25 / 69
24
「――地震!?」
震度はそうでもなさそうだが、それでも結構な衝撃を瓦礫に与えたみたいで、ギリギリ保たれていた緊張が切れたかのように、大きな音を立てて周りの壁や天井が崩れ始めた。
今から出口に向かって走っても間に合わない。このままでは押し潰されてしまう。
ただ実のところ日門は一切慌てていない。これくらいの瓦礫を頭上に受けたとしても、たんこぶができる程度の痛みで済むくらいの身体能力があるからだ。
しかしそこで予想外の事態が起こる。
「――――にゃぁ」
細く消え入りそうな鳴き声が耳朶を打ち、そちらに目をやると――。
「ね、猫ぉっ!?」
倒れて重なっている棚と棚の小さな隙間。その中にいたのは小さな猫だった。
当然このまま放置すれば瓦礫に押し潰されて即死間違いなしである。
「ったく、しょうがねぇ!」
落ちてくる瓦礫を砕くだけなら簡単だが、その余波や破片の影響で猫がダメージを受けてしまう危険性が高い。
ならば日門がやるべきことは――。
「――――《風の螺旋》っ!」
以前、ゾンビ犬を一掃した風の渦が、頭上から落ちてくる瓦礫を飲み込んでさらに上空へと弾き飛ばしていく。
風の暴力によって即座に砕かれていく瓦礫だが、そのままだと破片が猫のいる場所へと飛来する可能性があるので、さらに広範囲に威力を広げ螺旋の回転力を向上させる。
そうすることで瓦礫は限界まで砕かれ砂のような粒へと変わっていき、そのまま風に乗りながら大きく空いた天井から外へと吹き飛ばされていく。
「…………ふぅ」
軽く溜息を吐いた後、いまだジッとしつつその場を動かない猫の方へと歩み寄る。逃げるかもと思ったが、
「ほれ、もう大丈夫だぜ」
屈みながら手を差し伸べると、棚の隙間から恐る恐るといった感じで顔を出し、差し出された手を嗅ぎ始めた。しばらくするとマーキングするかのように、手に顔を擦り付けてくる。
どうやら気を許してくれたようなので、そのままスッと小さな身体を持ち上げて抱く。
「お前ほっせぇなぁ。ちゃんと食べてんのか?」
羽のように軽いとは言うが、まるでお手玉できるほどの重さしかないように感じた。見た目はロシアンブルーだが肉付きもあまりなく痩せ細り、体毛もかなり汚れてしまっている。
ただよく見れば首輪がついているので、もしかしたら誰かの飼い猫だったのかもしれない。
「名前は書いてあるか? お、あったあった。へぇ、お前ハチミツっていうのか。ウハハ、甘そうな名前だな」
まだ子猫に近いほどに小さいが、よくこんな状況で生き長らえてきたものだと、コイツの野生に感心した。
「でもどうすっかなぁ、コイツ」
子猫は腕の中で大人しくしている。というよりも気づけば眠そうにしており、今にも船を漕いでしまいそうだ。今まで緊張していてまともに休める時間がなかったのかもしれない。久しぶりの人間の温もりに触れて安心したのだろう。
飼い主がいれば返すのが筋なのだが、現状ペットを養う余裕がある人間というのは限られてくるだろう。とりあえずこのまま放置は有り得ない。その命を救い拾い上げた以上は見捨てるなんて日門の矜持が許さない。
「ハチミツ、お前、俺と一緒に来るか?」
優しく顎を撫でつけながら聞くと、応じるかのようにペロペロと指を舐めてきた。
どうやら嫌がっていない様子なので、とりあえずは面倒を看ることにする。
これから探索していく中で、一応飼い主の情報を聞き、そいつがもし再度飼うつもりならその時に返還しようと決めた。
ということで新たな仲間を得た日門は、ひとまずは島に戻ることにする。
そうして島に戻ってきた後は、すでに寝入ってしまっているハチミツをソファの上に寝かせ、その近くにミルクを入れた皿と鮭をほぐした皿の二つを用意した。この二つを用意しておけば、食事に関しては問題ないだろう。
ただ、できればペットフードもあった方が良いと判断したので、これからまた本土に戻って探索作業をしようと思う。
故に農業ペンギンたちにも、ハチミツを気に掛けるように伝えてから再度本土へと舞い戻った。
人間の食料は見つかりにくいかもしれないが、ペットフードならあるいはと思いつつ、コンビニがあった場所などを重点的に探すことにする。
とはいっても、こんな過酷な状況の中、ペットフードで腹を満たそうとする人間だって出てくるはずだ。もしかしたらそう簡単に見つからないかもしれない。
若干不安を抱えつつ探索していると、ドラッグストアの看板が落ちているのを発見。
「そういや薬も回収しとくか?」
異世界で手に入れた現代の薬よりも遥かに優秀なアイテムも持っているが、当然数に限りがあるし、この世界の医療品も手にできるならしておいた方が良い。
しかし食料と同じように優先順位が高いだろうから、残っているかどうかは不安だ。
看板の近くを探すと、少し離れた場所に、こちらも半壊したドラッグストアらしき建物を見つけることができた……が、
「……あれは」
ちょうと入口らしき場所で、二人の男性が立ち塞がって周囲を監視している。その手にはバールなどの武器を所持。どうも目的は日門と同じようだ。
監視しているということは二人だけではなく、他にも仲間がいて、その仲間たちが現在中を探索中といったところか。
その考えは的を射ていたようで、入口から別の男が三人ほど出てきて、背中には大きなリュックを背負っている。
(こりゃ先行かれちまったかもな)
思わず舌打ちをしてしまいつつも、こういうのは早い者勝ちなのは理解している。日門の腕なら実力で奪うこともできるが、そんな理不尽なことは現状したいとは思わない。それほど切羽詰まっている状況ではないからだ。
それに黙ってその場で見守っていた理由がもう一つあった。
直後、ドラッグストアの周囲から幾人もの人間が現れ、探索していた連中へと駆け寄っていく。その手には武器が握られていて、明らかに敵意満々といったところ。
そして始まるのは物資の奪い合いだ。
震度はそうでもなさそうだが、それでも結構な衝撃を瓦礫に与えたみたいで、ギリギリ保たれていた緊張が切れたかのように、大きな音を立てて周りの壁や天井が崩れ始めた。
今から出口に向かって走っても間に合わない。このままでは押し潰されてしまう。
ただ実のところ日門は一切慌てていない。これくらいの瓦礫を頭上に受けたとしても、たんこぶができる程度の痛みで済むくらいの身体能力があるからだ。
しかしそこで予想外の事態が起こる。
「――――にゃぁ」
細く消え入りそうな鳴き声が耳朶を打ち、そちらに目をやると――。
「ね、猫ぉっ!?」
倒れて重なっている棚と棚の小さな隙間。その中にいたのは小さな猫だった。
当然このまま放置すれば瓦礫に押し潰されて即死間違いなしである。
「ったく、しょうがねぇ!」
落ちてくる瓦礫を砕くだけなら簡単だが、その余波や破片の影響で猫がダメージを受けてしまう危険性が高い。
ならば日門がやるべきことは――。
「――――《風の螺旋》っ!」
以前、ゾンビ犬を一掃した風の渦が、頭上から落ちてくる瓦礫を飲み込んでさらに上空へと弾き飛ばしていく。
風の暴力によって即座に砕かれていく瓦礫だが、そのままだと破片が猫のいる場所へと飛来する可能性があるので、さらに広範囲に威力を広げ螺旋の回転力を向上させる。
そうすることで瓦礫は限界まで砕かれ砂のような粒へと変わっていき、そのまま風に乗りながら大きく空いた天井から外へと吹き飛ばされていく。
「…………ふぅ」
軽く溜息を吐いた後、いまだジッとしつつその場を動かない猫の方へと歩み寄る。逃げるかもと思ったが、
「ほれ、もう大丈夫だぜ」
屈みながら手を差し伸べると、棚の隙間から恐る恐るといった感じで顔を出し、差し出された手を嗅ぎ始めた。しばらくするとマーキングするかのように、手に顔を擦り付けてくる。
どうやら気を許してくれたようなので、そのままスッと小さな身体を持ち上げて抱く。
「お前ほっせぇなぁ。ちゃんと食べてんのか?」
羽のように軽いとは言うが、まるでお手玉できるほどの重さしかないように感じた。見た目はロシアンブルーだが肉付きもあまりなく痩せ細り、体毛もかなり汚れてしまっている。
ただよく見れば首輪がついているので、もしかしたら誰かの飼い猫だったのかもしれない。
「名前は書いてあるか? お、あったあった。へぇ、お前ハチミツっていうのか。ウハハ、甘そうな名前だな」
まだ子猫に近いほどに小さいが、よくこんな状況で生き長らえてきたものだと、コイツの野生に感心した。
「でもどうすっかなぁ、コイツ」
子猫は腕の中で大人しくしている。というよりも気づけば眠そうにしており、今にも船を漕いでしまいそうだ。今まで緊張していてまともに休める時間がなかったのかもしれない。久しぶりの人間の温もりに触れて安心したのだろう。
飼い主がいれば返すのが筋なのだが、現状ペットを養う余裕がある人間というのは限られてくるだろう。とりあえずこのまま放置は有り得ない。その命を救い拾い上げた以上は見捨てるなんて日門の矜持が許さない。
「ハチミツ、お前、俺と一緒に来るか?」
優しく顎を撫でつけながら聞くと、応じるかのようにペロペロと指を舐めてきた。
どうやら嫌がっていない様子なので、とりあえずは面倒を看ることにする。
これから探索していく中で、一応飼い主の情報を聞き、そいつがもし再度飼うつもりならその時に返還しようと決めた。
ということで新たな仲間を得た日門は、ひとまずは島に戻ることにする。
そうして島に戻ってきた後は、すでに寝入ってしまっているハチミツをソファの上に寝かせ、その近くにミルクを入れた皿と鮭をほぐした皿の二つを用意した。この二つを用意しておけば、食事に関しては問題ないだろう。
ただ、できればペットフードもあった方が良いと判断したので、これからまた本土に戻って探索作業をしようと思う。
故に農業ペンギンたちにも、ハチミツを気に掛けるように伝えてから再度本土へと舞い戻った。
人間の食料は見つかりにくいかもしれないが、ペットフードならあるいはと思いつつ、コンビニがあった場所などを重点的に探すことにする。
とはいっても、こんな過酷な状況の中、ペットフードで腹を満たそうとする人間だって出てくるはずだ。もしかしたらそう簡単に見つからないかもしれない。
若干不安を抱えつつ探索していると、ドラッグストアの看板が落ちているのを発見。
「そういや薬も回収しとくか?」
異世界で手に入れた現代の薬よりも遥かに優秀なアイテムも持っているが、当然数に限りがあるし、この世界の医療品も手にできるならしておいた方が良い。
しかし食料と同じように優先順位が高いだろうから、残っているかどうかは不安だ。
看板の近くを探すと、少し離れた場所に、こちらも半壊したドラッグストアらしき建物を見つけることができた……が、
「……あれは」
ちょうと入口らしき場所で、二人の男性が立ち塞がって周囲を監視している。その手にはバールなどの武器を所持。どうも目的は日門と同じようだ。
監視しているということは二人だけではなく、他にも仲間がいて、その仲間たちが現在中を探索中といったところか。
その考えは的を射ていたようで、入口から別の男が三人ほど出てきて、背中には大きなリュックを背負っている。
(こりゃ先行かれちまったかもな)
思わず舌打ちをしてしまいつつも、こういうのは早い者勝ちなのは理解している。日門の腕なら実力で奪うこともできるが、そんな理不尽なことは現状したいとは思わない。それほど切羽詰まっている状況ではないからだ。
それに黙ってその場で見守っていた理由がもう一つあった。
直後、ドラッグストアの周囲から幾人もの人間が現れ、探索していた連中へと駆け寄っていく。その手には武器が握られていて、明らかに敵意満々といったところ。
そして始まるのは物資の奪い合いだ。
あなたにおすすめの小説
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!
TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。
その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。
競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。
俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。
その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。
意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。
相変わらずの豪華客船の中だった。
しかし、そこは地球では無かった。
魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。
船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。
ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ……
果たして、地球と東の運命はどうなるの?
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。