23 / 47
22
しおりを挟む
(でも〝時空流砂〟は人が起こせるようなものじゃないって村長も言ってたよな)
どこに現れるのか、何故現れるのか、そのすべてが謎に包まれている現象なのだという。
時代の節目節目に現れ、すべてを飲み込んで消えていく。
それが大災害――〝時空流砂〟だと。
(奴があそこに〝時空流砂〟が現れると知ってたと仮定して、その目的は何だ?)
ミカエは多くの侍女や兵士を惨殺したにもかかわらず、何故か天満たち異世界人には手を出していなかった。
(奴の目的はオレたちを〝時空流砂〟の被害に遭わせること? なら何で他の兵士たちを殺す必要があったんだ? ……っ、分からない。それに何で【ヘレゲート王国】にいないんだ? 大体異世界人を直接呼んだのは奴のはず。なのに死ぬ確率の高い大災害に巻き込ませる意味が分からない)
ミカエが何らかの方法、たとえば相手を殺すことで力を奪えるというスキルがあったとしよう。
そのために強力な異世界人の能力を奪うために大災害を利用したのなら……。
(いや違う。だったら直接殺せばいい。アイツは自分で自分の命を絶ったんだぞ)
自らの胸を剣で突き刺して、彼女は全身が粒子状に変化して消えた。
(自殺した理由もまったく分からない。ああもう! 考えれば考えるほど、ミカエの行動原理が掴めない!)
次第に苛立ちが増してきて、表情も険悪になっていく。
しかしその時、ピタッと太ももに温もりを感じた。
「……?」
そこには天満の顔を見上げている真悟の娘――ナーリの顔があった。彼女と目が合うと、彼女はニカッと笑う。
「こわ~いおかおはよくないよー」
「へ……あ」
視界が開けたような気がして、顔を上げるとやれやれといった感じで真悟がこちらを見つめていた。
「ようやく戻って来たか」
「真悟……」
「まぁた、自分一人でバカみてえに考え込んでたんだろ?」
「それは……」
「お前、イライラしててすっげえ怖え顔してたぞ」
「…………そっか」
悪い癖だ。考えても考えても一ミリも前に進んでいないと悟ると、それが強烈なストレスになって顔に苛立ちを出してしまうのだ。
よくやっていたオンラインゲームも、クエストの攻略法が分からずに悩んで悩んで、結局真悟に注意されて正気に戻るという状況は何度もある。
「俺の愛する娘に感謝しろよ。こういう時は穢れのない無邪気さが一番だしな!」
「……ああ。……ありがとな、ナーリ」
「えへへ~、どーいたましてー」
「それを言うならどう致しまして、な。しっかり言葉の勉強をしないと、将来あんなバカになってしまうからな。気をつけろ」
「うん、きをつけるぅ!」
「おいこら! 誰がバカだ! つうか娘に親のバカを浸透させるな天満! それとさも当然のように頭を撫でるな! ナーリも離れなさい! やらんぞ娘は! どこにも嫁にはやらんからなぁ!」
一体何をトチ狂っているのだろうか。
たかが五歳の娘に劣情を催すわけがないだろう。
(親バカにもほどがあるな。……まあ、娘が心配な気持ちも分からないでもないけどな)
ナーリの頭を撫でながら、将来自分にもこんな可愛い娘ができたらなぁと何となく思う天満だった。
「ていうか現実問題、真悟?」
「あ? 何でそんなに真剣な目を……ま、まさかお前! ダ、ダメだぞ! いくら親友のお前でもうちのナーリは嫁にははぐふっ!?」
背後からすり寄ってきた彼の愛しの妻であるリアラが手に持ったおたまで、彼の頭を叩きつけた。
「~~~っ!? な、何すんだよぉ!」
「しっかりテンマさんの話を聞いてあげてください」
夫の暴走をちゃんと止める。出来た嫁だ。真悟にはもったいない。
「……わ~ったよ。んで、何だ? 現実問題がどうのこうのって」
「ああ、仮に〝腐蝕の王〟について情報を集めるとして、ずっとここにいたらできないだろ?」
「……!」
「世界は広いし、日帰りで行けるところも限られてくる。今回の東の大地だって、日帰りじゃいけない」
「…………旅になるってわけだな」
「それも長期間の、な」
情報収集もそうだが、クラスメイト探しというのも必要になってくるだろう。
会うことができればいろいろ情報交換もできるはずだ。
「オレはいいけど、お前には家族がいる。東の大地に行くのはオレに任せて、お前は近場の情報を――」
「舐めんなよ、天満」
「!」
「確かに旅に出ちまったら、しばらくコイツらとは会えねえ。けど、俺は家族の……村の人たちのために旅に出るんだ。それにもう話はしてある。な?」
「はい。この人の力が世界の破滅を防ぐのに必要なら、どうぞ連れて行ってあげてください」
「リアラさん……いいんですか?」
「正直言えば怖いです。この人が死んだらどうしようとか不安でいっぱいです。ですがこのまま何もしなくても、十年のうちに世界が終わってしまうならば、黙ってはいられません。残念ながら私にはこの村で待つことしかできませんが、この人には力があります。だったら私はナーリと一緒にこの人を信じて待つだけです。それは村の人たちだってそうです」
今も村の人たちは、真悟のことを信じていろいろ情報収集に動いてくれている。しかし元々そんなに強い者たちではないので、凶暴なモンスターが出る地域に行くことができないのだ。
それでも行商人を捕まえたり、情報屋を雇ったりと、未来のために奮闘してくれているのだ。
「ここには定期的に戻ってくるしな。ナーリにはちょっと寂しい思いをさせちまうが」
「ナーリは、いい子でおるすばんできるよー!」
「おおそうかそうか! 偉いなー! さすがは俺の子だー!」
そう言ってナーリを高い高いする姿は、すっかり父親である。
「そっか。覚悟はあるんだな」
「おうよ。つうかお前はいいのか?」
「言っただろ。この世界に住むって決めた以上は、壊れてもらったら困る。だからそれを止める。それにこういうファンタジーの冒険もしてみたいって思ってたしな」
それに天満は思うのだ。
自分たちが過去の【ミデン】に来たのは何か意味があると。
それを知りたいと思っている。
(そのためにはまずはミカエを探すべきなんだろうな)
今の彼女が何かを知っているとは限らないが、あの未来に向かうのを止めるヒントが得られるかもしれない。
「とりあえずは、東だな。流れ星が落ちた地へ向かう」
「オッケーだ! なら村長にも報告してくる。旅は早い方が良いだろうしな」
すぐさま真悟は村長のジライ宅へと向かって行った。
――三日後。
旅立ちの日を迎えた。
本当はもっと早く出立できたのだが、最後にレベル上げと天満と真悟の旅立ちの服と武器を用意するのに時間を費やしたのだ。
服と武器は、村長が村人にかけあって用意してくれたものだ。
制服とは名残惜しいが、真悟の家に置いておくことにした。
今の天満は、黒のインナーに赤いベスト風のプレート。グレーのズボンに茶色のレザーブーツを着用している。背中には鋼鉄の剣を装備。
真悟は緑を基調とした全身スタイルとなっており、その上に軽鎧としてプレートアーマーと呼ばれる鎧を着用している。ブーツは天満と同じだが、彼は腰に鋼鉄の投刃という投げつけて相手を斬るブーメラン型の武器を携えていた。
これらはすべて村長たちが二人のために作ってくれたのだ。
「気を付けるんじゃぞ、二人とも。我々も何か力になれるか探ってみるからのう」
「頼むぜ、村長」
「お願いします」
真悟と天満が頼むと、「任せておくんじゃ」と言って笑ってくれた。
こういう頼もしさが自分の親にもあればなと思う天満だが、今となってはどうでもいい話でもある。
結果的に親も、天満を引き取る必要がなくて、今頃喜んでいるかもしれない。
それだけに帰る未練など天満にはないので、そこは安心できている。
ただもう祖母の墓参りができなくなるということに関しては残念ではあるが。
あの世に行ったら存分に謝ろうと思った。
見れば真悟はナーリやリアラと別れの挨拶をしている。ナーリは覚悟はしていたのだろうが、やはりその顔は悲しげだ。無理もない。
そんな彼女の頭を撫でて真悟は言う。
「ちゃんと帰って来るからな。お土産もいっぱい買って」
「…………うん。でも……ケガ……ダメだよ?」
「お父さんは強いから任せろ!」
そこへリアラが天満の方へ近づいて頭を下げてきた。
「どうか、夫を……シンゴをお願いします」
「もちろんです。アイツは絶対に死なせませんよ。オレの命に代えても」
「……いいえ」
「え?」
「テンマさんも無事に帰って来てください。……ここへ」
「リアラさん……」
「ここはもう、あなたの居場所でもあるはずですから」
「っ…………ありがとうございます」
親の教育のせいで、人をあまり信じられない天満ではあるが、ここの人たちがどれだけ心に温かいものを持っているかは過ごしてみて分かった。
何よりも真悟が十五年も平和に暮らしていた村なのだ。悪いわけがない。
居場所――その言葉を聞いて、心にポワッと灯りが点った気がした。
絶対に真悟と一緒に帰って来よう。そう思わせてくれた村だ。
「んじゃ、そろそろ行くか天満!」
「ああ、目指すは――東の大地だ!」
こうして天満と真悟の、世界の終わりを始めさせないための旅が始まった。
どこに現れるのか、何故現れるのか、そのすべてが謎に包まれている現象なのだという。
時代の節目節目に現れ、すべてを飲み込んで消えていく。
それが大災害――〝時空流砂〟だと。
(奴があそこに〝時空流砂〟が現れると知ってたと仮定して、その目的は何だ?)
ミカエは多くの侍女や兵士を惨殺したにもかかわらず、何故か天満たち異世界人には手を出していなかった。
(奴の目的はオレたちを〝時空流砂〟の被害に遭わせること? なら何で他の兵士たちを殺す必要があったんだ? ……っ、分からない。それに何で【ヘレゲート王国】にいないんだ? 大体異世界人を直接呼んだのは奴のはず。なのに死ぬ確率の高い大災害に巻き込ませる意味が分からない)
ミカエが何らかの方法、たとえば相手を殺すことで力を奪えるというスキルがあったとしよう。
そのために強力な異世界人の能力を奪うために大災害を利用したのなら……。
(いや違う。だったら直接殺せばいい。アイツは自分で自分の命を絶ったんだぞ)
自らの胸を剣で突き刺して、彼女は全身が粒子状に変化して消えた。
(自殺した理由もまったく分からない。ああもう! 考えれば考えるほど、ミカエの行動原理が掴めない!)
次第に苛立ちが増してきて、表情も険悪になっていく。
しかしその時、ピタッと太ももに温もりを感じた。
「……?」
そこには天満の顔を見上げている真悟の娘――ナーリの顔があった。彼女と目が合うと、彼女はニカッと笑う。
「こわ~いおかおはよくないよー」
「へ……あ」
視界が開けたような気がして、顔を上げるとやれやれといった感じで真悟がこちらを見つめていた。
「ようやく戻って来たか」
「真悟……」
「まぁた、自分一人でバカみてえに考え込んでたんだろ?」
「それは……」
「お前、イライラしててすっげえ怖え顔してたぞ」
「…………そっか」
悪い癖だ。考えても考えても一ミリも前に進んでいないと悟ると、それが強烈なストレスになって顔に苛立ちを出してしまうのだ。
よくやっていたオンラインゲームも、クエストの攻略法が分からずに悩んで悩んで、結局真悟に注意されて正気に戻るという状況は何度もある。
「俺の愛する娘に感謝しろよ。こういう時は穢れのない無邪気さが一番だしな!」
「……ああ。……ありがとな、ナーリ」
「えへへ~、どーいたましてー」
「それを言うならどう致しまして、な。しっかり言葉の勉強をしないと、将来あんなバカになってしまうからな。気をつけろ」
「うん、きをつけるぅ!」
「おいこら! 誰がバカだ! つうか娘に親のバカを浸透させるな天満! それとさも当然のように頭を撫でるな! ナーリも離れなさい! やらんぞ娘は! どこにも嫁にはやらんからなぁ!」
一体何をトチ狂っているのだろうか。
たかが五歳の娘に劣情を催すわけがないだろう。
(親バカにもほどがあるな。……まあ、娘が心配な気持ちも分からないでもないけどな)
ナーリの頭を撫でながら、将来自分にもこんな可愛い娘ができたらなぁと何となく思う天満だった。
「ていうか現実問題、真悟?」
「あ? 何でそんなに真剣な目を……ま、まさかお前! ダ、ダメだぞ! いくら親友のお前でもうちのナーリは嫁にははぐふっ!?」
背後からすり寄ってきた彼の愛しの妻であるリアラが手に持ったおたまで、彼の頭を叩きつけた。
「~~~っ!? な、何すんだよぉ!」
「しっかりテンマさんの話を聞いてあげてください」
夫の暴走をちゃんと止める。出来た嫁だ。真悟にはもったいない。
「……わ~ったよ。んで、何だ? 現実問題がどうのこうのって」
「ああ、仮に〝腐蝕の王〟について情報を集めるとして、ずっとここにいたらできないだろ?」
「……!」
「世界は広いし、日帰りで行けるところも限られてくる。今回の東の大地だって、日帰りじゃいけない」
「…………旅になるってわけだな」
「それも長期間の、な」
情報収集もそうだが、クラスメイト探しというのも必要になってくるだろう。
会うことができればいろいろ情報交換もできるはずだ。
「オレはいいけど、お前には家族がいる。東の大地に行くのはオレに任せて、お前は近場の情報を――」
「舐めんなよ、天満」
「!」
「確かに旅に出ちまったら、しばらくコイツらとは会えねえ。けど、俺は家族の……村の人たちのために旅に出るんだ。それにもう話はしてある。な?」
「はい。この人の力が世界の破滅を防ぐのに必要なら、どうぞ連れて行ってあげてください」
「リアラさん……いいんですか?」
「正直言えば怖いです。この人が死んだらどうしようとか不安でいっぱいです。ですがこのまま何もしなくても、十年のうちに世界が終わってしまうならば、黙ってはいられません。残念ながら私にはこの村で待つことしかできませんが、この人には力があります。だったら私はナーリと一緒にこの人を信じて待つだけです。それは村の人たちだってそうです」
今も村の人たちは、真悟のことを信じていろいろ情報収集に動いてくれている。しかし元々そんなに強い者たちではないので、凶暴なモンスターが出る地域に行くことができないのだ。
それでも行商人を捕まえたり、情報屋を雇ったりと、未来のために奮闘してくれているのだ。
「ここには定期的に戻ってくるしな。ナーリにはちょっと寂しい思いをさせちまうが」
「ナーリは、いい子でおるすばんできるよー!」
「おおそうかそうか! 偉いなー! さすがは俺の子だー!」
そう言ってナーリを高い高いする姿は、すっかり父親である。
「そっか。覚悟はあるんだな」
「おうよ。つうかお前はいいのか?」
「言っただろ。この世界に住むって決めた以上は、壊れてもらったら困る。だからそれを止める。それにこういうファンタジーの冒険もしてみたいって思ってたしな」
それに天満は思うのだ。
自分たちが過去の【ミデン】に来たのは何か意味があると。
それを知りたいと思っている。
(そのためにはまずはミカエを探すべきなんだろうな)
今の彼女が何かを知っているとは限らないが、あの未来に向かうのを止めるヒントが得られるかもしれない。
「とりあえずは、東だな。流れ星が落ちた地へ向かう」
「オッケーだ! なら村長にも報告してくる。旅は早い方が良いだろうしな」
すぐさま真悟は村長のジライ宅へと向かって行った。
――三日後。
旅立ちの日を迎えた。
本当はもっと早く出立できたのだが、最後にレベル上げと天満と真悟の旅立ちの服と武器を用意するのに時間を費やしたのだ。
服と武器は、村長が村人にかけあって用意してくれたものだ。
制服とは名残惜しいが、真悟の家に置いておくことにした。
今の天満は、黒のインナーに赤いベスト風のプレート。グレーのズボンに茶色のレザーブーツを着用している。背中には鋼鉄の剣を装備。
真悟は緑を基調とした全身スタイルとなっており、その上に軽鎧としてプレートアーマーと呼ばれる鎧を着用している。ブーツは天満と同じだが、彼は腰に鋼鉄の投刃という投げつけて相手を斬るブーメラン型の武器を携えていた。
これらはすべて村長たちが二人のために作ってくれたのだ。
「気を付けるんじゃぞ、二人とも。我々も何か力になれるか探ってみるからのう」
「頼むぜ、村長」
「お願いします」
真悟と天満が頼むと、「任せておくんじゃ」と言って笑ってくれた。
こういう頼もしさが自分の親にもあればなと思う天満だが、今となってはどうでもいい話でもある。
結果的に親も、天満を引き取る必要がなくて、今頃喜んでいるかもしれない。
それだけに帰る未練など天満にはないので、そこは安心できている。
ただもう祖母の墓参りができなくなるということに関しては残念ではあるが。
あの世に行ったら存分に謝ろうと思った。
見れば真悟はナーリやリアラと別れの挨拶をしている。ナーリは覚悟はしていたのだろうが、やはりその顔は悲しげだ。無理もない。
そんな彼女の頭を撫でて真悟は言う。
「ちゃんと帰って来るからな。お土産もいっぱい買って」
「…………うん。でも……ケガ……ダメだよ?」
「お父さんは強いから任せろ!」
そこへリアラが天満の方へ近づいて頭を下げてきた。
「どうか、夫を……シンゴをお願いします」
「もちろんです。アイツは絶対に死なせませんよ。オレの命に代えても」
「……いいえ」
「え?」
「テンマさんも無事に帰って来てください。……ここへ」
「リアラさん……」
「ここはもう、あなたの居場所でもあるはずですから」
「っ…………ありがとうございます」
親の教育のせいで、人をあまり信じられない天満ではあるが、ここの人たちがどれだけ心に温かいものを持っているかは過ごしてみて分かった。
何よりも真悟が十五年も平和に暮らしていた村なのだ。悪いわけがない。
居場所――その言葉を聞いて、心にポワッと灯りが点った気がした。
絶対に真悟と一緒に帰って来よう。そう思わせてくれた村だ。
「んじゃ、そろそろ行くか天満!」
「ああ、目指すは――東の大地だ!」
こうして天満と真悟の、世界の終わりを始めさせないための旅が始まった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
15
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる