異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

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 この大学には数多くの生存者たちが身を寄せている。元々ここで学生をやっていた者もいるが、外から逃げ込んできた者たちなど様々だ。
 当初はここを絶対的な拠点として、襲い掛かってくるゾンビたちから身を守ろうと一致団結していた。

 くりなもまた、先輩である海彦に誘われてここへと逃げ込んだのだ。残念ながら実家は倒壊してしまったが……。
 今思えば、声をかけてくれた海彦には感謝している。こうしてまだ生き残っていられるのも彼のお蔭なのだから。

 だからせめて自分のできることをして、最後までゾンビたちに抗おうと決めた。幸い誰もが生きる希望を捨てていなかったから。
 しかし三カ月ほど前、あるグループが助けを求めてここへやってきた。戦力を増強したかったこちらは、そのグループを受け入れることになったのである。

 そのグループは若く人当たりも良かった。だからよく働き皆からも信頼されていたのだが、ある時ガラリとその態度を変えたのである。
 まるで人が変わったようになり、ここを纏めていたリーダーを殺したのだ。そうして新たなリーダーに成り代わり、独裁政治のもと皆を身勝手に指示を出すようになった。

 もちろんそれに反抗した人たちはいた。だがそうした者たちは見せしめとばかりに公開処刑され、他の者たちに恐怖と絶望を植え付けたのだ。
 それからというもの、彼らに反抗できずに成すがままされている。何せ歯向かえば殺されるのだ。またここから逃げ出しても、外はゾンビも群れだ。間違いなく死ぬ。

 なら強制労働させられても、まだここにいる方が安全ではある。一応食べ物は与えられるし生きることはできるから。
 それでも我慢ならないとこの牢獄から脱した者たちもいるが、恐らく全員……。

(確かあの子たちも逃げ出したんだっけ…………無事だったらいいんだけど)

 一カ月以上前だろうか、ある兄妹がここから逃げ出した。そこそこ一緒にいたからか、ここから抜け出すことを彼らに事前に聞かされた。当然外は危険だと止めたが、これ以上ここにいることはできないと彼らの決意は固かった。

 危険かもしれないが、こんなところで人であることを捨てたくはないと妹の方が言っていたと思う。
 確かにここで生き抜くためには、新リーダーに逆らえない。その命令は絶対的であり、それが暇潰しで仲間を拷問したり、女性たちの尊厳を踏み躙ったり、嫌々ながらもさせられてしまう。

 そうして徐々に肉体も心も汚されていき、もう人として真っ当に生きることはできないだろう。特に女性なんて酷いものだ。その身体を蹂躙され、飽きたら殺されるかゾンビ実験の生贄にされる。 

 こういう場では力仕事が多いことから、男は殺されることは少ないが、その代わりに死ぬまで強制労働だ。ほんの数日前、疲労で老人が倒れてそのまま息を吹き返さなかったと聞いた。
 つまり男女問わず、ここは地獄でしかないというわけだ。

 今更ながらだが、ここから逃げ出した方が賢いという気さえする。もしかしたら奇跡に奇跡が重なって、外でも生き抜くことができるかもしれない。 
 しかしながら、それは宝くじを買って一等に当選するようなものだろう。ゾンビに対してあまりにも無力な自分たちが、いつまでも生存できる環境ではないのだ。

 だからこそ辛くとも、嘆かわしくても、地獄の檻の中にいる方がまだ安全なのである。

「……先輩、本当にやっちゃうんですか?」

 くりなは、黙りながら向こう側の屋上を睨みつけている海彦に尋ねた。きっと彼もまたこの状況を良しとしてない。それは曲がりなりにも一年以上接してきたからこそ分かる。

 彼はオタクを越えたやべえオタクで、十九歳にもなっていまだに中二病患者から抜け出せていないやべえ人物だが、それでも正義感は強い。
 以前成敗と称して、新リーダーに物申しに行こうとしたが全力でくりなが止めた。一人で歯向かったところで結果は目に見えているからだ。

 もうできるだけ自分の知り合いが不幸になるような姿を見たくない。
 しかし海彦は、ならばクーデター勢力を立ち上げると仲間を募り始めたのだ。
 今ではそれなりの人数が集まり、こうして隙を見て一棟をクーデター専用の拠点とすることができたのである。 

 当然新リーダーは許さない。ただしクーデターもそこそこの勢力であることも事実であり、全面対決となれば向こうの戦力だって大幅に削られる。
 そうなればゾンビとの戦いにも影響が出てしまうことを恐れてか、今は小競り合い程度で済んでいる。

 ただ海彦たちは今が機だと考えているらしい。今なら戦力的に五分。コレ以上時間をかければ、向こうが戦力を増強させるかもしれない。何せこちらの拠点は一つ。向こうは大学敷地内のほとんどを手にしているのだ。それだけに物資が多い。

 武器作りなどが豊富にできるし、時間をかけるだけこちらが不利になってしまう。
 故に向こうがまだ準備段階の機会に攻めた方が勝率が高いと踏んでいるのだ。そう言われれば納得するものもあるが、くりなは不安でしかない。

「こちらは武器も士気も十分。正義はきっと勝つはずだ!」

 そう口にする海彦だが、彼が組んでいる腕が若干震えていることにも気づいている。
 怖いのだ。当然だ。これから行われるのはいうなれば戦争である。相手はゾンビではなく人間。つまり人と人との殺し合いだ。

 この中に戦争に慣れた者などいないだろう。喧嘩ならともかく戦いに慣れた者などいないだろう。当然誰かを殺した経験もないはず。
 そんな中での戦争だ。殺されるのも殺すのも怖いのは当然。

 しかし相手はそんな恐怖など微塵も感じていない。人を人とも思わずに殺してきているのだから。
 たとえ武器が揃っていても、士気が高くとも、いざ本番になって満足に動ける人間がどれだけいることか。 

 それにたとえ勝ったとしても、双方に多大な被害が出る。
 悲しいのは、向こう側には嫌々戦わされる人たちもいるということ。家族、友人、恋人などを人質にされて、強制的に兵士として扱われる。そんな人たちとも戦わなければならないのだ。

 くりなの知り合いや友人もまた向こう側に捕まってしまっている。もちろんそれはクーデター側の人たちも同様だ。
 そんな人たちと殺し合わされ、たとえ勝てたとしてもそこには何が残るというのだろうか……。

「安心したまえ、雪林くん!」
「先輩……?」
「向こうの勝利はこちらの全滅だろうが、こちらの勝利条件は奴と、その幹部だけ」
「……そうかもしれませんけど」

 確かに彼の言う通り、絶対的君主として君臨している存在と、それに心酔する者たちを制圧できれば勝利だが、それは向こうも分かっているはず。
 そんな簡単に大将を討ち取れるとは到底思えないのだ。

「今動かなければ、いずれ我々は駆逐されるであろう。故に、戦うべき時は今なのだ」

 海彦の覚悟は固い。これ以上何を言ったところで無理だ。

(こんな時……あの人がいてくれたら心強いのに……)

 脳裏に浮かぶある人物の顔。

(もう……一体本当にどこにいるのよ。いるなら教えてよぉ……ヒカ兄)





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