異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

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「――地震!?」

 震度はそうでもなさそうだが、それでも結構な衝撃を瓦礫に与えたみたいで、ギリギリ保たれていた緊張が切れたかのように、大きな音を立てて周りの壁や天井が崩れ始めた。
 今から出口に向かって走っても間に合わない。このままでは押し潰されてしまう。

 ただ実のところ日門は一切慌てていない。これくらいの瓦礫を頭上に受けたとしても、たんこぶができる程度の痛みで済むくらいの身体能力があるからだ。
 しかしそこで予想外の事態が起こる。

「――――にゃぁ」

 細く消え入りそうな鳴き声が耳朶を打ち、そちらに目をやると――。

「ね、猫ぉっ!?」

 倒れて重なっている棚と棚の小さな隙間。その中にいたのは小さな猫だった。
 当然このまま放置すれば瓦礫に押し潰されて即死間違いなしである。

「ったく、しょうがねぇ!」

 落ちてくる瓦礫を砕くだけなら簡単だが、その余波や破片の影響で猫がダメージを受けてしまう危険性が高い。
 ならば日門がやるべきことは――。

「――――《風の螺旋》っ!」

 以前、ゾンビ犬を一掃した風の渦が、頭上から落ちてくる瓦礫を飲み込んでさらに上空へと弾き飛ばしていく。
 風の暴力によって即座に砕かれていく瓦礫だが、そのままだと破片が猫のいる場所へと飛来する可能性があるので、さらに広範囲に威力を広げ螺旋の回転力を向上させる。

 そうすることで瓦礫は限界まで砕かれ砂のような粒へと変わっていき、そのまま風に乗りながら大きく空いた天井から外へと吹き飛ばされていく。

「…………ふぅ」

 軽く溜息を吐いた後、いまだジッとしつつその場を動かない猫の方へと歩み寄る。逃げるかもと思ったが、

「ほれ、もう大丈夫だぜ」

 屈みながら手を差し伸べると、棚の隙間から恐る恐るといった感じで顔を出し、差し出された手を嗅ぎ始めた。しばらくするとマーキングするかのように、手に顔を擦り付けてくる。

 どうやら気を許してくれたようなので、そのままスッと小さな身体を持ち上げて抱く。

「お前ほっせぇなぁ。ちゃんと食べてんのか?」

 羽のように軽いとは言うが、まるでお手玉できるほどの重さしかないように感じた。見た目はロシアンブルーだが肉付きもあまりなく痩せ細り、体毛もかなり汚れてしまっている。

 ただよく見れば首輪がついているので、もしかしたら誰かの飼い猫だったのかもしれない。

「名前は書いてあるか? お、あったあった。へぇ、お前ハチミツっていうのか。ウハハ、甘そうな名前だな」

 まだ子猫に近いほどに小さいが、よくこんな状況で生き長らえてきたものだと、コイツの野生に感心した。

「でもどうすっかなぁ、コイツ」

 子猫は腕の中で大人しくしている。というよりも気づけば眠そうにしており、今にも船を漕いでしまいそうだ。今まで緊張していてまともに休める時間がなかったのかもしれない。久しぶりの人間の温もりに触れて安心したのだろう。

 飼い主がいれば返すのが筋なのだが、現状ペットを養う余裕がある人間というのは限られてくるだろう。とりあえずこのまま放置は有り得ない。その命を救い拾い上げた以上は見捨てるなんて日門の矜持が許さない。

「ハチミツ、お前、俺と一緒に来るか?」

 優しく顎を撫でつけながら聞くと、応じるかのようにペロペロと指を舐めてきた。
 どうやら嫌がっていない様子なので、とりあえずは面倒を看ることにする。

 これから探索していく中で、一応飼い主の情報を聞き、そいつがもし再度飼うつもりならその時に返還しようと決めた。
 ということで新たな仲間を得た日門は、ひとまずは島に戻ることにする。

 そうして島に戻ってきた後は、すでに寝入ってしまっているハチミツをソファの上に寝かせ、その近くにミルクを入れた皿と鮭をほぐした皿の二つを用意した。この二つを用意しておけば、食事に関しては問題ないだろう。
 ただ、できればペットフードもあった方が良いと判断したので、これからまた本土に戻って探索作業をしようと思う。 

 故に農業ペンギンたちにも、ハチミツを気に掛けるように伝えてから再度本土へと舞い戻った。
 人間の食料は見つかりにくいかもしれないが、ペットフードならあるいはと思いつつ、コンビニがあった場所などを重点的に探すことにする。

 とはいっても、こんな過酷な状況の中、ペットフードで腹を満たそうとする人間だって出てくるはずだ。もしかしたらそう簡単に見つからないかもしれない。
 若干不安を抱えつつ探索していると、ドラッグストアの看板が落ちているのを発見。

「そういや薬も回収しとくか?」

 異世界で手に入れた現代の薬よりも遥かに優秀なアイテムも持っているが、当然数に限りがあるし、この世界の医療品も手にできるならしておいた方が良い。
 しかし食料と同じように優先順位が高いだろうから、残っているかどうかは不安だ。

 看板の近くを探すと、少し離れた場所に、こちらも半壊したドラッグストアらしき建物を見つけることができた……が、

「……あれは」

 ちょうと入口らしき場所で、二人の男性が立ち塞がって周囲を監視している。その手にはバールなどの武器を所持。どうも目的は日門と同じようだ。
 監視しているということは二人だけではなく、他にも仲間がいて、その仲間たちが現在中を探索中といったところか。

 その考えは的を射ていたようで、入口から別の男が三人ほど出てきて、背中には大きなリュックを背負っている。

(こりゃ先行かれちまったかもな)

 思わず舌打ちをしてしまいつつも、こういうのは早い者勝ちなのは理解している。日門の腕なら実力で奪うこともできるが、そんな理不尽なことは現状したいとは思わない。それほど切羽詰まっている状況ではないからだ。

 それに黙ってその場で見守っていた理由がもう一つあった。
 直後、ドラッグストアの周囲から幾人もの人間が現れ、探索していた連中へと駆け寄っていく。その手には武器が握られていて、明らかに敵意満々といったところ。

 そして始まるのは物資の奪い合いだ。


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