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小色たちと別れてから一時間後、日門は自分が住んでいた家の前に立っていた。
普通ならこの世界に戻ってきてすぐに、自宅に帰るのが普通だろうと思うことだろう。しかしながら日門にとっては自宅を優先する理由はなかった。
それは何故か。簡単だ。この家には日門しか住んでいなかったからだ。別に両親と死別したからというわけではない。
両親は今もなおどこかで生きている、かもしれない。ただ日門にとって両親に対する興味は薄かった。
日門の両親は、ハッキリいって仲が悪い。よく結婚したと思うほどに、毎日口喧嘩ばかりしていた。
総じて日門の両親に対する思い出はというと、日門の誕生日に一万円をくれることくらいだった。しかも片方ずつ五千円。それは小学生から始まり、高校入学まで続いた。
二人とも仕事人間であり、そこそこ稼ぎも良く、生活するのに苦労を感じたことはない。実際食べるものはあったし、駄菓子なども他の子供より多く購入できるほどの小遣いは持っていただろう。
ただし親とのコミュニケーションというものでいえば、まるで他人同士が同じ家に住んでいるような感じだった。いや、他人同士でもしばらく住んでいれば会話も生まれ、そこに楽しさだって増していくだろう。
だが両親と日門との繋がりは常に一定であり、強くなることも弱くなることもなかった。それは他者から見たら異様な家族でしかなかったに違いない。
最初こそ親が構ってくれないことに寂しさを覚えてもいたが、両親は仕事で忙しいという理由で自分を納得させてからは、親に対する依存度は徐々に低くなっていった。
もし日門が本当に一人ならば、その状況に耐えられたかは分からない。ただ幸いにも日門には温かい身内が存在した。
それは少しはなれた場所に住んでいた祖父である。すでに祖母は他界していたが、祖父は古民家のような場所で一人過ごしていた。
日門の状況を知るや否や、祖父はすぐに手を伸ばしてくれたのである。親が深夜に帰ってきて、早朝に出かけるような家よりも、おはようとおやすみを言い合える祖父の家の方が、日門は心から楽しめた。
それは小学生の時から始まり、親よりもずっと傍にいてくれた。だから育ての親といっても過言ではないだろう。
祖父も、ずっと家に帰らない日門を心配することもなく連絡も寄こさない親たちに呆れ、日門を傍に置いてくれた。
だからもう日門にとっての家といえば、大好きな祖父が住む場所だった。
ただ、高校に上がってからすぐに、祖父は体調を崩してそのまま亡くなった。遺言で祖父の残した遺産を引き継いだお蔭で、日門は祖父の家にそのまま住むことができているし、それからの暮らしも苦しくはなかった。
日門にとって祖父がすべてだったし、ここまで育ててくれて感謝している。だから親といえば祖父だし、身内といえばもういないと断言できるほどの両親には興味が無い。
(じっちゃんの葬式にすら顔を出さなかったしな)
薄情というか、元々親たちは他人に興味が薄いのだろう。たとえそれが肉親や義理の親でも。そして実の子供でも、だ。
そんなネグレクトを受けてきた日門が真っ直ぐに育ったのも、ひとえに祖父が傍にいてくれたお蔭だ。
しかしそんな祖父ももういないこの家。やはり他の建物と同様に、地震で半壊していた。祖父との思い出がたくさん詰まった場所が崩壊している悲しさはあるものの、日門は意外にも落ち込むほどではなかった。何せ、ここには祖父は生前こう言っていたからだ。
『物はいずれ色褪せ朽ちる。だが想いは永遠に残り続ける。その人が大切にしていればな』
祖父との大事なものは、日門の胸の中に全部刻まれている。決して忘れることのない想い出とともに。
(じっちゃん、あんたが教えてくれたことは何一つ忘れてないぜ)
そのまま半壊している家の庭に足を踏み入れる。そこは縁側があり、よく祖父と一緒に日向ぼっこをしたものだ。囲碁や将棋の相手もさせられて、日門は勝った覚えがない。
勝負事は手を抜かない人で、他にもいろいろ競い合ったが、日門の勝率は極めて低かった。というより何をしても上位的にこなす祖父が異様だっただけだが。
日門が勝ったのも、運の要素が強く絡む勝負だけだった。
(そういやじっちゃん、囲碁や将棋の大会でプロにも勝ったことあるって言ってたっけ?)
そんな人物が相手だ。おいそれと日門が勝てる相手ではない。
さらにいえばだ。柔道や剣道も段位を持っていて、フルマラソンも定期的に走るような老人だった。まさに文武両道を地で行くような人物である。
(そう考えると、マジで完璧超人だったな)
しかし今では少し誇らしいことがある。それはきっと組手をすれば、自分が勝てるだろうと確信しているからだ。何せこちとら異世界で揉まれてきた超人レベル。
さすがに地球規模の超人では、異世界の超人には勝てないはずだ。
(さすがに俺が勝つよな…………多分)
それでも何となく不安になるのは、自分の中の祖父があまりにも大きな存在だからだろうか。
「……ん? おお、懐かしいなこれ」
庭に置かれた物置が壊れて、そこから飛び出ている道具から懐かしい香りがした。
祖父が子供の頃に遊んでいた独楽やメンコ、竹馬やけん玉など、今の時代ではあまりメジャーではない玩具たち。しかし日門は、こういった単純だけど、それだけに極めるのが難しいこれらが好きだった。
「じっちゃんにはいろんな遊びを教えてもらったよなぁ。中には無人島に行ってサバイバルもしたし。あの経験があったから、異世界でもやっていけたのかもな」
そんなに頻繁にしたわけではないが、夏休みなどの長期休みの時は、祖父とともに無人島で生活したりしていた。獣を狩り、魚を獲り、山菜などを採取するガチのサバイバル。
魚や獣の捌き方なども教えてもらい、食べられるキノコや野草の知識も増えた。その経験は、異世界でも十分に役に立ったので、それも含めて祖父には感謝している。
(まあ友達がいなかった俺を気遣ってのことだったと思うけど)
小学生や中学生といった時期は、両親に見向きもされていない奴というのは異端に映り、イジメや忌避の対象となりやすい。
そのため友人もできなかった日門を不憫に思ってか、祖父がいつも構ってくれていたのだ。祖父もまた子供の頃は、よく一人ぼっちだったらしく、日門のことを放っておけなかったのだろう。
「ん~、ここを拠点にするのは片づけとか面倒だしなぁ」
それに周りにはゾンビもいるし、のんびりと終末をエンジョイすることはできないだろう。
「どうすっかぁ…………あ、そうだ、無人島……!」
ちょうど今思い出していた中で、日門にとって理想の拠点があることに気づいた。
普通ならこの世界に戻ってきてすぐに、自宅に帰るのが普通だろうと思うことだろう。しかしながら日門にとっては自宅を優先する理由はなかった。
それは何故か。簡単だ。この家には日門しか住んでいなかったからだ。別に両親と死別したからというわけではない。
両親は今もなおどこかで生きている、かもしれない。ただ日門にとって両親に対する興味は薄かった。
日門の両親は、ハッキリいって仲が悪い。よく結婚したと思うほどに、毎日口喧嘩ばかりしていた。
総じて日門の両親に対する思い出はというと、日門の誕生日に一万円をくれることくらいだった。しかも片方ずつ五千円。それは小学生から始まり、高校入学まで続いた。
二人とも仕事人間であり、そこそこ稼ぎも良く、生活するのに苦労を感じたことはない。実際食べるものはあったし、駄菓子なども他の子供より多く購入できるほどの小遣いは持っていただろう。
ただし親とのコミュニケーションというものでいえば、まるで他人同士が同じ家に住んでいるような感じだった。いや、他人同士でもしばらく住んでいれば会話も生まれ、そこに楽しさだって増していくだろう。
だが両親と日門との繋がりは常に一定であり、強くなることも弱くなることもなかった。それは他者から見たら異様な家族でしかなかったに違いない。
最初こそ親が構ってくれないことに寂しさを覚えてもいたが、両親は仕事で忙しいという理由で自分を納得させてからは、親に対する依存度は徐々に低くなっていった。
もし日門が本当に一人ならば、その状況に耐えられたかは分からない。ただ幸いにも日門には温かい身内が存在した。
それは少しはなれた場所に住んでいた祖父である。すでに祖母は他界していたが、祖父は古民家のような場所で一人過ごしていた。
日門の状況を知るや否や、祖父はすぐに手を伸ばしてくれたのである。親が深夜に帰ってきて、早朝に出かけるような家よりも、おはようとおやすみを言い合える祖父の家の方が、日門は心から楽しめた。
それは小学生の時から始まり、親よりもずっと傍にいてくれた。だから育ての親といっても過言ではないだろう。
祖父も、ずっと家に帰らない日門を心配することもなく連絡も寄こさない親たちに呆れ、日門を傍に置いてくれた。
だからもう日門にとっての家といえば、大好きな祖父が住む場所だった。
ただ、高校に上がってからすぐに、祖父は体調を崩してそのまま亡くなった。遺言で祖父の残した遺産を引き継いだお蔭で、日門は祖父の家にそのまま住むことができているし、それからの暮らしも苦しくはなかった。
日門にとって祖父がすべてだったし、ここまで育ててくれて感謝している。だから親といえば祖父だし、身内といえばもういないと断言できるほどの両親には興味が無い。
(じっちゃんの葬式にすら顔を出さなかったしな)
薄情というか、元々親たちは他人に興味が薄いのだろう。たとえそれが肉親や義理の親でも。そして実の子供でも、だ。
そんなネグレクトを受けてきた日門が真っ直ぐに育ったのも、ひとえに祖父が傍にいてくれたお蔭だ。
しかしそんな祖父ももういないこの家。やはり他の建物と同様に、地震で半壊していた。祖父との思い出がたくさん詰まった場所が崩壊している悲しさはあるものの、日門は意外にも落ち込むほどではなかった。何せ、ここには祖父は生前こう言っていたからだ。
『物はいずれ色褪せ朽ちる。だが想いは永遠に残り続ける。その人が大切にしていればな』
祖父との大事なものは、日門の胸の中に全部刻まれている。決して忘れることのない想い出とともに。
(じっちゃん、あんたが教えてくれたことは何一つ忘れてないぜ)
そのまま半壊している家の庭に足を踏み入れる。そこは縁側があり、よく祖父と一緒に日向ぼっこをしたものだ。囲碁や将棋の相手もさせられて、日門は勝った覚えがない。
勝負事は手を抜かない人で、他にもいろいろ競い合ったが、日門の勝率は極めて低かった。というより何をしても上位的にこなす祖父が異様だっただけだが。
日門が勝ったのも、運の要素が強く絡む勝負だけだった。
(そういやじっちゃん、囲碁や将棋の大会でプロにも勝ったことあるって言ってたっけ?)
そんな人物が相手だ。おいそれと日門が勝てる相手ではない。
さらにいえばだ。柔道や剣道も段位を持っていて、フルマラソンも定期的に走るような老人だった。まさに文武両道を地で行くような人物である。
(そう考えると、マジで完璧超人だったな)
しかし今では少し誇らしいことがある。それはきっと組手をすれば、自分が勝てるだろうと確信しているからだ。何せこちとら異世界で揉まれてきた超人レベル。
さすがに地球規模の超人では、異世界の超人には勝てないはずだ。
(さすがに俺が勝つよな…………多分)
それでも何となく不安になるのは、自分の中の祖父があまりにも大きな存在だからだろうか。
「……ん? おお、懐かしいなこれ」
庭に置かれた物置が壊れて、そこから飛び出ている道具から懐かしい香りがした。
祖父が子供の頃に遊んでいた独楽やメンコ、竹馬やけん玉など、今の時代ではあまりメジャーではない玩具たち。しかし日門は、こういった単純だけど、それだけに極めるのが難しいこれらが好きだった。
「じっちゃんにはいろんな遊びを教えてもらったよなぁ。中には無人島に行ってサバイバルもしたし。あの経験があったから、異世界でもやっていけたのかもな」
そんなに頻繁にしたわけではないが、夏休みなどの長期休みの時は、祖父とともに無人島で生活したりしていた。獣を狩り、魚を獲り、山菜などを採取するガチのサバイバル。
魚や獣の捌き方なども教えてもらい、食べられるキノコや野草の知識も増えた。その経験は、異世界でも十分に役に立ったので、それも含めて祖父には感謝している。
(まあ友達がいなかった俺を気遣ってのことだったと思うけど)
小学生や中学生といった時期は、両親に見向きもされていない奴というのは異端に映り、イジメや忌避の対象となりやすい。
そのため友人もできなかった日門を不憫に思ってか、祖父がいつも構ってくれていたのだ。祖父もまた子供の頃は、よく一人ぼっちだったらしく、日門のことを放っておけなかったのだろう。
「ん~、ここを拠点にするのは片づけとか面倒だしなぁ」
それに周りにはゾンビもいるし、のんびりと終末をエンジョイすることはできないだろう。
「どうすっかぁ…………あ、そうだ、無人島……!」
ちょうど今思い出していた中で、日門にとって理想の拠点があることに気づいた。
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