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 ――ハッとなって瞼を開けた。

 温かな陽射しが全身に降り注ぎ、心地好い風が髪を揺らしている。
 視界には青々とした蒼穹が広がっていた。

(――夢?)

 そう思っても仕方ないだろう。
 先程まで自分がいた世界の空は、もう終わりかけを予見したようなどす黒い空だったのだから。
 しかし今は、日本で見るソレのように澄み切っている。眩しい太陽が、大地に息づくすべてのものを照らしていた。

 横たわっていたことに気づいた天満は、上半身を起こして周りを確認する。
 ここはどこかの山か森なのか、周囲には豊かな緑や木々が逞しく育っていた。

「オレ……一体何が……?」

 記憶喪失というわけではない。
 しっかり覚えている。ついさっきのことなのだから。

 【ヘレゲート王国】という国家に地球から召喚されて、ぶっ壊れている世界を救ってほしいと頼まれた。
 自分の親友や、他のクラスメイトたちも一緒に。
 だがミカエという女性が暴走を起こし、何故か地面が流砂のようになって、そこに……全員が飲み込まれていった。

 ――覚えている。

 あれは夢なんかではない。実際に体験したことだ。

 なら今のこの状況は?

 ゆっくりと立ち上がって、ここがどこかをもう一度よく確かめる。
 前方には湖のような水溜まりがあり、その周りには花々が咲いていた。
 とてもあの世界とは思えない光景だ。

「地球に……日本のどこかに戻ってきたのか?」

 だとしたら何故、という疑問が浮かぶ。
 そして他のクラスメイトは? 真悟は?

 どうして自分一人だけがここで寝ていたのか?

 様々な疑問が浮かび上がってくるが、次の瞬間、思考を真っ白にさせる出来事が起こる。
 ドドドドドドドと、激しく大地を叩くような足音が聞こえ、その音を追うようにして視線を走らせた。
 すると木々の隙間から――。

「――っ!? な、なななななっ!?」

 巨大な赤い豚が突撃してきた。いや、正確には豚のような存在、だ。
 額から真っ直ぐ尻部分にかけて角のようなものが生えている。

 あんな生物など見たことも聞いたこともない。
 明らかな敵意を振りまいて、天満のもとへと走ってくる。

(ここ、日本じゃないのかよ! とにかく逃げなきゃ!?)

 人間の二倍ほどに膨れ上がっている体躯で突撃でもされたら、きっと一溜りもない。
 しかしどこへ逃げればいいというのだろうか。

 考えていても仕方がない。とりあえずこの場を離れようと足を動かしたが、運の悪いことに地面に転がっている大きめの石に躓いてしまう。

「あっぐ!?」

 すぐに振り返って豚を確認すると、相手はもうすぐそこまで迫って来ていた。

 ――ああ、終わる。

 まさか異世界に来て、こんな短い時間の間で二度も死を感じさせられるとは……。
 そうして諦めかけたその時だった。
 突如として豚の頭上から雷が落ちてきて、豚は一瞬にして黒焦げになり大地に沈んだ。

(……………え?)

 空を見上げても雲一つない。
 それなのにどこから雷が……。

 そこへ――。


「――――ようやくご登場ってか」


 背後から声が聞こえた。それは聞き覚えのある声音だったことに胸が躍る。
 確認するためにバッと振り向くが……誰もいない。

「こっちだこっち」

 少し上の方から聞こえて顔を上げると、木の上に一人の人物が立っており、その人物が跳び下りて近づいてきた。

「…………あれ?」

 声も聞き覚えはある。そして彼の顔もまた見覚えはあるのだが……。

「お前なぁ、いつまで待たせてんだよ、このバァカ」

 そこには、三十代くらいのオッサンが立っていたのである。



 
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