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時の聖女は勇者と生まれた時からずっと一緒だった幼馴染だったのである。互いに求め合い愛を育む間柄。
二人は平和になった時に、自分たちが一緒になるのを皆が祝福してくれると信じていた。そのためにも必ず世界を救おうと決意していたのだ。
しかし、勇者は愛する人を奪われた。さらに手をかけたのが、信頼していた国王。いや、守ろうとした人々だったのだ。これ以上の無い裏切り。
「しかも聖女のお腹には、新たな命が宿っていた」
さらに衝撃を受ける二人。痛々しそうに顔を歪める。小色など涙目だ。
そして勇者はすべてを捨てた。人類に見切りをつけ、すべてを滅ぼそうとしたのだ。
「その身に、悪災を宿してな」
怒り、憎しみ、悲しみ。それらの痛みが、勇者を世界の敵へと変えてしまった。
「悪災を宿した……? まさか自分で封印した存在を……?」
「そうだ理九。勇者はせっかく命懸けで聖女とともに封印したはずのラスボスを解放し、そいつを自分に取り込んじまった」
「っ……そのあとはどうなったんだい? 勇者っていうのは、その時代にたった一人なんだろ? じゃあ誰も悪災になった勇者を止められないんじゃ……」
「…………いや、一人いたんだよ。何とかできる存在が、な」
「一人? だ、誰なんですか?」
「……!? まさかその一人が…………異世界人だった?」
本当に理九は察しが良いというか、よくこの流れで即答できたものだ。
「その通り。神が召喚した異世界からきた人物が、その命を尽くして悪災を再封印することができた」
とはいっても相手は勇者と、勇者と聖女が倒せなかった存在の融合体だ。結果的に世界は半壊ともいっていいほどの被害を受け、多くの人類が犠牲になった上での再封印。とても勝利したとはいえない結末だった。
それから定期的に封印が弱まり悪災が復活。その度に勇者と聖女、そして異世界からの助っ人が対処してきた。
それでも完全に消滅させることはできず、日門の代まで生き残っていたのだ。それほどまでに悪災が持つ力は強かった。
「……日門はその……異世界を救ったって言ってたけど……悪災を封印した、のかい?」
「…………いーや、ちゃんとトドメを刺したよ。今度こそ……な」
そう、トドメを……消滅させることはできた。手放しで喜べるような形ではなかったものの、異世界は本当の平和を手にすることができたのである。
何か含みがあることを、日門の表情から二人は察したようで、しばらく沈黙が流れる。
「……ま、とりあえず神が望んだ結果は得られた。だからこうやって俺は戻って来られたってわけだ」
「その……いや、何でもない」
理九が追加で何かを聞きたそうだったが、首を振って口を噤んだ。
小色も思い描いていた異世界ファンタジーとは違う事実にショックを受けているようである。無理もない。日門もどちらかというと、もっと楽しいものだと思っていたから。
しかし蓋を開けてみれば、どこの世界にもありがちな理不尽や不幸があって、現実という厳しさは否応なくそこの生きる者たちを苦しめる。
確かにワクワクもあった。楽しさもあった。面白いこともたくさん経験した。でもそれと同じように、辛さや悲しさ、苦しさや逃げたくなるような場面も存在したのである。
ただただ優しいだけの世界ではなかった。よくあるハッピーエンドの物語のような結果でもなかったように思える。
その事実に気づいたらしい二人は、複雑そうな顔をしていた。
「――――とまあ、悲劇も確かに多かったけど、やっぱり楽しいこともたくさんあったんだぜ」
そう話を切り返し、重苦しくなった空気を一掃するために、今度は異世界で経験した面白いことや楽しいことを彼らに話す。
すると二人も興味を持ったように聞き入り、少しずつ頬が緩んでいく。特に異世界ファンタジーが大好きな小色は、時に質問したり大きく頷いたりと、本当に楽し気に話を聞いていた。
「……あ、そういえば小色に聞きたかったんだけどよ」
「あ、はい。何でしょうか?」
「異世界ファンタジーが好きなんだったら、この状況もそれほど嫌ってわけじゃなかったんじゃねえか? ほれ、ゾンビなんてファンタジー以外の何者でもねえしな」
「う……そ、それはですね……」
凄く言い難そうに眼を泳がせる小色を見て、理九が肩を竦めながら答える。
「確かに小色はファンタジー好きだけど、ホラーは苦手なのさ」
「お、お兄ちゃん!」
なるほど。それならこの状況は、小色にとって喜ばしいものでは決してないだろう。それに物語は物語だからこそワクワクできる。実際に経験すれば危険極まりものばかりだ。経験者の日門が言うのだから間違いない。
どうやら小色は昔からホラーものが苦手らしく、お化け屋敷はもちろん夏によくする怖い話や心霊系のテレビは一切観ないとのこと。
「んじゃ俺がいた異世界も無理っぽいかもな。あっちにだってアンデッド系がわんさか出るし。特に夜にはよ」
「ふぇぇぇぇぇ……っ!?」
完全に怯えてしまった。少しやり過ぎたかもしれないが、本当に向こうではアンデッド系には苦しめられた。朝や昼には見かけないのに、夜になるとどこからともなくアンデッド系のモンスターが溢れてくる。
だからおいそれと野営もできず、絶対見張りを立てなければならないのだ。何せアンデッド系の多くは特殊な性質を持っているモノが多く、毒や腐食、あるいは呪いなどといったバッドステータスを与えてくる。
しかもアンデッド系に殺されれば、同じアンデッドとしてその世を彷徨うことになるのだ。
(そう考えれば、こっちのゾンビも似たようなもんだな)
どうやら嚙まれたりして感染すれば、ゾンビ化するようだし、どこの世界でもアンデッド系は厄介な属性を持っているということらしい。
二人は平和になった時に、自分たちが一緒になるのを皆が祝福してくれると信じていた。そのためにも必ず世界を救おうと決意していたのだ。
しかし、勇者は愛する人を奪われた。さらに手をかけたのが、信頼していた国王。いや、守ろうとした人々だったのだ。これ以上の無い裏切り。
「しかも聖女のお腹には、新たな命が宿っていた」
さらに衝撃を受ける二人。痛々しそうに顔を歪める。小色など涙目だ。
そして勇者はすべてを捨てた。人類に見切りをつけ、すべてを滅ぼそうとしたのだ。
「その身に、悪災を宿してな」
怒り、憎しみ、悲しみ。それらの痛みが、勇者を世界の敵へと変えてしまった。
「悪災を宿した……? まさか自分で封印した存在を……?」
「そうだ理九。勇者はせっかく命懸けで聖女とともに封印したはずのラスボスを解放し、そいつを自分に取り込んじまった」
「っ……そのあとはどうなったんだい? 勇者っていうのは、その時代にたった一人なんだろ? じゃあ誰も悪災になった勇者を止められないんじゃ……」
「…………いや、一人いたんだよ。何とかできる存在が、な」
「一人? だ、誰なんですか?」
「……!? まさかその一人が…………異世界人だった?」
本当に理九は察しが良いというか、よくこの流れで即答できたものだ。
「その通り。神が召喚した異世界からきた人物が、その命を尽くして悪災を再封印することができた」
とはいっても相手は勇者と、勇者と聖女が倒せなかった存在の融合体だ。結果的に世界は半壊ともいっていいほどの被害を受け、多くの人類が犠牲になった上での再封印。とても勝利したとはいえない結末だった。
それから定期的に封印が弱まり悪災が復活。その度に勇者と聖女、そして異世界からの助っ人が対処してきた。
それでも完全に消滅させることはできず、日門の代まで生き残っていたのだ。それほどまでに悪災が持つ力は強かった。
「……日門はその……異世界を救ったって言ってたけど……悪災を封印した、のかい?」
「…………いーや、ちゃんとトドメを刺したよ。今度こそ……な」
そう、トドメを……消滅させることはできた。手放しで喜べるような形ではなかったものの、異世界は本当の平和を手にすることができたのである。
何か含みがあることを、日門の表情から二人は察したようで、しばらく沈黙が流れる。
「……ま、とりあえず神が望んだ結果は得られた。だからこうやって俺は戻って来られたってわけだ」
「その……いや、何でもない」
理九が追加で何かを聞きたそうだったが、首を振って口を噤んだ。
小色も思い描いていた異世界ファンタジーとは違う事実にショックを受けているようである。無理もない。日門もどちらかというと、もっと楽しいものだと思っていたから。
しかし蓋を開けてみれば、どこの世界にもありがちな理不尽や不幸があって、現実という厳しさは否応なくそこの生きる者たちを苦しめる。
確かにワクワクもあった。楽しさもあった。面白いこともたくさん経験した。でもそれと同じように、辛さや悲しさ、苦しさや逃げたくなるような場面も存在したのである。
ただただ優しいだけの世界ではなかった。よくあるハッピーエンドの物語のような結果でもなかったように思える。
その事実に気づいたらしい二人は、複雑そうな顔をしていた。
「――――とまあ、悲劇も確かに多かったけど、やっぱり楽しいこともたくさんあったんだぜ」
そう話を切り返し、重苦しくなった空気を一掃するために、今度は異世界で経験した面白いことや楽しいことを彼らに話す。
すると二人も興味を持ったように聞き入り、少しずつ頬が緩んでいく。特に異世界ファンタジーが大好きな小色は、時に質問したり大きく頷いたりと、本当に楽し気に話を聞いていた。
「……あ、そういえば小色に聞きたかったんだけどよ」
「あ、はい。何でしょうか?」
「異世界ファンタジーが好きなんだったら、この状況もそれほど嫌ってわけじゃなかったんじゃねえか? ほれ、ゾンビなんてファンタジー以外の何者でもねえしな」
「う……そ、それはですね……」
凄く言い難そうに眼を泳がせる小色を見て、理九が肩を竦めながら答える。
「確かに小色はファンタジー好きだけど、ホラーは苦手なのさ」
「お、お兄ちゃん!」
なるほど。それならこの状況は、小色にとって喜ばしいものでは決してないだろう。それに物語は物語だからこそワクワクできる。実際に経験すれば危険極まりものばかりだ。経験者の日門が言うのだから間違いない。
どうやら小色は昔からホラーものが苦手らしく、お化け屋敷はもちろん夏によくする怖い話や心霊系のテレビは一切観ないとのこと。
「んじゃ俺がいた異世界も無理っぽいかもな。あっちにだってアンデッド系がわんさか出るし。特に夜にはよ」
「ふぇぇぇぇぇ……っ!?」
完全に怯えてしまった。少しやり過ぎたかもしれないが、本当に向こうではアンデッド系には苦しめられた。朝や昼には見かけないのに、夜になるとどこからともなくアンデッド系のモンスターが溢れてくる。
だからおいそれと野営もできず、絶対見張りを立てなければならないのだ。何せアンデッド系の多くは特殊な性質を持っているモノが多く、毒や腐食、あるいは呪いなどといったバッドステータスを与えてくる。
しかもアンデッド系に殺されれば、同じアンデッドとしてその世を彷徨うことになるのだ。
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