落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

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「――アミッツ・キャロディルーナ」
「…………」
「アミッツ? アミッツ・キャロディルーナ!」
「へ……あ、はいっ!」
「一度で返事をしろ、馬鹿者」
「す、すみません!」

 まさかここで自分の名が呼ばれると思っていなかったため、ちゃんと返事をすることができなかった。そのため眼鏡試験官に睨まれてしまう。
 さらにいえば、アレリアはともかくミラには不機嫌そうな目つきをぶつけられた。アミッツのせいで謝罪をさせられたとでも思っているのだろう。

 三十チームすべてが選出されて、最初のチーム1と試験官を残して、他のチームはドーム内にある別室にて集結させられた。観戦して戦い方を考えさせるのは不公平だということなのだろう。
 不正がないように他のチームの見張りは別の教師が呼ばれて担当することになった。
 アミッツは一応チームとなった者たちに挨拶するために近づこうとしたが、

「私語は慎むように。その場でジッとしておくこと」

 と教師に言われた。
 どうやら即席チームと親交を深めることすらダメのようだ。

(作戦とか立てた方が戦いやすいって思ったんだけどなぁ)

 しかし事前にそれをするのであれば、やはり最初のチームと比べて不公平になるからかもしれない。
 仕方なく壁にもたれかかりながらジッと天井を見つめる。すると視線を感じたので確認してみると、ミラが明らかに不愉快さを滲ませた視線を向けてきていた。

(あ~やっぱこうなっちゃうかぁ)

 まるで足を引っ張ったら許さないからというような雰囲気だ。
 もう一人のアレリアは、他人のことなど興味がないと言わんばかりに大きな胸の下に両腕を組んで静かに目を閉じて自分の世界に集中している。

 そこから次々と他チームが呼ばれて部屋から出て行く。皆が緊張した面持ちだ。
 三人一組で戦うといった授業はなかった。だからチームワークを見るための試験ではないだろう。あくまでも魔物との戦いで、個人の戦い方を一気に見るつもりなのかもしれない。

 三分間という時間も〝Cランク〟の魔物に対して短過ぎる。無論勇者ならば呆気なく倒せるだろうが、候補生では難しいことこの上ない。
 アレリアなら一人でも三分で倒せるかもしれないが。

 また他チームが部屋から出て行く。終わったチームはこの場に帰って来ない。これで今日の日程は終了だから、そのまま教室へと帰らせているのだろう。
 ただ二次試験の結果は、一次と違って後日なのですぐには通知表は手渡されないが。
 どんどん生徒たちが減って行くにつれて、アミッツの緊張度が増していく。

(そ、そういやボクってチーム30……だったような)

 つまり、順番的に言うと……トリである。
 そして規則正しく順番通りにチームは減っていく。

(ここにきて最後かぁ。できればトップか真ん中くらいが良かった)

 トップなら緊張する間もなく強引に気持ちを持っていけるし、真ん中くらいは大分気持ちを落ち着かせられて臨めるけど、最後は変に気がそわそわして不安が高まっていく。
 この待っている時間が妙に長く感じるし、早く身体を動かしたいって気持ちにさせる。

 そして――。


「――チーム30」


 教師の声が、生徒数がいなくなって寂しくなった部屋内に響く。

「「「はい!」」」

 アミッツ、アレリア、ミラがほぼ同時に返事をして、部屋から出て行く。
 試験が行われる場所へ赴くと、そこには三人の試験官と一体の魔物――アイアントレントの姿があった。
 アイアントレントの身体に傷らしい傷や汚れすら見当たらない。さすがに今までのチームから無傷で戦ったというわけではないとは思うが……。

(もしかしたら新しいアイアントレントを召喚したのかもしれない)

 残念ながらアミッツには、もしそうだとしても見分けがつかない。

(多分、師匠だったら。木の葉の数とか、木の模様とかで見分けられるんだろうなぁ)

 イオの観察力はもう神の域に達していると思われるほど優れているから。何気なく目にした光景でも、彼にとってはそれが写真で写したように脳裏に刻みつけられる。
 だから変装や誤魔化しなどは彼には通じないのだ。

(ボクも先生まではいかなくても、観察力を鍛えないとなぁ)

 それが戦闘技術にもなると思うから。
 しかし今は、自分の持っている手札のみを使い精一杯戦うだけ。

「そこにある武器を使うなら選んでね」

 リリーシュが指差した壁際には、テーブルが設置されており、その上に多種多様の武器が並べられている。

(二人はどんな武器を使うんだろ?)

 そう思い観察してみると、アレリアはレイピア、ミラはダガータイプの短剣だった。確かに授業でも彼女たちはその武器を使っていたことを思い出す。

(……ボクは)

 すぐ目の前にあった片手剣を取った。使い慣れているわけではないし、技の練習をしていた木の棒とは話が違うが、それでも持っていた方が良いと判断してそれを選んだ。

「準備はいいか?」
「「「はい!」」」

 眼鏡の試験官の問いに、三人同時に応える。

「よし、制限時間は三分だ。――始め」



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