異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

文字の大きさ
43 / 69

42

 すずねとの話はそれほど長くはかからなかった。
 彼女は自身が思っていることを素直に言葉にしてくれたのだ。
 できればずっと一緒に過ごしていきたい、と。

 その言葉はとても心が温かくなるような嬉々としたものだった。こんな世界で誰かに求められることは本当に貴重だと思うから。
 ここに来て、大変な毎日ではあったけれど、その分充実していたと思う。前にいたところでは、嫌なことばかりだった。

 暴力や恐喝が横行し、独裁政治のもと誰もが下を向いていた。旨みを与えられるのはほんの僅かの上に立つ人間だけ。小色や理九も搾取される側であり、特に理九は小色のために毎日疲弊していた。

 だから彼に逃げようって誘い外に出たのである。しかしすぐにゾンビ犬に襲われ、自分の選択が間違っていたのではと後悔しそうになった。しかしそこで出会ったのが日門だったというわけだ。

 そんな危険極まりない世界にいながら、ここは比較的穏やかな時間が流れていた。当主である時乃は優秀で、彼女は自他ともに厳しいながらも、ちゃんと働く者にはしっかりとした生活を保障してくれる。

 人と人との繋がりも、そう固いものではないし、こうしてすずねという無二の友人とも出会うことができた。
 だからそんな彼女からこれからも一緒にいようと求められるのは感動的なのは確か。確かなのだが……。

「…………ごめんね」

 小色は自分で考えた結論を言葉にした。すずねはショックを受けつつも、どこか納得していそうな表情で「……そっか」と返事をしてくれたのである。
 そして彼女から、日門のことを聞いた。こうして小色に本心を打ち明けられたのも、彼が背中を押してくれたからだと。

 次いで、とんでもないことも言ってくれた。

「あーあ、やっぱり女の友情は恋には勝てないってことかぁ」

 瞬間的に顔を真っ赤にして口をパクパクさせてしまった小色。そして意地悪気に微笑むすずね。そして二人して同時に笑い合う。
 小色はこの先を決めた。ならばここでジッとはしていられない。まだ報告しなければならない人がいるから。

 そこですずねにもう一度「ごめんね」と言った後、こうして時乃の執務室へとやってきたのだ。途中理九も探し回ったが、彼もまた時乃のところにいると聞いて都合が良いと思った。
 執務室に入った小色は、理九の隣に立つとペコリと一礼をする。

「……どうかしたのかしら、小色?」

 こちらの話なんて察してるであろう時乃だが、それでも形式を重視する彼女はそうして尋ねてきた。

「はい。わたしは…………日門さんについていきたいと思っています」
「!? 小色……そっか、決めたんだな」
「うん、ごめんねお兄ちゃん、勝手に決めて」
「いいや、別にいいって。僕としては……やっぱりホッとしてるしな」

 どうやら彼は、日門を選んでほしかったことが、その言葉で理解できた。
 しかしまだ終わっていない。険しい顔つきのまま、こちらを睨みつけているボディーガードの皆や、射抜くような視線をぶつけてくる時乃との話は続いている。

「……小色、それは本当に正しい選択なのかしら?」
「分かりません。けれど、わたしはそうしたいと思っているだけです」
「あの仮面の男が、本当にあなたたちをずっと守ってくれるかしら? あれほどの人外じいた力の持ち主よ。そのうち弱者であるあなたたちが邪魔になって捨てられるかもしれないわよ?」
「ひか…………あの人はそんなことはしません」
「まだ出会ってひと月も経っている相手に何故そう確信できるのかしら?」
どうやら理九から、日門についてある程度聞いているようだ。
「それは――――女の勘、です!」

 その答えはあまりにも突拍子もないことだったのか、その場にいた誰もがキョトンとした表情で固まっていた。いつもクールな時乃でさえも呆気に取られている様子。

「当主様にはお世話になって、一方的に出ていくのは確かに恩知らずかもしれません。それでもわたしはあの人の傍にいたいって思いました。あの時……離れ離れになった時は、とても苦しかった。ここが……とても痛かった」

 小色は自分の胸をキュッと掴むような仕草をする。
 それはここに日門と一緒に来た時だ。何だかんだいっても一緒に過ごしていけるのではと淡い期待を持っていたからなおさら辛かった。

「だからもし次に会えた時は、今度は……離れたくないって思ったんです」
「小色……お前そこまで……」

 小色の抱く気持ちの強さを改めて知った理九は、やれやれと諦めたような溜息を零した。
 そしてしばらく沈黙が続き、口火を切ったのは時乃である。

「……どうやら決意は固いようね。仕方ないわ」
「!? お嬢、許可するつもりなのかよ?」

 篤史が目を見開きながら声を発した。

「ならあなたが止める? どうやって?」
「そ、それは……」
「力尽くなんてもってのほかよ。そうやって人を縛っても良いことなんてないわ。特にこんな閉塞した世界なら猶更ね。それに……そんなことをすればあの男に滅ぼされかねないわ。まあ何より、そんな方法は美しくないもの」
「お嬢…………わかりやしたよ」

 どうやら篤史や他のボディーガードの者たちは渋々ながら反論することを捨てたようだ。

「凛もあなたのことを気に入っていたんだけどね」
「その凛さんに背中を押してもらいました」
「……ったく、あの人は……」

 不愉快そうながらも、どこか慣れ親しんだ様子の声音。恐らく凜ならそうしてもおかしくないと考えてのことだろう。それだけの絆が二人の間にあるということ。それは素直に羨ましいとさえ思った。

「了解したわ。けれど幾つか条件があるわね」
「条件……」

 思わずごくりと喉を鳴らしたのは、声を発した小色だけでなく理九もだった。

「まずはここの情報を一切外部に漏らさないこと」
「そ、それはもちろんです! 当然だよね、お兄ちゃん!」

 理九もどこかホッとした様子で「ああ」と賛同してくれた。

「それと……必ず生き抜きなさい。無様に死ぬことだけは許可しないわよ」
「「! ……はい!」」

 二人して絶対に守るという気持ちを込めた返事をした。

「最後に………………いつでもいいから、また顔を見せに来なさい」
「え? ……い、いいんですか?」

 時乃は「もちろんよ」と優しく微笑んでくれたのであった。




あなたにおすすめの小説

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。