異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

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「ぜぇぜぇぜぇ……」

 現在、人気のない路地で理九が四つん這いになりながら苦しそうにしていた。

「情けねえなぁ、あのくらいでへばってよ」
「っ……き、君が僕たちを抱えて跳んだり跳ねたりするからだろ……うっぷ」
「お兄ちゃん、大丈夫?」

 小色は酔ったせいか顔色の悪い理九の背中を擦りながら声をかけている。

「あ、ああ、ありがと小色……ていうか、お前は大丈夫なのか?」
「う、うん。優しく運んでもらってたから」
「え?」
「当然だろ。女性はソフトに扱わねえとな」

 実際小色には、できる限り移動の影響を受けないように気を配った。

「……ちょっと待て。だったら僕もソフトに運んでくれたら良かったんじゃ……?」
「男を優しく扱うなんて気持ちの悪いじゃねえか」
「偏見! そういう考えが差別を生むんだぞ!」
「これは差別じゃなく区別だっての。それに少し気にはしたぞ。全力で動いたら多分お前さん、失神してたしな」

 かなりの速度で動いていたので、耐性が低い人物ならば、その身にかかる重力によって意識を失っていた可能性もある。

「……ったくもう……今日は散々だ」

 そう言いながら立ち上がり、壁を背に預ける理九。そんな彼がジッとこちらを見つめてくる。

「それにしても、本当に君は何者なんだ? あの巨大ゾンビを倒したかと思ったら、僕たちを抱えての動き。とても普通の人間だとは思えない」

 その目にはまだ警戒心が渦巻いている。初めて会った時と比べては若干マシにはなっているが。

(んーどうすっかなぁ。もういろいろバレちまってるし……)

 この世界が、元の平和な日常が繰り広げられていたなら自ら説明することはなかっただろう。しかし仕方なかったとはいえ、実際に人外じみた力を彼らの前で見せてしまった。

 こんな変わり果てた世界だ。何があっても不思議ではないし、今更真実を話したところで、日門自身をどうにかできる二人でもない。
 それによってこの地に居辛くなれば、力を使ってどこか別の場所へと逃げればいいと思っている。それができるだけの力が日門にはあるから。

「まあ簡単に言うとだ、異世界から帰ってきたんだよ、俺」
「「…………へ?」」

 当然ながらコイツ何言ってんだ的な表情で見られてしまう。無理もないが、やはり一発で納得するのは無理なようだ。

「ほら、ここ最近……というか一年半くらい前までは流行ってたんじゃねえか、異世界転生ものとか異世界転移もののアニメ」
「そ、それはそうだけど……って、まさか本気で言っているのか?」
「だってそうじゃなきゃ説明つかねえだろ。それともお前らが経験したことは夢だったってことか?」
「! ……いやでもなぁ」

 そう言われても知り合って間もない相手の言葉を鵜呑みにするのは難しいだろうし、理九の対応は至極当然ともいえる。
 すると突然、ググイッと距離を詰めてきた小色が、

「ど、どどどどんな異世界に行ってたんですかっ!?」

 と、眼をキラキラと輝かせて尋ねてきた。その勢いに、思わず今度はこちらが困惑するが、理九は「また出た……」と呆れたようにこめかみを押さえている。

「あのあの! 四河さんは、勇者だったんですか!? それとも賢者!? ううん、もしかして転生したんですか!?」

 興奮冷めやらぬ感じというか、益々ボルテージが上がっている。

「ど、どうしたんだよ、お前さんは!? お、おい春日咲兄、説明してくれ!」

 さすがにこのままだと押し倒されそうなので、理九に状況説明を求めた。

「あーすまない。妹は……オタクでな」

 聞けば、小色はアニメや漫画が大好きで、特に異世界ものに造詣が深いらしい。ただ通っていた高校は格式の高いお嬢様学校ということで、そういう趣味を共有できる友人はいなかったそうだ。だから隠れオタクとして振る舞っていた。

 当然世に出ているほとんどの異世界アニメや漫画などは目を通しており、語れと言うならぶっちぎりで三日は口を動かせるという強者のようだ。
 きっと部長がここいたら間違いなくスカウトしてエース扱いしていただろう。何がエースなのかは分からないけれど。

「異世界帰還者が現実世界で無双するという物語もありますが、四河さんはまさしくそれなんですか!? どうなんですか、答えてくださいですっ!」
「お、おっふ……」

 もっと大人しいタイプかと思っていたが、あまりにもの変わり様と圧力で情けない声が出てしまった。
 そこへ理九が背後から、「こーら」と小色の頭を軽く小突き、「えうっ!?」と痛そうに頭を押さえる。

「いきなり詰め寄るんじゃない。困ってるじゃないか」
「え……あっ! え、えとその……あの…………すみませんでした」

 ようやく正気を取り戻したのか、シュンとなって謝罪してくる小色を見て、何だか微笑ましさを覚え吹き出してしまう。
 日門に笑われたことで、さらに小さくなってしまう小色。

「あー悪い悪い。けどま、気持ちは分かるぞ。自分が好きなものを共有できる相手がいるってのはめっちゃ嬉しいもんな!」

 それがなかなか見つかりにくいものなら猶更だ。彼女の周りには、そういう相手がいなかったらしいし。それにだ。空想だと思っていたものが、実際に存在すると知れば興奮しても仕方ない。何故なら自分だってそうだし、そんな世界に憧れていたから召喚に応じたのもある。

「まあでも、こんなバカげた嘘を、この歳になって言うつもりはねえよ」
「!? じゃ、じゃあ本当に四河さんは異世界帰還者ってことなんですか?」
「おう。まだ信じられねえってんなら、これでどうだ?」

 日門は二ッと笑みを浮かべると、

「――《風の飛翔》」

 そう呟くと、自身から風の奔流が生み出され、その身体をフワリと浮かせた。

「う、う、浮いてる……っ?!」

 目をこれでもかというほど見開きながら言う理九に対し、小色は感動しているかのように日門を見入っている。

「手品でも何でもねえぞ、ほれ」

 次に風の力を操作し、理九と小色を少しだけ浮かせた。

「おわぁぁぁっ!?」
「わわっ、わたしたち浮いちゃってるよ、お兄ちゃん!?」

 理九はまるで溺れているかのように全身をばたつかせるが、小色は身体を硬直させてはいるが、どことなく嬉しそうだ。

「これが異世界の魔法だ。な? モノホンだろ?」
「わ、わわわわ分かったぁ! し、信じるから下ろしてくれぇぇ!」

 先ほどの抱えられて跳躍した時のことを思い出したのか、地上に下ろしてやると、またも息を切らして倒れそうになっている理九だが、その妹はというと平然と立っている。
 それから少し理九が落ち着いてから続きを話すことになった。





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