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第六十四話 互いの戦略
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ダンジョンでは、地下一階から始まり、地下二階、地下三階と順当に歩を進めてきた。
だが一向にカイラたちB組と遭遇することはなかったのである。
しかし地下四階に降りた時に、いよいよ彼らと相対することになった。
階層を降りる度に、モンスターの数や質が増していく。だから先を行っていたカイラたちも、とうとう俺たちに追い付かれたというわけだ。
何せ俺たちはカイラたちがモンスターを倒してくれているので、戦闘をする手間が省けたから。
だが俺はできるだけカイラたちに先行してもらう方法を取ることにしていた。
何故ならその方が、こちらの消耗が抑えられるからだ。
大丈夫だと言っても、トトリはずっと一人で心細い思いをしていた。恐怖と不安で精神的なダメージは大きいだろう。
だからできるだけ体力と気力を消耗する戦闘は避けておきたかった。
故に導力をダンジョン内に流し、カイラたちが今どのへんにいるのかを常に探っていたのである。
ただこの〝ダンジョン攻略戦〟で使用されるダンジョンは地下五階まで。そろそろ追い付いておいた方が良いと判断し、わざと遅らせていたペースを速めたのである。
そうして地下四階でカイラたちと遭遇を果たし、今度は彼らよりも先に進むことを選択した。
カイラたちはモンスターと戦闘中だった。
俺たちが追い付いてきたことを知ったカイラは、当然奇襲に備えてか、俺たちに向けても警戒をしてくる。
たださすがにこちらも後ろから撃つなんてことはしたくない。勝つためには手段を選ぶ必要なんてないとはいっても、そんなやり方はシン助たちが従わないだろう。
それに一応卑怯とされる戦法なんて、カイラにこそ相応しいので、アイツと同じ舞台には上がりたくない。
すると即座にモンスターを討伐してみせたカイラたちが、真正面から俺たちと対面する。
「……やあ、ずいぶんと暢気に。楽しそうじゃないか、フェアリード?」
「ああ。散歩気分でも追いついてしまったようだな、ジェーダン」
俺とカイラの視線がぶつかり合い火花を散らす。
「遭遇した以上は仕方ない。ここでチーム戦と行こうか?」
カイラの言葉に、両者のメンバーが身構えて殺気立つ。
「――――なんてね」
直後、カイラのチームメイトの一人が、手に持っていた何かを地面に投げつけた。
するとその何かが地面に触れた瞬間に、一気に白煙が周囲に広がっていく。
「目眩ましかよ!?」
シン助が吠え、九々夜とトトリも煙の中で警戒度を最大まで高める。煙に乗じて襲い掛かってくると考えたのだろう。
しかし……。
「安心しろ。奴らはすでにいなくなったよ」
俺にはB組が、この場から撤退するために起こした行動だということは分かっていた。
煙が晴れると、俺の言うことを証明するように、その場からカイラたちは消えていたのである。
「まさか先を行かれた!? アオス、さっさと追い付こうぜ!」
「…………」
「アオス?」
「ん? ああいや、すまん。そうだな、先へ進もうか」
なるほど。ここに来てカイラたちの考えは分かった。ならそれが間違いだということを証明してやろう。
俺は隊列を維持しつつ、地下四階の探索へと入っていった。
※
モニターに映し出されたのは、とうとう遭遇したA組とB組。
観客たちが、手に汗握る戦いを期待して息を飲んだ。
だがすぐに落胆の溜息を吐くことになった。
何故なら両者がぶつかり合うと思ったのに、結局B組が逃亡を図り、皆の期待を裏切ってしまったからだ。
「正面衝突するかと思ったけど、さすがにまだ早いって思ったみたいね、カイラくんは」
楽しそうにモニターを見ながらアトレアが言う。どこから取り出したのか、棒付きの飴を口で転がしている。気分はまるで映画でも観ているような感じなのかもしれない。
「今争うメリットがねえからな。多分ジェーダンの狙いは――」
「――アオスくんがこれまでしてきたことと同じね」
バリッサの言葉を奪って口を開いたのはアイズであった。
「おいこらてめえ、それは俺が言おうと思ってたのによ」
「あら、それは悪いわね。けれどカイラくんもまた結構強かみたいね」
「リーダーとして当然の戦略だろ。アオスは、序盤に体力と魔力を温存するために、できる限り戦闘を避けてきた。ジェーダンたちを先行させてな」
「モンスターとか罠とか、先にカイラくんたちに処理させといて。自分たちは楽をしようってことよね」
「ま、まあアトレアの言う通りなんだが、何か言い方がな……」
「でも今度はそれをカイラくんたちがしようってことだね」
アオスはトトリのことを、チームのことを考えて、序盤は出来る限り消耗する行動は控えた。対してカイラは、中盤を過ぎた頃に、今度はアオスたちを先行させ、消耗した体力などを回復する戦略を選択したというわけだ。
「この〝攻略戦〟じゃ、先に宝を持ってココに戻ってきた奴が所属するチームの勝利だ。つまりはダンジョンボスを先に倒そうが、先に宝を手にしても意味がねえ」
「そだねー。言ってしまえば、いつでも宝を奪えるってことだもんね」
「ああ。だからボスを相手チームに押し付けて、そのあとに消耗し切ったところを倒し、ゆっくり宝を手にして戻ってくるってこともできる。戦略としては無難で最も安全なやり方だ」
もっといえば、地下一階に留まり、宝を手にして戻ってくる相手チームを待っていてもいいわけだ。そして疲弊して戻ってきたところを撃沈させ宝を奪う。それもまた戦略の一つである。
「その割には不機嫌そうな顔だけど?」
アトレアの、バリッサに向けての言葉だ。
「別に不機嫌ってわけじゃねえよ。ただ……面白くねえって思ってるだけだ」
「はは、バリッサはどちらかというと熱血思考だからね。けれどカイラくんのやり方も正しいわよ。冒険者にとって、仕事はいつも命がけ。そして常に結果が求められる世界だわ。だからこそ綺麗ごとなんて不必要なのよ」
「あたしもアイズに賛成かな。この世界に卑怯なんて言葉は意味ないしね~。けど気になったのは、何で地下四階までカイラくんは降りたんだろ? どうせなら地下一階で待ち伏せすればいいのに」
「それは恐らく、現行の冒険者たちへのアピールだと思うわよ」
「アピール?」
「ええ。地下一階に留まるのは確かに友好的な戦略ではあるけれど、これはあくまでも実力を見せる機会でもあるもの。まずは自分たちがチームとして、ダンジョン攻略において、どれだけの力量があるかを見せるために、ある程度の攻略を進める必要があったのよ」
「あーなるほど。地下一階にいたまんまじゃ、モンスター相手や罠なんかに対しての実力はあんまりアピールできないってことかぁ」
「そういうことよ。地下一階にいるモンスターは弱いし、罠もほとんどない。それではダンジョン攻略としての実力を見せつけることはできないわ。この行事は、いわばパフォーマンスなのよ。だからある程度は攻略を進める必要があった」
そしてあとは体力を温存し、宝を持って戻ってきたアオスたちを打ち倒し、チーム同士の対戦でも強さをアピールし、完璧な勝利を得る。それがカイラが描いた絵だ。
「フフフ、やはり今年は面白い子が揃っているわね。さあ、愉快な結末を期待しているわよ。アオスくん、カイラくん……」
アイズは冷笑を浮かべながら、それでも楽しそうな声音で呟いていた。
だが一向にカイラたちB組と遭遇することはなかったのである。
しかし地下四階に降りた時に、いよいよ彼らと相対することになった。
階層を降りる度に、モンスターの数や質が増していく。だから先を行っていたカイラたちも、とうとう俺たちに追い付かれたというわけだ。
何せ俺たちはカイラたちがモンスターを倒してくれているので、戦闘をする手間が省けたから。
だが俺はできるだけカイラたちに先行してもらう方法を取ることにしていた。
何故ならその方が、こちらの消耗が抑えられるからだ。
大丈夫だと言っても、トトリはずっと一人で心細い思いをしていた。恐怖と不安で精神的なダメージは大きいだろう。
だからできるだけ体力と気力を消耗する戦闘は避けておきたかった。
故に導力をダンジョン内に流し、カイラたちが今どのへんにいるのかを常に探っていたのである。
ただこの〝ダンジョン攻略戦〟で使用されるダンジョンは地下五階まで。そろそろ追い付いておいた方が良いと判断し、わざと遅らせていたペースを速めたのである。
そうして地下四階でカイラたちと遭遇を果たし、今度は彼らよりも先に進むことを選択した。
カイラたちはモンスターと戦闘中だった。
俺たちが追い付いてきたことを知ったカイラは、当然奇襲に備えてか、俺たちに向けても警戒をしてくる。
たださすがにこちらも後ろから撃つなんてことはしたくない。勝つためには手段を選ぶ必要なんてないとはいっても、そんなやり方はシン助たちが従わないだろう。
それに一応卑怯とされる戦法なんて、カイラにこそ相応しいので、アイツと同じ舞台には上がりたくない。
すると即座にモンスターを討伐してみせたカイラたちが、真正面から俺たちと対面する。
「……やあ、ずいぶんと暢気に。楽しそうじゃないか、フェアリード?」
「ああ。散歩気分でも追いついてしまったようだな、ジェーダン」
俺とカイラの視線がぶつかり合い火花を散らす。
「遭遇した以上は仕方ない。ここでチーム戦と行こうか?」
カイラの言葉に、両者のメンバーが身構えて殺気立つ。
「――――なんてね」
直後、カイラのチームメイトの一人が、手に持っていた何かを地面に投げつけた。
するとその何かが地面に触れた瞬間に、一気に白煙が周囲に広がっていく。
「目眩ましかよ!?」
シン助が吠え、九々夜とトトリも煙の中で警戒度を最大まで高める。煙に乗じて襲い掛かってくると考えたのだろう。
しかし……。
「安心しろ。奴らはすでにいなくなったよ」
俺にはB組が、この場から撤退するために起こした行動だということは分かっていた。
煙が晴れると、俺の言うことを証明するように、その場からカイラたちは消えていたのである。
「まさか先を行かれた!? アオス、さっさと追い付こうぜ!」
「…………」
「アオス?」
「ん? ああいや、すまん。そうだな、先へ進もうか」
なるほど。ここに来てカイラたちの考えは分かった。ならそれが間違いだということを証明してやろう。
俺は隊列を維持しつつ、地下四階の探索へと入っていった。
※
モニターに映し出されたのは、とうとう遭遇したA組とB組。
観客たちが、手に汗握る戦いを期待して息を飲んだ。
だがすぐに落胆の溜息を吐くことになった。
何故なら両者がぶつかり合うと思ったのに、結局B組が逃亡を図り、皆の期待を裏切ってしまったからだ。
「正面衝突するかと思ったけど、さすがにまだ早いって思ったみたいね、カイラくんは」
楽しそうにモニターを見ながらアトレアが言う。どこから取り出したのか、棒付きの飴を口で転がしている。気分はまるで映画でも観ているような感じなのかもしれない。
「今争うメリットがねえからな。多分ジェーダンの狙いは――」
「――アオスくんがこれまでしてきたことと同じね」
バリッサの言葉を奪って口を開いたのはアイズであった。
「おいこらてめえ、それは俺が言おうと思ってたのによ」
「あら、それは悪いわね。けれどカイラくんもまた結構強かみたいね」
「リーダーとして当然の戦略だろ。アオスは、序盤に体力と魔力を温存するために、できる限り戦闘を避けてきた。ジェーダンたちを先行させてな」
「モンスターとか罠とか、先にカイラくんたちに処理させといて。自分たちは楽をしようってことよね」
「ま、まあアトレアの言う通りなんだが、何か言い方がな……」
「でも今度はそれをカイラくんたちがしようってことだね」
アオスはトトリのことを、チームのことを考えて、序盤は出来る限り消耗する行動は控えた。対してカイラは、中盤を過ぎた頃に、今度はアオスたちを先行させ、消耗した体力などを回復する戦略を選択したというわけだ。
「この〝攻略戦〟じゃ、先に宝を持ってココに戻ってきた奴が所属するチームの勝利だ。つまりはダンジョンボスを先に倒そうが、先に宝を手にしても意味がねえ」
「そだねー。言ってしまえば、いつでも宝を奪えるってことだもんね」
「ああ。だからボスを相手チームに押し付けて、そのあとに消耗し切ったところを倒し、ゆっくり宝を手にして戻ってくるってこともできる。戦略としては無難で最も安全なやり方だ」
もっといえば、地下一階に留まり、宝を手にして戻ってくる相手チームを待っていてもいいわけだ。そして疲弊して戻ってきたところを撃沈させ宝を奪う。それもまた戦略の一つである。
「その割には不機嫌そうな顔だけど?」
アトレアの、バリッサに向けての言葉だ。
「別に不機嫌ってわけじゃねえよ。ただ……面白くねえって思ってるだけだ」
「はは、バリッサはどちらかというと熱血思考だからね。けれどカイラくんのやり方も正しいわよ。冒険者にとって、仕事はいつも命がけ。そして常に結果が求められる世界だわ。だからこそ綺麗ごとなんて不必要なのよ」
「あたしもアイズに賛成かな。この世界に卑怯なんて言葉は意味ないしね~。けど気になったのは、何で地下四階までカイラくんは降りたんだろ? どうせなら地下一階で待ち伏せすればいいのに」
「それは恐らく、現行の冒険者たちへのアピールだと思うわよ」
「アピール?」
「ええ。地下一階に留まるのは確かに友好的な戦略ではあるけれど、これはあくまでも実力を見せる機会でもあるもの。まずは自分たちがチームとして、ダンジョン攻略において、どれだけの力量があるかを見せるために、ある程度の攻略を進める必要があったのよ」
「あーなるほど。地下一階にいたまんまじゃ、モンスター相手や罠なんかに対しての実力はあんまりアピールできないってことかぁ」
「そういうことよ。地下一階にいるモンスターは弱いし、罠もほとんどない。それではダンジョン攻略としての実力を見せつけることはできないわ。この行事は、いわばパフォーマンスなのよ。だからある程度は攻略を進める必要があった」
そしてあとは体力を温存し、宝を持って戻ってきたアオスたちを打ち倒し、チーム同士の対戦でも強さをアピールし、完璧な勝利を得る。それがカイラが描いた絵だ。
「フフフ、やはり今年は面白い子が揃っているわね。さあ、愉快な結末を期待しているわよ。アオスくん、カイラくん……」
アイズは冷笑を浮かべながら、それでも楽しそうな声音で呟いていた。
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