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「――っ!? …………ひ、人?」
呟くように口にしたシンカが目にしているのは、間違いなく人型をしていた。
ただ頭の上半分を白銀の仮面で覆っていて、素顔は確認することができない。
ウェットスーツのような身体にフィットした服を着込み、その上から軽鎧を装備している。さらに背中には合計で七本もの剣を納めた鞘を担いでいた。
まさに異様ともいえるその姿は、その場にいる誰もが呆気に取られるものであった。
六面体はスーッと霧のように消失すると、人型は直立不動のまま地面へ落下してくる。
かなりの高さがあったにもかかわらず、人型は足を挫くこともなく見事に着地した。
「は、はは、ははは……そ、そうか、お前が『殺戮人形(キラードール)』だな?」
ガストもまた初めて目にしたようで、確かめるように発言した。
(キラー……ドール?)
シンカはその名に見覚えがあった。
それは《ニホン人の書》に記載があったからである。
かつて、この世界のある場所で、人形に命を与える研究が行われていた。その中の一つに『殺戮人形』の精製があったのである。莫大な金と時間、そして多くの犠牲を出した結果、研究は凍結されたと書かれていたのだ。
その理由は、人形に命を吹き込むには、生きた人の魂が必要になり、何度か試されて、一時的に人形が自ら動くこともあったが、すぐに命尽きてしまったのだという。
それからは大々的に研究を行う者はいなくなり、今では失われた古代研究とされている。
(そんなものが何故あんな奴の手元に……?)
ジージジジ……ジジジ。
機械音のようなものが、人形から聞こえてくる。
同時に仮面に開いた切り口のような六つの穴が赤々と光った。
「――視界オールクリア。エネルギー残存率45%。《ドールシステム》正常」
女性のような高い声が機械的に響く。
「ミッション1確認――確認OK。ターゲット、捕捉」
瞬間、シンカたちの全身を強烈な殺気が襲った。
「よ、よし! おい『殺戮人形』! まず手始めにその『獣人』を殺してやれっ!」
ガストの指示を聞き、ジュダの身体に力が入る。
「――ドールシンボル『七房』。ミッションを実行」
シンカが『七房』というのが名前なのかと思った次の瞬間、驚くべく光景を目にすることになった。
「――――ひぐぃっ!?」
一瞬にして七房がガストの懐へ移動するなり、彼の首を右手で掴んだ。かなりの握力なのだろう、ガストは苦悶の表情を浮かべ必死にもがいている。
「かぁ……っ、お……れ……じゃ……っ!?」
ガストが発せた言葉はそこまでだった。骨を砕くような音が響き渡ると、ジタバタしていたガストはその動きを止めてぐったりとする。
掴んでいた手をパッと放した七房は、地面に倒れるガストを一瞥もしないで、その意識をシンカたちへと向けた。
「お、おいおい、エネルギーが半分以下のくせにガストを瞬殺かよ」
「? どういうこと?」
どうやら空中にいた七房の呟きを、ジュダは聞き取っていたらしい。さすがは聴覚に優れた種族だ。
それにしても何故召喚者であろうガストが真っ先に殺されたのか、一体どういう原理でここに現れたのか、先程の六面体は何なのか、疑問は尽きないが、そんなことを考えている余裕はなさそうだ。
七房の身体がブレたと思ったら、瞬時にしてジュダの前に現れ蹴りを放ってきた。
ギョッとしたジュダだったが、剣の腹で防御する。だがそれでも蹴りの威力は強烈で、ジュダは後方へ弾かれるようにして転がっていく。
七房は軽く蹴ったくらいだろう。とても全力を出しているようには見えない。
(コイツ、とんでもないパワーだ。しかも……魔力を一切感じない)
あの六面体からは驚愕するほどの魔力を感じたのに、七房からは元々魔力がない存在のように一欠けらも感じ取れない。
魔力強化なしでこの身体能力は脱帽するばかりだ。
(コイツの速さに対抗できるのはオレだけか)
シンカは魔力で身体を覆いながら、地面に亀裂が走るほどの踏み込みを見せる。
(――《飛脚》!)
これこそ、《ニホン人の書》に記載されていた技の一つ。端的にいえば、魔力で強化した脚力を以て成す神速の歩法術だ。
シンカはそのまま七房へと接近し、最後の〝嘘玉〟を七房に当てようとする――が、
「――おわぁっ!?」
頭上にキラリと輝く閃光を感知し、咄嗟に後ろへ跳ぶ。
見れば、いつの間にか剣をその手に握った七房が、剣をシンカに向けて振り下ろしていたのだった。
あと一歩気づくのが遅かったら、恐らくは真っ二つにされていただろう。
(剣を抜く瞬間すら見えなかった。これが……『殺戮人形』か)
書の説明によれば、殺しに特化した戦闘タイプの自動人形らしい。
(これは、出し惜しみしてる場合じゃないよね)
すべての魔力を身体強化へと回す。
シンカの雰囲気が変わったことを察知したのか、七つの剣のうち、もう一本を抜いて双剣の構えを見せる。
(身長は向こうの方が上。リーチで勝負しても勝ち目はない。やっぱりここは……スピード!)
――バキィッ!
踏み込みで地面が割れると同時に、シンカは一足飛びで七房の懐へ入っていた。そのまま右手に持った〝嘘玉〟を投げつける。
だが紙一重で七房は身を翻して避けてしまう。
呟くように口にしたシンカが目にしているのは、間違いなく人型をしていた。
ただ頭の上半分を白銀の仮面で覆っていて、素顔は確認することができない。
ウェットスーツのような身体にフィットした服を着込み、その上から軽鎧を装備している。さらに背中には合計で七本もの剣を納めた鞘を担いでいた。
まさに異様ともいえるその姿は、その場にいる誰もが呆気に取られるものであった。
六面体はスーッと霧のように消失すると、人型は直立不動のまま地面へ落下してくる。
かなりの高さがあったにもかかわらず、人型は足を挫くこともなく見事に着地した。
「は、はは、ははは……そ、そうか、お前が『殺戮人形(キラードール)』だな?」
ガストもまた初めて目にしたようで、確かめるように発言した。
(キラー……ドール?)
シンカはその名に見覚えがあった。
それは《ニホン人の書》に記載があったからである。
かつて、この世界のある場所で、人形に命を与える研究が行われていた。その中の一つに『殺戮人形』の精製があったのである。莫大な金と時間、そして多くの犠牲を出した結果、研究は凍結されたと書かれていたのだ。
その理由は、人形に命を吹き込むには、生きた人の魂が必要になり、何度か試されて、一時的に人形が自ら動くこともあったが、すぐに命尽きてしまったのだという。
それからは大々的に研究を行う者はいなくなり、今では失われた古代研究とされている。
(そんなものが何故あんな奴の手元に……?)
ジージジジ……ジジジ。
機械音のようなものが、人形から聞こえてくる。
同時に仮面に開いた切り口のような六つの穴が赤々と光った。
「――視界オールクリア。エネルギー残存率45%。《ドールシステム》正常」
女性のような高い声が機械的に響く。
「ミッション1確認――確認OK。ターゲット、捕捉」
瞬間、シンカたちの全身を強烈な殺気が襲った。
「よ、よし! おい『殺戮人形』! まず手始めにその『獣人』を殺してやれっ!」
ガストの指示を聞き、ジュダの身体に力が入る。
「――ドールシンボル『七房』。ミッションを実行」
シンカが『七房』というのが名前なのかと思った次の瞬間、驚くべく光景を目にすることになった。
「――――ひぐぃっ!?」
一瞬にして七房がガストの懐へ移動するなり、彼の首を右手で掴んだ。かなりの握力なのだろう、ガストは苦悶の表情を浮かべ必死にもがいている。
「かぁ……っ、お……れ……じゃ……っ!?」
ガストが発せた言葉はそこまでだった。骨を砕くような音が響き渡ると、ジタバタしていたガストはその動きを止めてぐったりとする。
掴んでいた手をパッと放した七房は、地面に倒れるガストを一瞥もしないで、その意識をシンカたちへと向けた。
「お、おいおい、エネルギーが半分以下のくせにガストを瞬殺かよ」
「? どういうこと?」
どうやら空中にいた七房の呟きを、ジュダは聞き取っていたらしい。さすがは聴覚に優れた種族だ。
それにしても何故召喚者であろうガストが真っ先に殺されたのか、一体どういう原理でここに現れたのか、先程の六面体は何なのか、疑問は尽きないが、そんなことを考えている余裕はなさそうだ。
七房の身体がブレたと思ったら、瞬時にしてジュダの前に現れ蹴りを放ってきた。
ギョッとしたジュダだったが、剣の腹で防御する。だがそれでも蹴りの威力は強烈で、ジュダは後方へ弾かれるようにして転がっていく。
七房は軽く蹴ったくらいだろう。とても全力を出しているようには見えない。
(コイツ、とんでもないパワーだ。しかも……魔力を一切感じない)
あの六面体からは驚愕するほどの魔力を感じたのに、七房からは元々魔力がない存在のように一欠けらも感じ取れない。
魔力強化なしでこの身体能力は脱帽するばかりだ。
(コイツの速さに対抗できるのはオレだけか)
シンカは魔力で身体を覆いながら、地面に亀裂が走るほどの踏み込みを見せる。
(――《飛脚》!)
これこそ、《ニホン人の書》に記載されていた技の一つ。端的にいえば、魔力で強化した脚力を以て成す神速の歩法術だ。
シンカはそのまま七房へと接近し、最後の〝嘘玉〟を七房に当てようとする――が、
「――おわぁっ!?」
頭上にキラリと輝く閃光を感知し、咄嗟に後ろへ跳ぶ。
見れば、いつの間にか剣をその手に握った七房が、剣をシンカに向けて振り下ろしていたのだった。
あと一歩気づくのが遅かったら、恐らくは真っ二つにされていただろう。
(剣を抜く瞬間すら見えなかった。これが……『殺戮人形』か)
書の説明によれば、殺しに特化した戦闘タイプの自動人形らしい。
(これは、出し惜しみしてる場合じゃないよね)
すべての魔力を身体強化へと回す。
シンカの雰囲気が変わったことを察知したのか、七つの剣のうち、もう一本を抜いて双剣の構えを見せる。
(身長は向こうの方が上。リーチで勝負しても勝ち目はない。やっぱりここは……スピード!)
――バキィッ!
踏み込みで地面が割れると同時に、シンカは一足飛びで七房の懐へ入っていた。そのまま右手に持った〝嘘玉〟を投げつける。
だが紙一重で七房は身を翻して避けてしまう。
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