異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

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 恩返しと言われても、では何をしてくれるという話になり、生存者の集まり――つまりキャンプについての情報やゾンビの習性などを教えてもらいながら歩を進めていた。

「なるほどねぇ。つまり外で見かけねえけど、生存者もまだ結構いるんだな」

 理九曰く、少なくとも彼が知っている中で大きなキャンプは幾つかあり、それらは規模こそまちまちではあるが、どれも百人以上が集っているという。

 巨大な倉庫を根城にしているキャンプや、地下鉄を拠点にしたり、山を開拓して壁で囲った集落なんかもあるらしい。ただまだ世界が激変してから半年ほどなので、どこも粗削りな部分が多いとのこと。

 防衛に難があったり、食糧事情や人間関係など問題が次々と出ている。ちなみに理九たちもつい最近まであるキャンプに身を寄せていたというが、そこでは主に治安についてのトラブルが発生し、このままでは小色に被害が及ぶと判断し出てきたらしい。

「じゃあ行き先は決まってねえのか?」
「いや、一応決まってはいた。それがこれから向かおうとしてるとこだけど……」
「あまり乗り気じゃなさそうだな」

 顔を見れば伝わってきた。そこでも何か問題を抱えている様子だ。

「聞いた話によると、そこは人数制限をしてるって話でね」
「ふむ。けどそれって別におかしなことじゃねえよな?」

 キャンプにも容量というのはあるだろう。あまり人が増え過ぎると、先に出た食糧問題であったり人間関係にも支障をきたす恐れがある。

「そうだね。でもそこは大きな屋敷を拠点としてて、周囲にも堅固な壁もあって防衛にはもってこいらしいんだ」

 しかも大きな庭には菜園もあり食糧も自給自足できるという。

「けど壁っていっても、さっきみてえな犬っころが現れたら意味ねえんじゃね?」

 軽く跳び越えるだろうし、あれだけの力を持っているなら壁も破壊できるかもしれない。

「かなり高い外壁なんだ。しかも電流が流されていて、ゾンビもおいそれと近づけないみたいらしい」
「それはまあ、ずいぶんと頼りになる防壁だこと」

 そこの屋敷の主は警備オタクだったのだろうか。普通壁に電流を流すシステムなんて構築しない。それだけ貴重なものが屋敷の中に置いてあるということか……。それともこんな世界になってから急遽設置したのか……。

「でもよく大地震で崩壊しなかったな、その屋敷?」
「いや、当初は半壊したらしい。けどすぐに修復したって聞いた」

 それはまた。金持ちだからこそできる芸当だろう。この世界でまだ金に価値があるかどうかは謎だが。

「んじゃ、そこにもし受け入れてもらえたら万々歳ってわけか」
「まあ、そういうことだけど……少し不穏な噂もあってね」
「へぇ、どんなのよ?」
「その屋敷の主はその…………面食いらしくてね」
「は? 面食い? んじゃ何か、主は女でイケメン好きとか?」
「女ってところは合ってるけど、イケメンだけじゃなく美少女や美女も好物……らしい」
「好物って……つまりバイセクシャルってやつ?」
「さあ? 詳しくは分からないけど、身内には優しい対応をするって聞いたから、一応確かめるために向かおうと思って、さ」
「なるほどなぁ。……つまりだ。理九くんは自分のことをイケメンだと思ってるんですねぇ。凄い自信ですなぁ」
「なっ、べ、別にそういうことじゃないから!」
「いやだってなぁ……そうじゃなかったらイケメン好きに会いに行こうとしねえだろ?」
「うぐっ……ぼ、僕じゃなくて小色がいるから大丈夫だって考えたんだよ! 可愛い妹の兄なら、多少ブサイクでも一緒に受け入れてもらえるかもしれないって思って!」

 一応ハッキリさせとくが、別に理九はブサイクではない。むしろ清潔感のあるイケメン寄りの顔立ちはしている。さすがに俳優とかモデルに代表される人物たちと比べたら見劣りするかもしれないが、十分モテるルックスはしていると思う。

「まあ、小色が可愛いってのは納得だけどよ」

 そんな日門の嘘偽りのない言葉に、「えぅ……っ!?」と真っ赤な顔で俯く小色。
それこそアイドルでも通じるほどの愛らしさを持つ彼女だ。しかも合法ロリという特性もあり、その筋の大きい人たちにとっては垂涎ものの存在であろう。

「ならもし受け入れてもらえるとしたら、そこで俺はお別れだろうな」
「え……ど、どうしてですか、日門さん!」
「いやだってよ、小色が受け入れられ、その身内の理九も大丈夫だったとしても、俺はまったくの他人だし、それにほれ……俺ってフツメンだろ? あ、自分で言ってて悲しくなってきた……」

 別に鏡を見る度に溜息が出てしまうほどのブサイクではないと思うが、これといって特徴のない顔立ちではある。いや、どちらかというと垂れ目だし情けない顔に見えるかもしれない。

 昔からファッションにも興味ないし、自分磨きというのもしていない。だから良く見えても中の下か中の中がいいところだろう。
 だからイケメンと美女しかいないエルフ族の奴らを見た時は眩し過ぎて言葉を失ったほどだ。きっとイケメン好きのその屋敷の主が放り込まれたら失神すること間違いなしである。

「そ、そんなことありません!」

 突然大声を張り上げた小色に驚き、「いきなりどうした?」と反射的に口にしていた。すると小色が胸の前で両拳を震わせながら言う。

「日門さんはとってもカッコイイと思います!」
「いやいや、俺より理九の方が見た目はいいと思うぞ?」
「お兄ちゃんなんかより全然カッコイイですぅ!」

 その告白に「はぐぁ!?」とダメージを受けたのは理九であり、彼はそのまま膝から崩れ落ちた。

(この子、もしかしてフツメン好きなのか?)

 世の中にはイケメンが苦手という女子もいるという都市伝説は耳にしたことがある。あれは真実だったのかと、今まさに驚嘆しているところだった。
 しかし考えてみれば、小色は優しい女の子みたいだし、きっと気を使ってくれたに違いない。



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