どうやらオレは滅びたはずの最強種らしい ~嘘使いの世界攻略~

十本スイ

文字の大きさ
21 / 44

20

しおりを挟む
「うわー、よりにもよってドリモグかぁ。コイツの肉って筋張ってて美味しくないんだよねぇ」
「そんなことはいいからさっさと魔法の準備しなよガン!」
「そうだぞ、いつまでものんびりしてんなよっ!」
「それはジュダにだけは言われたくないし!」

 三人が一様に戦闘態勢に入る。

「ま、コイツらは何度も倒してっから楽勝だ! 行くぞ弾丸ブラザーズ!」
「「おうよっ!」」

 そうしてダンたちは魔法を駆使し遠距離から、ジュダは接近して大剣を振るうスタンスで確実にドリモグを討伐していく。
 一体、二体と倒したあと、妙な違和感にジュダが気づく。

「あれ? 残り一体どこに行った?」

 いつの間にかあと一体の姿が見当たらなかったのだ。

「ん~逃げたんじゃない?」

 そうダンが言った直後だった。
 ジュダの背後の事件が盛り上がったと思ったら、そこから勢いよく鋭い鼻を持ったドリモグが出てきたのだ。

「「危ないジュダ!?」」

 ダンたちが注意を促すが、ジュダは完全に意表を突かれてしまっており、このままではまともに回転する鼻を受けてしまう。
 ジュダが痛みに耐えるためか、歯を食いしばったその時――ブシュッ!

「「「……え?」」」

 三人が目を見開いたのは無理にない。
 何故なら突如どこからか飛んできた矢が、ドリモグの額に突き刺さったのだから。
 そのせいでドリモグはもんどりうってしまって、攻撃が一時中断した。

「――今だよ、ジュダ!」
 
 ジュダの耳朶を打ったのは――シンカの声だった。

「シ、シンカ!?」
「いいから早くトドメ!」
「あ、ああ! おらぁぁっ!」

 地面を転がっているドリモグを剣で一閃し最後の一体を討伐に成功した。
 だが当然のように、助かった安堵よりもジュダの意識はシンカへと向く。
 その表情は戸惑いも確かにあるが、そちらかというと彼がそこにいることに対し怒りを覚えているようだ。

「シンカ!」
「やぁジュダ。無事で何よりだね」
「そんなことはどうでもいい! お前、何でここにいる! ニヤの護衛はどうした!」

 矢継ぎ早に言いながらシンカに詰め寄り胸倉を掴むジュダ。

「ちょ、ちょっとジュダ! シンカはジュダを助けてくれたんだよ!」
「そうだよ! 下手すりゃ死んでたかもしれないのに!」
「うっせぇっ! そんなこと分かってんだよ! けどニヤを一人にはしねえって俺たちで決めただろうが!」

 その言葉に対しては反論が出ないようで、ダンたちも押し黙ってしまった。
 だがシンカだけはやれやれと肩を竦めると、

「あのさ、勘違いしてるかもしれないけど、ジュダを助けたのはオレじゃないから」
「「「は?」」」

 ジュダたち三人が同時に声を漏らす。

「それとニヤを一人になんかしてないし」
「「「……はい?」」」

 今度もまた同時だ。何とも仲の良いことである。
 シンカの真意をいまだ掴めていない様子の三人を見てニヤリと笑みを浮かべたシンカは、一本の木に視線を向けて少し大きめの声を出す。

「もういいよ、出てきても!」

 シンカの言葉の直後、木の後ろからひょっこりと姿を現したのは――ニヤだった。

「ニ、ニ、ニヤッ!? な、何でこんな危ないとこに……って、その手に持ってるのは何だ?」

 ジュダの目を引きつけたのは、ニヤが手に持っていた弓だ。彼女はその背に矢筒まで抱えていた。
 察しの悪いジュダはいつまで経っても状況がよく飲み込めていないのか唖然とするだけだったが……。

「……! ああそっか! さっきの矢ってニヤが撃ったんだ!」

 そんなガンの言葉に、ダンは「なるほど~」と納得しているが、信じられないという面持ちを浮かべたジュダが口をポカンと開けたままニヤを見つめる。

「お、お兄ちゃん……どう、だった?」
「ニ、ニヤ……お前……マジで?」

 ようやく彼女が自分を救ってくれたことを実感したようだ。
 だがジュダだけでなく、ダンたちもまたニヤが弓を扱えることなどは知らないはず。
 だからこそその理由を問い質してきた。
 そこでシンカが事の始まりから説明することにしたのである。

「――――なるほどね~。最近二人が妙に距離が近いなぁって思ってたら、隠れてそんなことしてたんだ。納得納得~」
「だよねだよね。けどたった一月くらいなんでしょ? 弓の鍛錬をしてたのって。それでもう獲物に命中できるようになるなんて凄いよニヤ」

 ダンとガンが、隠していたことを責めることなく、ただニヤの成長っぷりに感動しているようだ。

「あはは、まだ小さい的に当てるのは難しくて失敗するけど、さっきのモンスターみたいな大きな的なら当てられるようになったよ」
「ここ一ヵ月、頑張ったもんねニヤ。努力の成果だよ」

 シンカに認められて「えへへ」と恥ずかしそうに笑うニヤ。

「それで? さっきから黙ってるけど、オレたちのために努力した妹に何か言うことはないの、ジュダ?」

 シンカがそう言うと、ジュダは真剣な表情をしながら――涙を流した。

「「な、泣いてるぅっ!?」」

 同時に素晴らしいツッコミをする弾丸ブラザーズ。
 ジュダはゆっくりとニヤに近づく。

「お、お兄ちゃん?」

 兄の涙に明らかに困惑しているニヤだが、そんな彼女をジュダがそっと抱きしめた。

「別に俺らはお前に強くなってほしいなんて思ったことはないんだぞ、ニヤ」
「! ……うん。でもね、わたしだって何かしたかったの。いつまでも守られてばかりじゃ嫌だったの。だからシンカにお願いしたの」
「……そこでできるならお兄ちゃんを頼ってほしかったなぁ」
「ごめんね。でもせっかくだから驚かせたかったの。ねえ、驚いた?」
「もうびっくり仰天だぜ。今世紀最大の驚きじゃねえかな。ったく、俺の妹は悪戯好きで困った困った」
「えへへ。だからね、これからは狩りにだって一緒に行けるよ」
「それはもう少し強くなってからな。ハッキリ言ってまだ早い」
「ぶぅ~、お兄ちゃんの意地悪」
「お前のお兄ちゃんだからな」
「もう、さっきの仕返しなの?」
「あはは。でも……頑張ったなニヤ」
「うん! もっと頑張って、お兄ちゃんが狩りに出てもいいって言うくらい強くなるからね!」

 と言い合いつつ互いに笑みを浮かべる兄と妹。
 そんな二人を微笑ましそうにシンカたちは見つめる。

「あれぇ? でもさ、シンカって弓も使えたの? 見たことなかったけど」

 疑問を口にしたのはダンである。

「ううん、オレは使えないし教えられないよ」
「? じゃあどうやって? まさか独学ってわけじゃ……」

 ダンの質問に答えたのはニヤだった。

「あのね、ネネネさんに教えてもらったの!」

 その直後、ジュダの身体が石化したかのように硬直した。

「ニ、ニヤ……も、もう一度言ってくれるか? だ、誰に教わったって?」
「ネネネさんだよ、情報屋の」
「マジかよ! あの守銭奴に!?」

 ジュダだけでなくダンとガンも顔を引き攣らせている。

「え? え? 守銭奴? どういうこと? シンカ?」
「あーニヤは知らないだろうけど、ネネは可愛いと思った客には親切だし丁寧な対応するけど、それ以外じゃ結構ガメつい奴なんだよね」
「嘘!?」
「嘘じゃねえよニヤ! 俺なんていつも情報量はシンカの三倍くらい取られんだぞ! 顔がいかつくて可愛くねえって理由だけでな!」
「そ、そうなんだ……。じゃあダンたちも?」
「「い、いや俺たちはその……」」

 明らかに言いよどむ二人に小首を傾げるニヤ。

「ダンたちは一応気に入られてるよ――――頭だけね」

 シンカの説明にニヤが「頭?」と疑問を口にする。
 何でも丸い頭が可愛いということで、会う度に両手で擦られるのだそうだ。
 撫でられるのではなく擦られる。そのせいか、一時期擦られたところから毛が生えてこないという時期があり、ダンたちはネネネの擦られに恐怖を抱くことになったらしい。

「はぁ、よりにもよってアイツがニヤの師匠だなんて……。今度会った時に、そのことでぼったくられそうで怖い……」

 震える兄を見ながらニヤも「まあ師匠だし」と納得したように頷いた。
 後日談ではあるが、ジュダがお礼を言うためにネネネのもとへ向かったが、案の定ネネネからは「お礼なのに金品はないの? 相変わらず甲斐性なしだネ」と言われて、ショックを受けて帰ってきたのである。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...