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「ちっ!」
シンカは電光石火の動きで、投げた〝嘘玉〟を追い地面に落下する前にキャッチする。
(今のスピードでも見切られるのか)
一発当たれば〝嘘玉〟の効果で瞬殺できると思うが、なかなかに手強い。
(ならこれでどうだっ!)
シンカはスピードで翻弄し、七房との距離を詰めると、左手を七房へと向ける。
「――《魔那砲》っ!」
手の先から魔力の塊が七房に向けて放たれる。
空気を切り裂くようなその砲撃は、〝嘘玉〟のように小さいわけではないので、タイミングが合えば紙一重でかわすことはできない。
その証拠に、身体を捻って回避しようとした七房だったが、左腕が砲撃に飲み込まれてしまった。
衝撃を受けた七房は、そのまま後方へ弾かれたように吹き飛んでいく。
だがすぐに起き上がり、シンカを前にして身構える。
バチ、バチチッと、七房の失われた左腕部分が放電とともに煙が立ち上っていた。
(左腕を消し飛ばされても動揺は一切なし、ね。さすがは人形だ)
《魔那砲》は、見事に命中し七房へ大ダメージを与えることができたが、怯える様子を欠片も見せずに残された右手で剣を持って戦闘態勢を維持している。
シンカも今のでかなり魔力を消費したが、まだまだ余裕はあった。あわよくば倒してしまえれば良かったが、そう上手くはいかなったようだ。
「――損傷率28%。エネルギー残存率33%。ターゲットの戦力分析終了。現状、ミッション成功を困難と断定。プラン変更の必要あり」
何かブツブツ言っているが、距離があるのでシンカには届いていない。
すると何を思ってか、七房が持っていた剣を投げつけてきた。そんな真っ直ぐな投擲が当たるわけもなく、シンカは確実に避けることに成功した。
だが――。
「――ニヤッ!」
突如聞こえたジュダの声。彼の視線の先を追うと、ニヤを組み伏せて剣を彼女の背中に突き付けている七房の姿があった。
「ニヤを放せっ、この人形野郎がっ!」
ジュダが自身の魔法を放とうと七房に向けて右手をかざすが、
「ダメだよ、ジュダ! それじゃニヤまで巻き込んでしまう!」
「うぐ……くそっ!」
悔しそうにジュダは右手を下ろす。
まさか人形が人質を取るとは想定外だった。これまで通り力押しで来ると思っていたが、こんな作戦まで行使できるなんて……。
しばらく膠着状態が続く中、空気を壊す存在がそこに現れた。
それは複数のモンスターである。ここはモンスターが蠢くエリア。囲まれてもおかしくはない。
恐らく騒ぎを聞きつけて集まってきたのだろう。
「くっ、こんな時に!?」
思わずシンカの口から愚痴が零れ出る。
しかしその時、あろうことか七房はニヤを抱えるとモンスターの脇を擦り抜けて逃亡を図ったのだ。
「シンカァ~ッ! お兄ちゃぁんっ!」
泣き叫ぶニヤの声を聞いて、すぐに追いかけようとする二人だが、行く手をモンスターが阻んできた。
「くそっ、ブラックウルフにソードテイルリザードが二体ずつとか最悪だ!」
以前倒したことのあるブラックウルフに、尻尾が刃のように鋭くなっている巨大なワニがシンカたちを獲物にしようとしている。
正直言ってこんなバケモノどもを真正面から相手するのは骨が折れるどころではない。
それに時間をかければかけるほど、ニヤはどんどん遠ざかっていく。
「……シンカ、ここは俺に任せてお前はニヤを追ってくれ」
「ジュダ?」
「悔しいけどよ、今の俺じゃあの人形に勝てねえ。でもお前なら……だから頼む!」
「でもジュダ一人じゃ、このモンスターたちに……っ!」
「それでも!」
「!?」
「……それでも俺は、ニヤが助かる確率が高い方に賭けてえんだ」
「ジュダ……」
「俺はアイツの兄ちゃんだ。妹のために命をかけるくれえはわけねえ!」
この真っ直ぐの瞳。こういう目をした時のジュダに何を言っても無駄だということをシンカは知っている。
だがいくらジュダでも、四体のバケモノ相手に戦い切れるわけがない。逃げることだって容易ではないはずだ。
その時、一体のソードテイルリザードが、刃状の尾で薙ぎ払ってきた。
「危ねえっ! ぐあぁっ!?」
「ジュダッ!?」
相手の攻撃が届く前に、ジュダがシンカを突き飛ばしたお蔭でシンカは無傷で済んだ。
しかしジュダは完全に避けることができず、脇腹を切り裂かれてしまった。
「ジュダ!」
「うっせぇっ!」
「! ……ジュダ?」
「いいから行けぇっ! リーダー命令だっ!」
「で、でもその傷じゃ……! せめて〝嘘玉〟で!」
「そいつはあの人形を倒すためにとっとけ! 今日はもう作れねえんだろ!」
彼の言う通り、今日はもう朝に作っていて、新しい〝嘘玉〟を作れずにいた。
だがジュダは深手だ。こんな状態でモンスターたちを相手にできるとは思えない。
「へ、へへへ……舐めんじゃ……ねえぞ、シンカァ」
不敵に笑みを浮かべながら、ジュダが剣を構える。
「俺は……お前ならニヤを守ってくれるって信じてる。だから……お前も俺を信じてくれ」
「…………分かった」
シンカは右手に持った〝嘘玉〟をギュッと強く握りながら了承した。
「道は俺は切り開く! すぅぅぅぅ……。――バーンブレスッ!」
大きく息を吸い、勢いよく肺から一気に空気を吐き出すジュダ。ただ彼の口内から吐き出されるのは空気だけではなく、紅蓮の火球そのものだった。
火球はモンスターたちを退け、火の道を形作る。
「今だっ、行けシンカッ!」
熱さを気にせず、シンカは火の道を突っ走る。当然モンスターたちが邪魔をしようとしてくるが、再び火球がジュダから放たれモンスターたちを阻む。
「へへ、妹を頼んだぜ……シンカ」
シンカは電光石火の動きで、投げた〝嘘玉〟を追い地面に落下する前にキャッチする。
(今のスピードでも見切られるのか)
一発当たれば〝嘘玉〟の効果で瞬殺できると思うが、なかなかに手強い。
(ならこれでどうだっ!)
シンカはスピードで翻弄し、七房との距離を詰めると、左手を七房へと向ける。
「――《魔那砲》っ!」
手の先から魔力の塊が七房に向けて放たれる。
空気を切り裂くようなその砲撃は、〝嘘玉〟のように小さいわけではないので、タイミングが合えば紙一重でかわすことはできない。
その証拠に、身体を捻って回避しようとした七房だったが、左腕が砲撃に飲み込まれてしまった。
衝撃を受けた七房は、そのまま後方へ弾かれたように吹き飛んでいく。
だがすぐに起き上がり、シンカを前にして身構える。
バチ、バチチッと、七房の失われた左腕部分が放電とともに煙が立ち上っていた。
(左腕を消し飛ばされても動揺は一切なし、ね。さすがは人形だ)
《魔那砲》は、見事に命中し七房へ大ダメージを与えることができたが、怯える様子を欠片も見せずに残された右手で剣を持って戦闘態勢を維持している。
シンカも今のでかなり魔力を消費したが、まだまだ余裕はあった。あわよくば倒してしまえれば良かったが、そう上手くはいかなったようだ。
「――損傷率28%。エネルギー残存率33%。ターゲットの戦力分析終了。現状、ミッション成功を困難と断定。プラン変更の必要あり」
何かブツブツ言っているが、距離があるのでシンカには届いていない。
すると何を思ってか、七房が持っていた剣を投げつけてきた。そんな真っ直ぐな投擲が当たるわけもなく、シンカは確実に避けることに成功した。
だが――。
「――ニヤッ!」
突如聞こえたジュダの声。彼の視線の先を追うと、ニヤを組み伏せて剣を彼女の背中に突き付けている七房の姿があった。
「ニヤを放せっ、この人形野郎がっ!」
ジュダが自身の魔法を放とうと七房に向けて右手をかざすが、
「ダメだよ、ジュダ! それじゃニヤまで巻き込んでしまう!」
「うぐ……くそっ!」
悔しそうにジュダは右手を下ろす。
まさか人形が人質を取るとは想定外だった。これまで通り力押しで来ると思っていたが、こんな作戦まで行使できるなんて……。
しばらく膠着状態が続く中、空気を壊す存在がそこに現れた。
それは複数のモンスターである。ここはモンスターが蠢くエリア。囲まれてもおかしくはない。
恐らく騒ぎを聞きつけて集まってきたのだろう。
「くっ、こんな時に!?」
思わずシンカの口から愚痴が零れ出る。
しかしその時、あろうことか七房はニヤを抱えるとモンスターの脇を擦り抜けて逃亡を図ったのだ。
「シンカァ~ッ! お兄ちゃぁんっ!」
泣き叫ぶニヤの声を聞いて、すぐに追いかけようとする二人だが、行く手をモンスターが阻んできた。
「くそっ、ブラックウルフにソードテイルリザードが二体ずつとか最悪だ!」
以前倒したことのあるブラックウルフに、尻尾が刃のように鋭くなっている巨大なワニがシンカたちを獲物にしようとしている。
正直言ってこんなバケモノどもを真正面から相手するのは骨が折れるどころではない。
それに時間をかければかけるほど、ニヤはどんどん遠ざかっていく。
「……シンカ、ここは俺に任せてお前はニヤを追ってくれ」
「ジュダ?」
「悔しいけどよ、今の俺じゃあの人形に勝てねえ。でもお前なら……だから頼む!」
「でもジュダ一人じゃ、このモンスターたちに……っ!」
「それでも!」
「!?」
「……それでも俺は、ニヤが助かる確率が高い方に賭けてえんだ」
「ジュダ……」
「俺はアイツの兄ちゃんだ。妹のために命をかけるくれえはわけねえ!」
この真っ直ぐの瞳。こういう目をした時のジュダに何を言っても無駄だということをシンカは知っている。
だがいくらジュダでも、四体のバケモノ相手に戦い切れるわけがない。逃げることだって容易ではないはずだ。
その時、一体のソードテイルリザードが、刃状の尾で薙ぎ払ってきた。
「危ねえっ! ぐあぁっ!?」
「ジュダッ!?」
相手の攻撃が届く前に、ジュダがシンカを突き飛ばしたお蔭でシンカは無傷で済んだ。
しかしジュダは完全に避けることができず、脇腹を切り裂かれてしまった。
「ジュダ!」
「うっせぇっ!」
「! ……ジュダ?」
「いいから行けぇっ! リーダー命令だっ!」
「で、でもその傷じゃ……! せめて〝嘘玉〟で!」
「そいつはあの人形を倒すためにとっとけ! 今日はもう作れねえんだろ!」
彼の言う通り、今日はもう朝に作っていて、新しい〝嘘玉〟を作れずにいた。
だがジュダは深手だ。こんな状態でモンスターたちを相手にできるとは思えない。
「へ、へへへ……舐めんじゃ……ねえぞ、シンカァ」
不敵に笑みを浮かべながら、ジュダが剣を構える。
「俺は……お前ならニヤを守ってくれるって信じてる。だから……お前も俺を信じてくれ」
「…………分かった」
シンカは右手に持った〝嘘玉〟をギュッと強く握りながら了承した。
「道は俺は切り開く! すぅぅぅぅ……。――バーンブレスッ!」
大きく息を吸い、勢いよく肺から一気に空気を吐き出すジュダ。ただ彼の口内から吐き出されるのは空気だけではなく、紅蓮の火球そのものだった。
火球はモンスターたちを退け、火の道を形作る。
「今だっ、行けシンカッ!」
熱さを気にせず、シンカは火の道を突っ走る。当然モンスターたちが邪魔をしようとしてくるが、再び火球がジュダから放たれモンスターたちを阻む。
「へへ、妹を頼んだぜ……シンカ」
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