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――そこは世界の果てと呼ばれ、凶悪で凶暴なモンスターが生息し、かつ目まぐるしく変化する厳しい環境のせいで常識ある者たちは一歩も足を踏み入れない大地。
その名を――【非命《ひめい》の大地】。
そこに侵入した多くの者たちのほとんどが命を散らしたことからその名がつけられた。
そんな誰もが怖れ慄く地の北端に位置する丘の上に、ひっそりと佇む巨大な立方体が存在する。
全体が黒々とした色彩で染められており、装飾など一切見当たらない無骨さ。一見するだけでは建物なのか、遺跡なのか、何を目的としているのかまったく判断がつかない。
しかし自然溢れるその中で、そこにある明らかな人工物はただただ異質だった。
そんな異質な物体の正体。それは――とある研究施設だ。
そこに住まう人間はたった一人。
世間ではその存在をこう評価している。
『狂人』『異端者』『似非賢者』『孤高の変質者』『マッドサイエンティスト』『天災』『災害の権化』『究極の探求者』
これらはそれまで彼につけられた肩書である。彼を理解できる者は存在せず、彼の行為を許容できる者もまた存在しなかった。
だがそれでも彼が人並外れた才能と技術を持ち合わせていることは確かで、その手から生み出されるものは、正しく理解できる者が使用すれば莫大な利益を生む。
ただし利だけを求める連中は、その人物にとって煩わしいだけだった。また利すら許容できない者たちによる排除な非難もまた鬱陶しいものであり、故に彼は誰にも邪魔されないこの大地に移り住むことを決めたのである。
そうして彼は、最果ての地にて思うがまま寝る間すら惜しみ日々研究に没頭していた。そんなある日のこと、突然訪ねてきた人物がいたのである。
それが――四河日門。異世界から召喚された、いずれ英雄と呼ばれし少年だった。
しかしその頃の日門は、まだ何も持たない弱者。異世界人のために魔法を扱えず、身体能力だって人並程度。たとえ目一杯鍛えたとしても、勇者や聖女の隣に立つほどの存在にはなり得ない。
そこであらゆる伝手を頼りに、魔法を扱える術を得る方法を探した結果、辿り着いたのがこの場所だった。
ここに住まう人物ならば、日門に新たなる光を与えてくれるはずだと。それがたとえ非人道的な手法だとしても、だ。
日門には神から与えられたミッションをこなし、すぐにでも元の世界に戻りたいという欲求があった。だからどんな苦行でも乗り越える覚悟があったのである。
周りの皆が否定する中、それでも最果てに住まう人物に師事することを選択したのだ。
すべてはできるだけ早く力を手に入れて、元の世界に戻るために。
そうして訪ねてきたわけだが、この『非命の大地』はそれまで持っていた日門の常識は一切通じなかった。
まるで地球でいう古代――恐竜が生息している時代に乗り込んだかのような場所であり、自然は都会と比べて段違いに豊かではあるが、それ以上にあらゆる生物が巨大であり凶悪。
植物すら縄張りに入ってきた人間を食う始末。そんな中で生き残るためには、常に気を張り続ける必要がある。全身の感覚を研ぎ澄ませて、何らかの気配がしたらすぐに身を隠す。そして少しずつ前へと進む。
さらにここの環境はもっと非常識であり、先ほどまで晴れていたと思ったら、数分後には大豪雨となり雷も同時にあちらこちらに振ってくる。それなのにまた一時間も経たずに、今度は氷点下まで気温が下がって豪雪地帯が出来上がり、次の瞬間にはそこら中でトルネードが発生し、その後には砂漠のような強烈な日照りが続く。
まさに息もつかせぬ環境の変化で、日門の体力と精神力を容赦なく奪っていく。ここに来る前にいろいろ準備をしてきたアイテムなどを使って何とか切り抜けつつも、今度はモンスターに襲われたり、大地震に見舞われたりと、何度死にかけたか分からない。
それでも長い時間をかけてようやく目的地に辿り着いた。
そして日門は出会うことになる。
後に師匠とも呼ぶ人物――――マクス・オルム・ウェルロイドに。
彼は一言で言うなら〝変態〟。これに尽きるだろう。
何せ初対面の時の彼の姿は、全裸に白衣といった頭がおかしいとしか思えない恰好をしていたのだから。
それならいっそのこと白衣を脱いだらいいのではと言ったが、研究者として白衣は欠かせないだろと真顔で言われたことは懐かしい。
さすがにいちいち彼の一物が目に入るのは鬱陶しいので、自分がいる間はパンツを履いてもらうようにした。
そして日門は自分が異世界からやってきた存在で、魔法を扱う方法を学ぶために来たことを伝えた。
こんなところに住んでいる理由は、人嫌いだという話も聞いていたので断られるかとも思ったが、マクスは「いいよー」と呆気なく了承したのである。
身構えてただけに拍子抜けだった。しかしこちらにとっては都合が良い展開であり、さっそくその方法について問い質した。
ただ、その方法を聞く前に彼は一つだけ条件を提示したのである。
やはりそう上手く事は運ばないことを知り、覚悟をしながら条件を聞いた。
『君が僕の弟子になることー』
それが彼の提示した条件。もっとえげつない条件を突き付けてくると思っていた日門からしたら、これまた肩透かしでもくらったかのようだった。
当然そんなことで強くなれるならと受け入れた…………のが失敗だったかもしれない。
そこからは彼の研究を手伝いながら、魔法を学ぶレクチャーを受けた。
その中で、日門は何度自分の身体をいじられたら分からない。夜寝て朝起きたら、いつのまにか研究台に縛り付けられていたことなど数え切れないし、何の物体か分からないものを食べさせられたり飲ませられたり、あるいは直接身体に注入されたりと、まるで改造人間の手術でも受けている気分だった。
掃除、洗濯、料理などの身の回りの世話も当然させられ、文句を吐きながらもここが最後の望みだからと自分に言い聞かせて頑張ったつもりだ。
そしてそんなある日、いよいよマクスから聞かされることになった魔法を扱う方法。
日門の身体に《魔核》を埋め込むという異端技術。それを駆使することによって、日門は今の身体から脱却する術を得ることができる。
ここまで来て尻ごみなどはしていられない。たとえ異端でも。力を得るためにその技術を受け入れた。
だが優れた技術を持つマクスをもってしても、その成功率は凡そ〝1パーセント〟程度。
100人いれば99人は確実に死んでしまう改造だと彼は言った。
それを聞かされても日門は躊躇することなく受けたのである。
その名を――【非命《ひめい》の大地】。
そこに侵入した多くの者たちのほとんどが命を散らしたことからその名がつけられた。
そんな誰もが怖れ慄く地の北端に位置する丘の上に、ひっそりと佇む巨大な立方体が存在する。
全体が黒々とした色彩で染められており、装飾など一切見当たらない無骨さ。一見するだけでは建物なのか、遺跡なのか、何を目的としているのかまったく判断がつかない。
しかし自然溢れるその中で、そこにある明らかな人工物はただただ異質だった。
そんな異質な物体の正体。それは――とある研究施設だ。
そこに住まう人間はたった一人。
世間ではその存在をこう評価している。
『狂人』『異端者』『似非賢者』『孤高の変質者』『マッドサイエンティスト』『天災』『災害の権化』『究極の探求者』
これらはそれまで彼につけられた肩書である。彼を理解できる者は存在せず、彼の行為を許容できる者もまた存在しなかった。
だがそれでも彼が人並外れた才能と技術を持ち合わせていることは確かで、その手から生み出されるものは、正しく理解できる者が使用すれば莫大な利益を生む。
ただし利だけを求める連中は、その人物にとって煩わしいだけだった。また利すら許容できない者たちによる排除な非難もまた鬱陶しいものであり、故に彼は誰にも邪魔されないこの大地に移り住むことを決めたのである。
そうして彼は、最果ての地にて思うがまま寝る間すら惜しみ日々研究に没頭していた。そんなある日のこと、突然訪ねてきた人物がいたのである。
それが――四河日門。異世界から召喚された、いずれ英雄と呼ばれし少年だった。
しかしその頃の日門は、まだ何も持たない弱者。異世界人のために魔法を扱えず、身体能力だって人並程度。たとえ目一杯鍛えたとしても、勇者や聖女の隣に立つほどの存在にはなり得ない。
そこであらゆる伝手を頼りに、魔法を扱える術を得る方法を探した結果、辿り着いたのがこの場所だった。
ここに住まう人物ならば、日門に新たなる光を与えてくれるはずだと。それがたとえ非人道的な手法だとしても、だ。
日門には神から与えられたミッションをこなし、すぐにでも元の世界に戻りたいという欲求があった。だからどんな苦行でも乗り越える覚悟があったのである。
周りの皆が否定する中、それでも最果てに住まう人物に師事することを選択したのだ。
すべてはできるだけ早く力を手に入れて、元の世界に戻るために。
そうして訪ねてきたわけだが、この『非命の大地』はそれまで持っていた日門の常識は一切通じなかった。
まるで地球でいう古代――恐竜が生息している時代に乗り込んだかのような場所であり、自然は都会と比べて段違いに豊かではあるが、それ以上にあらゆる生物が巨大であり凶悪。
植物すら縄張りに入ってきた人間を食う始末。そんな中で生き残るためには、常に気を張り続ける必要がある。全身の感覚を研ぎ澄ませて、何らかの気配がしたらすぐに身を隠す。そして少しずつ前へと進む。
さらにここの環境はもっと非常識であり、先ほどまで晴れていたと思ったら、数分後には大豪雨となり雷も同時にあちらこちらに振ってくる。それなのにまた一時間も経たずに、今度は氷点下まで気温が下がって豪雪地帯が出来上がり、次の瞬間にはそこら中でトルネードが発生し、その後には砂漠のような強烈な日照りが続く。
まさに息もつかせぬ環境の変化で、日門の体力と精神力を容赦なく奪っていく。ここに来る前にいろいろ準備をしてきたアイテムなどを使って何とか切り抜けつつも、今度はモンスターに襲われたり、大地震に見舞われたりと、何度死にかけたか分からない。
それでも長い時間をかけてようやく目的地に辿り着いた。
そして日門は出会うことになる。
後に師匠とも呼ぶ人物――――マクス・オルム・ウェルロイドに。
彼は一言で言うなら〝変態〟。これに尽きるだろう。
何せ初対面の時の彼の姿は、全裸に白衣といった頭がおかしいとしか思えない恰好をしていたのだから。
それならいっそのこと白衣を脱いだらいいのではと言ったが、研究者として白衣は欠かせないだろと真顔で言われたことは懐かしい。
さすがにいちいち彼の一物が目に入るのは鬱陶しいので、自分がいる間はパンツを履いてもらうようにした。
そして日門は自分が異世界からやってきた存在で、魔法を扱う方法を学ぶために来たことを伝えた。
こんなところに住んでいる理由は、人嫌いだという話も聞いていたので断られるかとも思ったが、マクスは「いいよー」と呆気なく了承したのである。
身構えてただけに拍子抜けだった。しかしこちらにとっては都合が良い展開であり、さっそくその方法について問い質した。
ただ、その方法を聞く前に彼は一つだけ条件を提示したのである。
やはりそう上手く事は運ばないことを知り、覚悟をしながら条件を聞いた。
『君が僕の弟子になることー』
それが彼の提示した条件。もっとえげつない条件を突き付けてくると思っていた日門からしたら、これまた肩透かしでもくらったかのようだった。
当然そんなことで強くなれるならと受け入れた…………のが失敗だったかもしれない。
そこからは彼の研究を手伝いながら、魔法を学ぶレクチャーを受けた。
その中で、日門は何度自分の身体をいじられたら分からない。夜寝て朝起きたら、いつのまにか研究台に縛り付けられていたことなど数え切れないし、何の物体か分からないものを食べさせられたり飲ませられたり、あるいは直接身体に注入されたりと、まるで改造人間の手術でも受けている気分だった。
掃除、洗濯、料理などの身の回りの世話も当然させられ、文句を吐きながらもここが最後の望みだからと自分に言い聞かせて頑張ったつもりだ。
そしてそんなある日、いよいよマクスから聞かされることになった魔法を扱う方法。
日門の身体に《魔核》を埋め込むという異端技術。それを駆使することによって、日門は今の身体から脱却する術を得ることができる。
ここまで来て尻ごみなどはしていられない。たとえ異端でも。力を得るためにその技術を受け入れた。
だが優れた技術を持つマクスをもってしても、その成功率は凡そ〝1パーセント〟程度。
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