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第七十話 それぞれのリーダーに託す

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 そのままカイラは優勝カップを持ったまま、ボス部屋から出ようとする。

「ぐっ……アオス! 奴を追え! ぜってー逃がすんじゃねえ!」
「シン助?」
「そうですよ、アオスさん! ここは私たちにお任せください!」
「九々夜まで……」
「そうよ、アイツは次席だし、多分止められるのはアンタだけだもん!」
「トトリ……」

 三人がともに俺を送り出すつもりのようだ。

 ここで相手チームの三人を、俺が瞬殺することは容易だ。しかしそれでは今の言葉をかけてくれた彼らに対して申し訳ない気持ちになってしまう。

 申し訳ない……? 

 変な感じだった。人間に対し、そんなことを思ったのは久しぶりだったから……。

「アオスさんをしんじてくれるひともいるんですね! うれしいですー!」
「あらあら、これはきょうのよるはおせきはんですねぇ」
「アオスをしんらいするとは、なかなかみどころがある! ほうびにわたしのかじったチョコをくれてやろう!」

 妖精さんたちも、シン助たちの言葉に喜びを見出している。

 信頼……か。

 ならここは、俺も応えてやるのが筋なのかもしれない。

「……頼んでいいんだな?」
「おう!」「はい!」「うん!」

 任せろといった感じで返答した彼らに、俺も大きく頷きを返すと、出入口の方へと走った。
 だが目の前に立ち塞がった人物が――。

「お前は…………リムア・トロア」
「悪いけど、逃がしはしないよ。私はあんたと戦うつもりで〝攻略戦〟に参加したんだから」

 どうやらあの模擬試合で、ずいぶんと意識されてしまったようだ。
 しかしそんなリムアに向かって細長いものが迫り、

「ちっ!」

 直撃を避けるために、リムアが大きく後ろへ飛び退いた。

「アオス、アイツはアタシに任せてよ!」
「トトリ!?」
「こうでもしなきゃ、アンタに恩を返せないしね! けどジェーダンに負けたら承知しないから!」
「……ああ、分かった。頼むぞ!」

 俺が再び走り出すと、当然リムアが止めようとしてくるが、またもトトリの鞭がそれを防ぐ。

「くっ、邪魔すんな!」
「悪いけど、そうもいかないのよね。面倒臭いし、今すぐお風呂に入って寝たいけど、今日は頑張るって決めたのよ!」

 それまでにないほどやる気を見せているトトリの気迫に対し、下手に後ろを見せることができずに、悔し顔で足を止めているリムア。

「《魔狸紅》、お兄ちゃんに力を集中!」
「うっ……おらぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 さらにシン助は、九々夜の支援を受けて、今度こそ力任せに鎖を引き千切ったのである。

「うそぉ……! 僕の拘束魔法が破られた……ああ、欝になりそう……」

 余程自信があったのか、破られたことで意気消沈しているクーリエ。

「ワハハ! そうこなくっちゃな! これで面白くなってきたぜ!」

 対して、シン助のような陽気で斧を振るっているのはジャヴだ。
 俺は頼もしささえ感じるチームメイトに、その場を託して、真っ直ぐカイラを追って行ったのである。



     ※



「おお、おお! こりゃまたおっもしろくなってきたじゃーん!」

 モニターに映るアオスたちに、明らかに興奮しているアトレアだが、彼女だけじゃなく、観客たちも大いに湧いている。

 無理もない。これほど熱い展開になるとは誰も思っていなかったのだから。

 二つの組が協同してダンジョンボスを倒すところも盛り上がったが、そのあと即座に両チームがぶつかり合う。

 さらには自分たちのリーダーに勝負を託して、仲間たちは互いの足止めに奮闘する。
 これで盛り上がらなければ噓だ。

「ねえねえ、どっちが勝つと思う、二人とも?」
「ちょ、うるせえよ。ちょっとは静かにしろっての」
「あはは、けれどアトレアの気持ちは分かるわ。確かに見応えのある展開だものね」
「そうそう! さっすがはアイヴ! どこぞの熱血ストロングバカとは違うわよね~!」
「誰が熱血ストロングバカだ! ケツ蹴り上げるぞこらぁ!」
「きゃー、セクハラしようとする男がここにいますー! 憲兵さーん! 事件ですよー!」
「おいバカ止めろ! 前にそれでマジで憲兵が集まってきたことあったろうが! あのあとどんだけ誤解を解くのに時間かかったのか忘れたのかよ!」
「あれ? そんなこともあったっけ? あはは、ドンマイ!」
「ぐっ……ぜってーいつか殺してやる」

 こんな感じで、いつもバリッサはアトレアに振り回されているようだ。

「まあまあ、そんなことよりバリッサはどっちが勝つと思う? あ、でもカイラくんが勝つのに賭けてるんだっけ?」
「てめえが勝手にそうしたんだろうが。……まあでも、ダンジョン内は入り組んでるし、隠れるとこだってある。先行してる分、ジェーダンが有利かもしれねえな。アイヴ、てめえはどう思う?」
「そうねぇ。ダンジョンには隠し通路や罠もある。隠し通路には、別の階へ向かうことができる道があったり、罠だって一瞬で別フロアに跳ぶようなワープトラップも存在するわ。それを駆使すれば、たとえ実力で劣っていても、先にここへ戻ってくることはできるわね」

 この〝ダンジョン攻略戦〟は、ただ腕っぷしが強いだけでは勝てない。運の要素もあるし、罠などの利用方法も様々にあることから知恵だって必要になる。

 つまりやり方次第で、どんなチームも勝機の目は必ず転がっているのだ。



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