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――キィンッ、キィンッ、キィンッ!
シンカと七房はそれぞれ大地を駆け回りながら、すれ違う度に互いの武器を交わせ小気味の良い音を響かせていた。
何度かそんなやり取りを終えたあと、不意に七房が一定の距離を保ったまま立ち止まる。
「戦力分析完了。動作問題無し。これよりギアを一段上昇」
先程と比べてまた一段階速くなったスピードで攻め寄ってきた。
しかしこの動きは――知っている。
シンカは相手の閃光のような剣捌きを見事に短剣で受け流す。
(やっぱり一度戦ったことがあって経験になってるってわけだね!)
だからこそ動きの先読みができる。
戦闘に特化した人形とはいえ、シンカもまた戦闘センスだけを取れば決して引けを取らないのだ。
ただし前回もそうだったが、パワーではまったく勝てないので、短剣を滑らせるように動かして受け流すしかない。
それにはかなりの集中力を要するが、シンカは今までの戦闘で一番感覚が磨かれていた。
ただいつも以上に精神は擦り減っている気がする。それはきっと失明した右目のカバーに余計な神経を使っているからだろう。
若干だが右側からの攻撃に対し、反応が遅れていることも自覚している。
「――たぁっ!」
相手の剣を受け流すと同時に懐へ入り、そのまま右腕を一閃する。
切断はできなかったが、衝撃により七房は右手に持っていた剣を手放してしまう。
七房はすぐに距離を取り、違う剣を鞘から抜く。
さすがに相手が所持している七本全部の剣を対処していくのは体力が持つか分からない。
その前にケリをつけたいが、なかなか決定打を与えられない。
(身体も鉄みたいに固いし、やっぱ前と一緒で《魔那砲》を使うか?)
だが《魔那砲》は威力こそ大きいが、魔力を大量に消費してしまう。
問題は例のマッチョ男だ。七房だけが相手なら全力を尽くせるが、このあとにアレを相手にしなければならないとなると……。
できるだけ体力と魔力の消耗は抑えたい。
だからこそ無いものねだりをしてしまう。
こんな時に〝嘘玉〟さえあったなら、と。
するとその時、パチパチパチと拍手の音が耳朶を打った。
ちょうど七房の後ろにある岩の上に立って高みの見物をしているマッチョ男からだ。
「素直に驚く。その歳で、『殺戮人形』相手にここまでできるとはな。完全体ではないとはいえ大したものだ。褒めてやろう」
相変わらずの上から目線だ。マジでイラッとくる。
「七房、そこそこ通常データは収集できた。あとは――アレだけだ」
アレ……?
思わずシンカは眉をひそめてしまった。
「使え――《超越の極意》だ」
「現存のエネルギー残量を考慮し、そのシステムには問題があると判断」
「いいからやれ。お前はただ黙って従えばいい」
「……了解。システム《超越の極意》――起動」
そんなものがあるなど聞いていないし見ていない。
いや、今のやり取りを聞けば、七房もまた今の状態で使うのを禁忌としていたようだ。
だから前回は使わなかったが、今は指示を出す存在が傍にいる。
七房の身体からブゥゥゥゥゥンッと、まるでモーターが高速回転しているような音が聞こえてきた。
同時に彼女の身体が炎を纏っているかのように赤く染まっていく。
「行動――開始」
刹那、七房の姿が目の前から消え、シンカの背後に現れて剣を振るってきた。
「速――っ!?」
気配だけで反射的に振り向き右手に持っていた短剣でガードするが、咄嗟のことと握りが甘かったのか短剣を弾き飛ばされてしまった。
さらに跳ね上がったシンカの右腕のせいでガラ空きになった脇腹を蹴られる。
その威力はさながらハンマーで殴られたかのようで、骨が砕ける音とともにシンカはピンボールのように吹き飛んでいき、その先にある岩に激突した。
「がっはぁっ!?」
冗談ではない。さすがに予想外にもほどがある。
恐らく相手にとってはドーピングのようなものなのだろう。
身体能力が爆発的に向上している。ただでさえ速く重い彼女の攻撃が、手の付けられないくらいの威力になっていた。
(マズイ……! このままだと……っ)
もう四の五の言っている時間はない。
全力全開で対処しないと、七房に殺されてしまう。
岩に弾かれ地面に倒れたシンカは、歯を食いしばりながら立ち上がる。
強烈に脇腹から激痛が走るが、痛みは奥歯を強く噛みしめ耐えるようにした。
またも七房の姿が掻き消え、今度は頭上へ現れる。
しかし今度は振りかぶってくる剣をシンカは横っ飛びで転がるように回避に成功した。
マッチョ男がそれを見て「ほほう」と感嘆な声を漏らしている。
シンカにとっては、予想できた一撃だったから避けられただけだ。
シンカは岩を背にしていたし、七房が意表を突く攻撃をしてくると仮定すると、頭上からの攻撃だと推測したのである。見事に的中したお蔭で避けられた。
ただもし他の方向からの攻撃だったらそれでジ・エンドだった可能性はあるが。
七房が岩を踏み台にして、今度はシンカに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。
「オレが何も考えずにここに跳んできたって思わないでよね!」
シンカが向かった先には、先程飛ばされた短剣が落ちていたのだ。
それを転がりながらも拾い上げたのである。
七房の剣を、両手に持った短剣で防御に成功――したのはいいが、相手のパワーに押されて身体ごと後方へ吹き飛ばされてしまう。
その衝撃で脇腹に強烈な痛みが走る。
思わず全意識が硬直してしまうほどの痛烈なものだ。
そしてその隙を逃す七房ではなかった。
接近してきて、今度こそ彼女の振るう剣はシンカの首を捉えていたのである。
目では何とか彼女の攻撃は見えていた。しかし身体が言うことを聞いてくれない。
シンカと七房はそれぞれ大地を駆け回りながら、すれ違う度に互いの武器を交わせ小気味の良い音を響かせていた。
何度かそんなやり取りを終えたあと、不意に七房が一定の距離を保ったまま立ち止まる。
「戦力分析完了。動作問題無し。これよりギアを一段上昇」
先程と比べてまた一段階速くなったスピードで攻め寄ってきた。
しかしこの動きは――知っている。
シンカは相手の閃光のような剣捌きを見事に短剣で受け流す。
(やっぱり一度戦ったことがあって経験になってるってわけだね!)
だからこそ動きの先読みができる。
戦闘に特化した人形とはいえ、シンカもまた戦闘センスだけを取れば決して引けを取らないのだ。
ただし前回もそうだったが、パワーではまったく勝てないので、短剣を滑らせるように動かして受け流すしかない。
それにはかなりの集中力を要するが、シンカは今までの戦闘で一番感覚が磨かれていた。
ただいつも以上に精神は擦り減っている気がする。それはきっと失明した右目のカバーに余計な神経を使っているからだろう。
若干だが右側からの攻撃に対し、反応が遅れていることも自覚している。
「――たぁっ!」
相手の剣を受け流すと同時に懐へ入り、そのまま右腕を一閃する。
切断はできなかったが、衝撃により七房は右手に持っていた剣を手放してしまう。
七房はすぐに距離を取り、違う剣を鞘から抜く。
さすがに相手が所持している七本全部の剣を対処していくのは体力が持つか分からない。
その前にケリをつけたいが、なかなか決定打を与えられない。
(身体も鉄みたいに固いし、やっぱ前と一緒で《魔那砲》を使うか?)
だが《魔那砲》は威力こそ大きいが、魔力を大量に消費してしまう。
問題は例のマッチョ男だ。七房だけが相手なら全力を尽くせるが、このあとにアレを相手にしなければならないとなると……。
できるだけ体力と魔力の消耗は抑えたい。
だからこそ無いものねだりをしてしまう。
こんな時に〝嘘玉〟さえあったなら、と。
するとその時、パチパチパチと拍手の音が耳朶を打った。
ちょうど七房の後ろにある岩の上に立って高みの見物をしているマッチョ男からだ。
「素直に驚く。その歳で、『殺戮人形』相手にここまでできるとはな。完全体ではないとはいえ大したものだ。褒めてやろう」
相変わらずの上から目線だ。マジでイラッとくる。
「七房、そこそこ通常データは収集できた。あとは――アレだけだ」
アレ……?
思わずシンカは眉をひそめてしまった。
「使え――《超越の極意》だ」
「現存のエネルギー残量を考慮し、そのシステムには問題があると判断」
「いいからやれ。お前はただ黙って従えばいい」
「……了解。システム《超越の極意》――起動」
そんなものがあるなど聞いていないし見ていない。
いや、今のやり取りを聞けば、七房もまた今の状態で使うのを禁忌としていたようだ。
だから前回は使わなかったが、今は指示を出す存在が傍にいる。
七房の身体からブゥゥゥゥゥンッと、まるでモーターが高速回転しているような音が聞こえてきた。
同時に彼女の身体が炎を纏っているかのように赤く染まっていく。
「行動――開始」
刹那、七房の姿が目の前から消え、シンカの背後に現れて剣を振るってきた。
「速――っ!?」
気配だけで反射的に振り向き右手に持っていた短剣でガードするが、咄嗟のことと握りが甘かったのか短剣を弾き飛ばされてしまった。
さらに跳ね上がったシンカの右腕のせいでガラ空きになった脇腹を蹴られる。
その威力はさながらハンマーで殴られたかのようで、骨が砕ける音とともにシンカはピンボールのように吹き飛んでいき、その先にある岩に激突した。
「がっはぁっ!?」
冗談ではない。さすがに予想外にもほどがある。
恐らく相手にとってはドーピングのようなものなのだろう。
身体能力が爆発的に向上している。ただでさえ速く重い彼女の攻撃が、手の付けられないくらいの威力になっていた。
(マズイ……! このままだと……っ)
もう四の五の言っている時間はない。
全力全開で対処しないと、七房に殺されてしまう。
岩に弾かれ地面に倒れたシンカは、歯を食いしばりながら立ち上がる。
強烈に脇腹から激痛が走るが、痛みは奥歯を強く噛みしめ耐えるようにした。
またも七房の姿が掻き消え、今度は頭上へ現れる。
しかし今度は振りかぶってくる剣をシンカは横っ飛びで転がるように回避に成功した。
マッチョ男がそれを見て「ほほう」と感嘆な声を漏らしている。
シンカにとっては、予想できた一撃だったから避けられただけだ。
シンカは岩を背にしていたし、七房が意表を突く攻撃をしてくると仮定すると、頭上からの攻撃だと推測したのである。見事に的中したお蔭で避けられた。
ただもし他の方向からの攻撃だったらそれでジ・エンドだった可能性はあるが。
七房が岩を踏み台にして、今度はシンカに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。
「オレが何も考えずにここに跳んできたって思わないでよね!」
シンカが向かった先には、先程飛ばされた短剣が落ちていたのだ。
それを転がりながらも拾い上げたのである。
七房の剣を、両手に持った短剣で防御に成功――したのはいいが、相手のパワーに押されて身体ごと後方へ吹き飛ばされてしまう。
その衝撃で脇腹に強烈な痛みが走る。
思わず全意識が硬直してしまうほどの痛烈なものだ。
そしてその隙を逃す七房ではなかった。
接近してきて、今度こそ彼女の振るう剣はシンカの首を捉えていたのである。
目では何とか彼女の攻撃は見えていた。しかし身体が言うことを聞いてくれない。
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