異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

文字の大きさ
20 / 69

19

しおりを挟む
 東京港から十数キロほど進んだ太平洋の上。
 そこにポツンと浮かぶ島が存在する。何でも祖父が四十代の頃に購入した島らしく、値段を聞いて絶句した記憶も懐かしい。

 島の周囲は岸壁に覆われ、上陸するには一つしかない小さな砂浜に船を寄せるしかないだろう。しかし日門は、ここへは手ぶらでやってきていた。無論船なども漕いできていない。 

 先に小色たちに見せた《風の飛翔》という呪文で、空を飛んできただけのことだ。本来ならここに車で数時間かかる道のりではあるが、祖父の家からここまでたった数分で辿り着いた。

「こういうところは魔法って便利だよなぁ」

 上空から島に上陸し、同時に懐かしさが込み上げてきた。
 島の中央には開けた場所があり、そこには祖父が立てたログハウスが存在感を示している。少し離れた場所には畑もあるが、手入れが行き届いていなかったせいで雑草が生い茂っていた。

 ただ大地震が起きた割には、ここはそう被害はないように思える。確かに地面に亀裂が入ったりしているが、ログハウスも倒壊していないし、無事聳え立っている木々や草花も多い。これは嬉しい誤算である。

 こうして数年ぶりに来てみて、祖父との楽しい思い出が次々と溢れてくる。
 本当に祖父といると退屈はしなかった。童心を忘れないような人だったためか、育ての親でもあったが、友人や兄のような立場でもあったと思う。

「と、その前にまずは墓参りだな」

 実は祖父の墓はこの島の中にある。とはいっても立派なものではなく、生前祖父が死んだらここに墓を建てて欲しいと言っていたので、簡易的ではあるが日門が拵えたものだ。 

 壊れてなければいいと思いつつ墓がある場所へ向かう。そこはこの島で最も高い山の頂上。そこなら祖父が好きだった広大な海をいつでも眺められるだろうと思った。

「……良かった。無事みてえだな」

 崖に近い場所に一本の大樹が生えていて、そこに添えるような感じで墓石が置かれている。

「じっちゃん、ただいま」

 墓石の前で屈み込み手を合わせる。

「話したいことが山ほどあるんだ。けど多分信じられねえぜ。だって、つい最近まで異世界にいたからな」

 当然返事などはないが、この時間が日門は穏やかで好きだった。

「おっとそうだ。お供え物を忘れてたわ。ちょっち待っててくれよ」

 日門はスッと立ち上がると、右手を軽く前に出し、

「――〝開け〟」

 そう短く答えると、右手の人差し指に嵌めている指輪が淡く輝き、その光が上へと伸びて広がり、一瞬にしてゲーム画面のような映像を映し出す。
 そこには《アイテムリスト》と刻まれ、様々なアイテム名が記載されている。

 日門は画面をスクロールしていき、お目当てのものを見つけると、その名前を指で軽く押す。すると何もなかった地面の上に、酒瓶や果物などが出現した。
 この指輪こそ、少し前に小色たちに説明していた《魔道具》の一つ。そしてこの世界に戻ってくる時に、一番欲したものでもあった。

 その理由は簡単だ。この指輪は《ボックスリング》といい、収納の魔法が込められていて、その容量までなら何でも収納することができる代物だ。
 またこれはレア中のレアで、異世界でもたった一つしか存在しない。何せ、神様直々に授かったものでもあるからだ。

 収納容量は無制限で、収納している間は時が停止しているので、食べ物も腐ったり、道具が劣化したりしない。そしていつでも取り出せる。

 《ボックスリング》自体は珍しくなく異世界にも存在したが、容量もせいぜいがキャリーバッグ三つほどであり、時間停止といったチートもないので、《魔道具》というよりは《神道具》とも呼べるだろう。

 ただし魔力を持つ者にしか使えないということもあり、収納の呪文が刻み込まれていることからも《魔道具》であることは間違いないのだ。
 日門は取り出した果物を墓石の前に置く。そして酒瓶を開けて、墓石に酒をかけていく。

「どうだ? 一応異世界の酒だぜ。のんべえのあんたなら喜んでくれんだろ?」

 機嫌が良い時は、今日は酒祭りだとはしゃいで、家中の酒を文字通り浴びるほどに飲んでいた。ビール、焼酎、日本酒、洋酒など、見ているだけでこっちが酔うほどに舞い上がっていたものだ。
 日門はかけていた酒を、自分の口元へ持って一口飲む。

「……っぷはぁ。はは、俺ももうすぐ二十歳だからよ。……じっちゃんと一緒に飲んでみたかったなぁ」

 できれば二人で居酒屋にでも行ってバカ騒ぎしてみたかった。そんな大人な遊びも楽しみたかったが、それが叶わないのが唯一の心残りかもしれない。

「けどこれからはまたこうして一緒だな」

 ここを拠点にすると決めた。もう異世界に行くこともないし、この無人島で悠々自適な暮らしを満喫しようと思っている。

「んじゃ、さっそく拠点の手入れでもしてくるわ」

 墓石に向かって軽く手を挙げてから踵を返す。
 ログハウスに戻ってくると、まず寝所にもなるログハウスの中をチェックする。大分揺れたせいか、棚が倒れたりして面倒なことになっているが、片づければまだまだ現役で使える。

「うし、とりあえずやりますか!」

 気合を入れると、掃除をし始めた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

処理中です...