落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

文字の大きさ
26 / 50

24

しおりを挟む
「絵の方も雨の見極めも、最初は全然上手くいかなかったに決まってんだろ。何事も最初から上手くいくようなら、落ちこぼれなんてやってねえよ」

 まあ、今も落ちこぼれの勇者をやっている自分が言える立場でもないかもしれないが。

「けど二カ月ほど毎日毎日繰り返すとな。ある日、身体の中にあった扉がガチャリって開く音がしたんだよ」
「も、もしかして先生もボクと同じ体質!?」
「いいや。今のはまあたとえみてえなもんだ。オレは元々魔力量そのものは結構あったからよ」
「そ、そうなんだ」

 何だかガックリと残念そうだが、そんなに一緒の方が良かったのだろうか。本当に稀な体質だから、普通はそう滅多に鉢合わせすることなどないのだが。

「けどオレは何つうか、体術はともかく魔法が苦手でよ。前も言ったけど、コップ一杯分できっちり魔力を溜めるっていうようなコントロールが全然できなかったんだわ」

 元来そういうちまちました几帳面さが要求されるものは苦手だったのだ。

「頭も悪かったし、座学の成績も底辺をウロウロしてたしな。まともなのは体術と、そこそこにある魔力量だけ。けど体術っていっても勇者としてみると、明らかに格下レベル。一般人に毛が生えたようなもんだ。これじゃ、体術や魔法を集中的に鍛えても、オレは上には行けねえって悟った」
「……だから先生は、別のことで一番になろうと?」
「ああそうだ。体術も魔法も天才に勝てねえっていうんなら――」

 イオは自分の目を指差す。

「分析や、観察力で天才を超えてやろうって思ったんだ」
「分析……観察力……?」
「まあ、ピンとこねえわな。ならちょっと見てな」

 イオはスッと目を細めると、そのまままるで誰かと対峙しているかのような雰囲気を醸し出す。
 そこから一歩身を引いて、その勢いで身体を回転させる。

「あ、その動きは!?」

 アミッツはそこで気づいたようだが、まだイオは終わらない。
 回転したと同時に手刀と、下段蹴りを同時に放つ。そこでピタリと動きを止めた。

「今の動き、気づいたか?」
「う、うん! 今のってボクがイグニースさんと戦った時の、イグニースさんの動きだよね!」

 思った以上に観察力と記憶力も優れていたんだなと、イオは感心した。

「そうだ。ちゃんとこの目で観察したからな。速度、威力ともにあの時のイグニースの嬢ちゃんとまったく同じだぜ」
「それが先生の力……なんだ」
「さっきも言ったな。修業をして二カ月で、己の中の扉が開いた音をしたって」
「う、うん」
「その日から、オレは見るものすべての動きを捉えることができるようになった。相手が爪の先ほどの動きをしても、それを正確に捉えることもできたし、僅かな眼球の動き、心臓の高鳴りでの肌の振動なんかもな。そんで、一度見ればそれを再現することもできるようになった」
「す、凄いよそれって!」
「最初は自分の目に戸惑ったぞ。まるで新しい世界に飛び込んだみてえな感じだったしな。生まれ変わったっていう表現が一番近いかもしれねえ。それからオレは、優秀な奴らの動きをひたすらこの目で追うことにした」

 ゴクリとアミッツの喉が鳴る音が聞こえた。

「そうやって初めて人を観察してると、よく分かるんだよ。そいつがどうやって魔法を発動してるのか、発現する魔法に対してどうやって魔力量を量ってるのか、魔力の微細な動きまでもがハッキリと視認することができて、気が付けば一目見るだけで、何もかもが視えるようになっちまってた」
「な、何もかも……」
「それがオレの才能だった。勇者として戦っていける唯一無二の、な」

 自分の力の使い方が分かったイオは、それからどうやったら自分に合った筋力の付け方ができるか、魔法の打ち方ができるかなど、神のような分析力を発揮して、力をつけていった。
 それまで使えなかった呪文や、できなかった体術の動きなども、他の連中の動きを参考にすれば修業次第でできるようになっていたのだ。

「その力を身につけた次の〝勇者認定試験〟の時、オレは初めてランクアップを経験した。しかもスリーランクアップだ。その時のオレの喜びようは、ぜってー見せたくねえけどな」

 通知が来た時は、無意識に涙を流していた。それからはまるでお祭り騒ぎだ。一晩中泣きながら笑い、好きなものを食べまくった。
 リリーシュたち友人が呆れていたが、それでもその嬉しさは止まらなかったのを覚えている。

「その気持ち……分かるよ。きっとボクだって……」
「ああ。その喜びを得るためには、自分の才能を最大限に伸ばさねえといけねえんだ。焦る気持ちも分かるけどよ、自分のできることを確実に一歩ずつ進め。オレがこの二か月半で、お前を〝Cランク〟にしてやる」
「先生! うん!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...