得る。

「うぅ……先生ぇ……」
「ちゃんと解決法を教えてやっから涙目で見るな」

 どうも子供と女の涙目には弱いなと辟易しながらも、説明に移ることにする。

「単純な話だ。要はお前の心が扉を一つ開けた程度では、身体や精神に負荷なんてかからないって思わせればいい」
「言ってることは分かるけど、そんなことってできるの、イオ?」
「当然だろ。都合の良いことに、人ってのは慣れる生き物だ。今はまだ開けたばかりで、精神がビックリしちまっていて、それが身体に悪いって心が判断し扉を閉じちまうが。慣れれば勝手に心も成長する」
「なるほどね。つまりは何度も何度も扉を開けて、大量の魔力を身体に滲ませて覚えさせていけばいいってことね」
「そういうことだ。けどこれをやるのは、一日に三回までだ。それ以上は、精神に負担がかかって、下手すりゃ扉の鍵がさらに頑丈になる恐れがあるからな」

 それだけ深層心理の決断は強固だということだ。

「分かったよ! じゃあと二回は大丈夫ってことなんだよね! い、今からやるから、見ててもらってもいい!」
「お、おう。やる気満々だな」
「だって……だって……!」

 するとポロポロと涙を流し始めたアミッツ。

「ちょっ、え? 何で泣くんだよ! オレ良いことしか言ってなくね!?」
「そういうことじゃないわよ」

 と、微笑を浮かべて立ち上がったリリーシュが、泣いているアミッツを優しく抱きしめた。

「本当に今まで辛かったわね。でもこれからが大切なんだからね、アミッツ」
「うん……っ、う……んっ」

 どうやらこれは嬉し泣き、ということらしい。
 これで勇者になれる道筋が見えたのだ。ようやく報われる時が来たのだ。だからこその涙。
 イオも、彼女の泣く姿を見て懐かしさが込み上げてくる。

(そういや、オレも強くなれる方法を見つけた時は嬉しかったな)

 昔のことを思い返し、つい感傷的になったイオであった。



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