ペット転生 ~飼い主がニートエルフな件に困りまして~

十本スイ

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「俺はこの城でコック長を務めてるジラフってもんだ。若造、ヴァイン様に聞いたが、本当にお前がノーヴァ様を唸らせたパンを作ったのか?」

 彼は先程怪訝な表情を浮かべた者の一人だ。
 齢はヴァインさんよりは少し若いが、それは見た目だけなので正確なところは分からない。

 とはいっても明らかに俺よりは老成しているとは思う。『魔族』でこの見た目なのだから。
 岩のようにゴツゴツしてそうな大きな顔。右目には黒い眼帯をしていて、そこから火傷のような傷痕が広がっており、左目で敵でも見るかのような鋭い視線に、普通なら委縮してしまうことだろう。

「信用できなければ実際に作ってみましょうか? ただパンは時間がかかるので他の料理で」
「ほう、それは面白い。ならお前が本物だとしたら、俺らはお前を認めることにしよう。それでいいな、お前らも」

 ジラフコック長が部下たちに聞くと、彼らも了承するように頷いた。

 ――そして数十分後。

「んおぉぉぉぉっ、コック長、これ美味いっすぅぅっ!」
「この《ハンバーグ》なんてすっげえ肉汁だ! しかもこのソースがマジヤベエッ!」
「何だよこれ! ぽ、ぽてとさらだ、だっけ? 一口食べたら止まらねえっ!」

 俺の目の前で、コックたちが俺の作った《ハンバーグ定食》にがっついている。
 この世界でも《ハンバーグ》はあるが、俺は特にソースにこだわった。

 にんにくをスライスして油でカリッと炒め、みりんと砂糖、醤油、酒を混ぜ合わせたものに《ニンニクチップ》を放り込み、沸騰させながら煮詰めで作ったのだ。
 最後に隠し味としてレモンの汁を味を見ながら加えて完成させた特製ソースである。

 またこっちでは《ポテトサラダ》はあまりメジャーではないようで、全員が食いついていた。何故かヴァインさんも。

「…………むぅ」

 俺の料理を口にして低く唸っているコック長に俺は視線を向けた。彼は小さく「なるほど」と呟くと、顔を俺に向けてくる。

「やるじゃねえか、若造。獣人らしいが、こんなに美味えもんを作るとは恐れいったぜ」

 そのまま俺に近づいてきて、二メートル以上はある身長で俺を見下ろすと、突如ニカッと笑い俺の背中をバンバンと叩き、

「ガッハッハッハ! ったく、あのノーヴァ様が目をつけるはずだ! 大したもんだ!」

 楽しそうに笑い始めた。

「よし! これなら問題ねえ! いや、むしろ俺らが学ぶことも多々あるだろうよ! 俺はコイツを認める! お前らもそれでいいな!」
「「「「おお!」」」」

 どうやら俺の腕を認めてくれたようで安堵する。他の人たちも見たところ歓迎してくれているようだ。それにこういう職場で働くのも新鮮でいいかもしれない。
 ここなら問題なく仕事ができると思っていた矢先、

「んははぁ~、美味しいねぇ~、僕ってばこのぽてとさらだ気に入っちゃったよぉ~」
 
 いつの間にか変態が《ポテトサラダ》を食べて幸せそうな顔をしていた。
 ただ何故か腕や顔に痛々しそうな歯形がたくさんあるが……。

「おいこら変態、何勝手に食べてんだよ?」
「お、おいおい新入り! ゼリス様に何言って――」
「ああ~いいんだよぉ、彼はぁ」

 コック長が蒼白な顔で、俺の言葉を咎めようとしたが、それを止めたのは言われている本人だった。

「彼は同志だからねぇ。いわゆるスメル同志?」
「そんな気味の悪い志を持った覚えなんてねえよっ」

 人の人生を終わらせるようなことを言わないでほしい。

「はぁ、ゼリス。お主は主のところに行っていたのではないのか?」
「ん~そうだったんだけどねぇ。ついついご主人の香しいニオイにたまらず飛び掛かったら、あちこち本気で噛まれてさぁ。あ~痛い痛い」

 なるほど。その噛み痕はそういうわけだったか。ていうかどんだけ怒らせたんだよ。血も出てるし……。

「ああ、右腕のこの噛み痕が一番のスメルが……主の……スメル……はあはあはあ」

 もうマジで何でコイツを傍に置いてんだノーヴァは! さっさと解雇しろよぉ!

「いやぁ、でもこんなぁに美味しい料理が作れるなんてぇ。これからは食事が楽しみになるねぇ」

 その言葉で空気が少し冷える。

 おいコイツ、ここに普段自分の食事を作ってる奴らがいるって知ってるよな? よくもまあ激怒させるようなことを言えるもんだ。
 見てみろ、コック長なんかこめかみがピクピクいってんぞ。

 ヴァインさんもやれやれと大きな溜め息を吐いている。こういう言動をするゼリスは珍しくないのだろう。彼だけでなくコック長たちも苦労してそうだ。

「とりあえずゼリス、彼らには仕事があるからお主も出て行け」
「えぇ~、僕のクロクロの仕事姿を見たいなぁ」

 誰の俺だって? 鼻殴るぞスメル痴女が!

「いいから行くぞ。すまなかったなお前たち。このアホのことは気にせず、いつも通り力を揮ってくれ」
「ああもう~、襟を引っ張らないでよぉ~。じゃあまたあとでねぇ、クロクロ~」

 できればそのまま永久追放されちまえ。
 そう願いながら、機嫌の悪いコックたちとともに俺は調理を始めた。



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