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 ガタッと音を立てて立ち上がるノーヴァ。

「な、何故そのようなことを言う! それでは余がチョキを出せば勝ちではないか!」
「だね。まあ最初だしいきなり勝っても面白くないからハンデを上げようと思って」
「むむむぅ」

 必死でロニカが何を考えているか見抜こうとするノーヴァに対し、ロニカは欠伸をしながら面倒そうに首をコキコキと鳴らしている。手には俺が作ったペロペロキャンディを持って舐めていた。
 この勝負では第三者が介入するのは御法度。相談などもしてはいけない。

 ただ俺たちは静かに勝負が着くまで見守ることだけが約束されている。もし俺が介入すればその時点でロニカの敗けが決定。それはノーヴァに対しても、だ。

 しかし……。

 俺はチラリと不気味なほど静かにノーヴァの背後に佇むゼリスを見やる。
 アイツ……今日は酷く大人しいけど、何か企んでんじゃねえだろうな。
 俺を無理矢理ここへ連れてきた罪悪感を覚えているヴァインさんはともかく、ゼリスはノーヴァに勝たせたいと思っているはず。

 いつもの変態発言が一つもなく静かなままだというのは、何か企てていることを想起させてしまう。
 恐らくロニカも気づいていると思うが、彼女が何も言わないので俺も黙っていることにする。

「――残り一分です」

 俺は舌戦時間が終了するまでの時間を告げる。
 つまるところこの時間は心理戦を繰り広げるための時間で、会話でどれだけ相手の手の内を読めるか、もしくは相手の心理をコントロールするかがカギになるのだ。

「よ、よし! ならば余はチョキを出そうぞ!」
「ふぅん」
「ほ、ほれ! このままじゃと負けるぞ? よいのか? 変えた方が良いと思うぞ?」
「別にいいってパーで。言ったでしょ、勝ちを譲ってあげるって」
「うぬぬぬぬぬっ」

 ペースは完全にロニカへ。ゲームは熱くなっても頭の中は常に冷やしておかないといけない。
 熱くなってしまえば短絡的な思考に偏ってしまうからだ。そうなれば相手に読まれやすくなってしまう。

「――時間です。お二人とも、一枚のカードを選んで場に出してください」

 ロニカは何の躊躇もなく一枚のカードを裏向きでテーブルに置く。
 対してあっさりとした態度のロニカを訝しむように睨んだあと、ノーヴァは三枚をじっくりと見つめてから一枚のカードを場へ提出した。

「では同時にカードを表向きにしてください。――どうぞ」

 俺の言葉と同時に、二人が裏向きに出したカードを一斉に表に。
 
 ロニカ――パー   ノーヴァ――グー

 その結果を見て、ロニカはニヤリと頬を緩めて言う。

「ね? だから言ったでしょ、パーを出すってさ」
「うっ、ぐぐぐぐぐぐぅ!」

 心底悔しそうに歯を噛み鳴らすノーヴァ。この勝負、深読みし過ぎたノーヴァの敗北となった。

「第一番勝負、勝者はロニカ」
「いぇ~い!」

 これみよがしに胸を張ってVサインをノーヴァに突き付けるロニカと、歯ぎしりの音がここまで聞こえてくるかのような怒りのオーラを纏ったノーヴァの対極図。
「それでは次の第二番勝負――神経衰弱へ移行します」

 俺はテーブルの隅に置かれていたトランプを手に取り、何度もシャッフルしていく。
 今回もちょっとだけ変わった神経衰弱を行う。

 それはジョーカー含めた54枚のカードを適当に〝表向け〟でまずは俺がテーブルの上に置いていく。
 その間、ロニカとノーヴァの二人は後ろを向いて目を閉じている。
 すべてのトランプを置き終わったあとは……。

「それでは十秒間、確認してください」

 俺の言葉ですぐさま振り向き、テーブルの上のトランプを確認していく二人。
 そう、この十秒間はこうしてトランプの場所を覚える時間が与えられるのだ。
 二人は瞬きせずに脳内メモリーに目の前の光景を記録していく。

 ――十秒後、再び彼女たちは目を閉じて後ろを向かせる。
 俺が一枚一枚裏向きにしようとすると、

「一人じゃ大変でしょぉ、僕も手伝いよぉ」
「えっと、ありがとうございます」

 ゼリスが近づいてきてトランプを裏向きにしていってくれる。一人じゃ少し時間がかかるので正直助かった。
 そしてすべてを裏向きにしたあと、今度は順番を決めなければいけない。
 とはいっても前回の勝負で敗けた者からという決まり事がある。

 つまり……。

「では余からじゃな。まずはコレとコレじゃ!」

 さすがに初っ端から間違うこともなく、見事にペアを引き当てた。
 実は普通の神経衰弱とはまた違ったルールがある。恐らくペアを引き続けられれば永遠に続けていいというのが通常ルールであろう。

 しかしこの神経衰弱は、連続で獲得できるのは三回まで、となっている。

「――よし、これで三つのペアをゲットじゃ!」
「じゃあ次はロニカだね。……クロメ、アレとソレをお願い」
「お前な。ちょっとは動けよ」
「えぇーめんどくさい」
「ったく、手を伸ばすくらいどうってことないだろうが」

 俺は溜め息を零しながらも、彼女が指定するトランプを捲っていく。さも当然という感じでロニカも三つのペアを取得した。
 二回目も、三回目も、両者ともに間違うことなく続ける。

 驚いたな。ロニカの記憶力がずば抜けてることは知ってたけど、ノーヴァも凄いじゃないか。

 テーブルに置かれているトランプも数が少なくなっていく。これは引き分けになって終わるかもしれない。
 引き分けになると、今度はトランプの枚数を増やして続けるのだ。このゲーム勝負には引き分けという結果は無い。決着がつくまで続けるのである。

 そうこうしているうちに残り六枚になり、ロニカの番がきて引き分け濃厚と俺が思ったその時、信じられないことが起こった。


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