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第七十三話 爆散

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 やはり油断も隙もならない奴だ。

 俺を広いところで迎え撃つような態度を見せておいて、罠を仕掛けた場所に誘い込むとは。まあそうじゃないかって予想はしていたので驚きはなかったが。

 当然罠も放ってきた火球も、すべて《森羅変令》を使って霧散させた。
 そのお蔭で愕然としたカイラの表情を拝むこともできた。

「何をそんなに驚いてるんだ、ジェーダン?」
「っ……何をしたんだ?」
「何を? それを素直に言うとでも思ってるのか?」
「くっ……生意気な! どうせまた新しいマジックアイテムか何かを使ったんだろ! 正々堂々と自分の力だけで勝負したらどうだ!」
「お前だって他人が仕掛けた罠を利用してるじゃないか」
「そ、それは……!」

 自分を棚に上げてよく言えるものだ。

「……どうやら君はゴキブリ並みにしぶといらしい。やはりこの手で始末をつける必要があるようだ」
「さっき自分の手で攻撃しといて何を言ってる?」
「そうやって揚げ足ばかり取って楽しいかい? 本当に昔から口だけは達者だね」
「お前に言われたくはない」

 バチバチバチと視線で火花を散らしていると、不意にカイラがまたも言ってくる。

「ついてこい」
「……またか」
「安心するといい。今度は罠なんかない。正真正銘、ガチでやり合ってあげるよ」

 カイラが大事そうに優勝カップを抱きながら前に進んでいく。
 俺はその姿を見ながら、ゆっくりと弓を構え、そして大気の矢を撃ち出した。

「――っ!? ぐっわぁぁぁぁぁっ!?」

 すんでのところで、俺が何かをした気配に気づいて振り向いたカイラだったが、時すでに遅く、大気の矢はカイラを捉え、その衝撃でカイラはピンボールのように弾かれたように飛んでいく。

 いつまでも俺が素直についていくと思ってるなら、それは甘過ぎる。油断があるならそこを突くのはセオリーなんだからな。

 カイラはその先にある開けた場所まで転がっていき、その最中に持っていた優勝カップを手放してしまう。

 俺は転がっていく優勝カップ。その先にある壁にぶつかって止まる。そして俺はカップを手に入れようと駆け出し、転倒しているカイラを抜く。

「アオスゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 不意を突かれたことにキレてしまった様子のカイラが、立ち上がり様に攻撃を放ってくる。

「怒れる焔の化身よ。その猛りを力に変え、立ち塞がるものすべてを爆砕せよ――《ボムド・バーン》ッ!」

 カイラの前に現れた巨大な魔法陣から、大砲のような勢いで、先程とはまた違った火球を撃ち出してきた。

 アレは――爆炎か?

 一目で性質を見極めた俺は、背後から迫ってくる火球に対し、逆に大気の矢で押し返してやろうと矢を放ってやった。

 しかし――。

「甘いわっ!」

 突如、火球が二つに割れて矢を回避するという動きを見せた。これは確かに少し俺の考えが甘かったらしい。腐っても次席。天才の名は伊達じゃないってことだ。 
 俺は向かってくる二つの火球に対し、上空へ跳躍して回避した。

「ちぃっ、ちょこまかと!」

 俺が避けられることまでは想定していなかったのか、カイラは悔し気に舌打ちをする。

 そのまま俺の下を通過していく二つの火球が、その先の壁に激突して大規模な爆発を引き起こす。
 やはりただの火炎ではなく、爆発の威力を持たせた爆炎だったらしい。

 この爆炎こそが、カイラの真骨頂なのは知っていた。

 そして前の人生では『爆炎大帝』という大層な二つ名を有し、トップクラスの冒険者になったという噂を耳にしたことがあったのを思い出す。

 にしてもまだ十代にして、壁に大きな穴を開けるほどの威力を持つ魔法を、僅か数秒で放つことができる才。きっと観客たちの中には、カイラに対し憧れの視線を向けている者は多いだろう。 

 人格はともかくとして、魔法士としてはやはり有能なのは確かだから。
 俺は地上に降り立つと、そのままカイラの追撃に警戒するが……。

「……ん?」

 何故かカイラが呆然自失といった感じで、俺とは違う方向を見ているので気になった。

 何かの誘いで、俺の隙を突こうとしている行為かとも思ったが、どうもカイラが本当にショックを受けている様子なので、一応警戒しながらも、カイラが見ている方角に視線を向けた。

 そこは先程、カイラが火球を放った場所で……。

「…………あれ?」

 そこには大きな穴が開いていて、今もまだあちこちに火が飛び移り燃えている。
 ただ一つ気になったことがあった。

 …………………………………………優勝カップは?

 俺はほんの少し前を思い出す。

 カイラを大気の矢で吹き飛ばし、その衝撃で彼はカップから手を離し、カップはそのまま転がって壁に激突して止まった。

 そして俺はそのカップを手にしようと駆け寄っていた矢先、背後からカイラの爆炎が迫ってきたのだ。
 それを俺は避けた。

「…………あ」

 俺は視線を目まぐるしく動かしながら周囲を探索する。
 すると足元に、何やら木くずのようなものが転がっていた。

 それには何となく見覚えがある。確か優勝カップの土台になっている木材の部分だ。

 その木くずを手にしながら、俺はカイラと目を合わせる。そして彼もまた俺のめを見据えてきていた。

 互いに瞼をパチパチとさせながら、シンクロしたかのように小首を傾げてしまう。
 いや、もう分かっている。この木くずで、一体何が起きたのかが。

 そう、先のカイラの攻撃によって、優勝カップは爆散してしまったのである。



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