異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

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「あのさ、ここに入って訓練をするって言ったけど、入口はどこなんだい? 見たところどこにもないんだけど……」

 理九が外壁を見回しながら出入り口を探している。小色も同様に視線を忙しなく動かしていた。

「ああ、入口ならあそこだな」

 そう言って日門が指を差したのは、ドームに似つかわしくない煙突のような突起物だった。

「気にはなってたんだけど、アレが入口だって? 他にはないのかい?」
「ねえぞ。あそこが唯一の入口だしな」
「何でそんな構造にしたのさ? いちいちあそこまで行かないと入れないなんて面倒じゃないか」
「外壁を強固な壁にするためと、外から簡単に中に侵入できないようにしたかったからだな」

 外壁に扉を作ると、どうしてもそこが強度的に落ちてしまう。ゾンビだけでなく他の人間も入って来られないようにするため出入り口は作らなかったのだ。

「理由は分かったけど……あそこまでどうやって行くのさ? 梯子も見当たらないし」
「んなもん飛んで行くに決まってんだろ」
「…………そういうことか。マジで僕たち専用の訓練場ってわけだ」

 理解してくれたようで何よりだ。ということで《風の飛翔》を使って煙突の上まで飛んでいく。煙突の高さは地上五十メートル以上ある。ちょうど一人分が通れる程度の広さだ。

「あれ? 天井の造りはどうなっているんですか? 普通の屋根じゃないみたいですけど?」
「この煙突もだな。何かプニプニ……いやグニグニしててちょっと気持ち悪いんだけど」

 気づいてくれたかと、日門は内心で得意げな気持ちになった。
 ここから見ると、天板が光を反射するようにキラキラと輝いていることが分かるはずだ。一見するとガラスのように見えるが、その材質はまったくもって違う。

「聞いて驚けよ。天井にはしゃぼんスライムっつうモンスターの素材を使ってんだよ」
「「しゃぼんスライム?」」

 その名の通り、シャボン玉のようなクリアな色彩を持ったスライムである。基本的にスライムはその体内にある核を壊すことにより死滅するが、核を覆うゼリーのような肉体はそのまま残る。

 普通のスライムの肉体も食用や薬に転用することができ重宝されているのだが、このしゃぼんスライムの特徴は、何と言ってもゴムのような柔軟性と伸縮性、そしてガラスのような透明度であろう。

 また耐久性も高いことから、クッションなどに使用されることも多い。日門はこれに目を付け、天板として利用することにしたのである。
 これなら日差しも入ってくるし、仮に外側から攻撃をされても多少のダメージならその特性で反射することも可能だ。

 ならば外壁もこれでいいのではと思うかもしれないが、さすがにスケルトンハウスになってしまうので止めておいた。いちいち外が気になると訓練の妨げにもなるからだ。

(まあ実際しゃぼんスライムは、その見た目を裏腹に凶暴なんだけどな)

 異世界でのスライムは例外なく凶悪ではあるが、しゃぼんスライムは単体だけで巨大化し分裂をする。放置したら無限に湧くのだ。
 しかも弱点になる属性攻撃しか受け付けず、下手な攻撃は反射してくるので厄介極まりない。初めて相対した時は、日門もボロボロにされた経験がある。
 それでも戦い方が分かれば、あとは手順を間違わずに行うだけなので楽勝だったが。

「異世界には便利なモンスターがいるんだな。終末になる前のこの世界でなら大儲けできたろうに」

 こんな見たことも聞いたこともない汎用性の高い素材があると知れば各国がこぞって手に入れようとすること間違いないだろう。下手をすれば日門を手に入れようと戦に発展しかねない。
 こうして気兼ねなく使用できるのは、それどころではない世界状況だからだと言える。

 三人はそのまま煙突の中へ入っていくと、辿り着いた先には両開きの扉が設置されていて、日門がゆっくりと扉を開いた。

「わぁ……!」
「これは……外から見るのとじゃ違うなぁ」

 小色も理九も内装を見て感動したような声を上げた。
 円形ドームになっているこの内装は、それこそコロッセオをイメージして造り上げたものだ。外側には観客席のような空間が一周しており、中央の広場には幾つもの仕切りや柱が立てられているフィールドになっていた。

「お前たちには、ここで訓練をしてもらうぜ」
「「…………」」
「ん? どうしたどうした、ぼ~っとしてよ?」
「い、いや、凄過ぎて……君って、自分がとんでもないことをしてることを自覚しているかい?」
「そうかぁ? まあ、全部魔法とか異世界のアイテムを使ってるしな」

 この世界の技術や知識だけでコレを建造しろと言われたら匙を投げるしかないが、すべてはファンタジーに頼ったものなので、造形美とか発想はともかくとして、造れること自体に自慢はない。何せ異世界ではもっと飛びぬけたものを制作するような輩がいることを知っているからだ。その対象は主に自分の師であるマクスなのだが。

 世界最高峰の技術と知識を持つ存在がずっと傍にいたことで、日門の中の自身の肯定感はそれほど高くないのである。ネガティブというほどではないが、師匠と比べるとなあというような思考が先に来るので、どうしても誇るという気持ちが薄れてしまう。

「ところで日門さん、ここでどうやって訓練するんですか?」
「ん、そうだな。アレを見てみろ。中央のエリアには幾つか仕切りがあるだろ?」
「あ、はい。確かにありますね」
「それぞれの敷地内には、それぞれ環境が異なってる。たとえば何もない平地エリアであったり、砂地エリア、障害物エリア、沼地エリアなど様々だな」
「なるほど。それぞれのエリアに放たれたゾンビと戦う経験値を得ろってことかい?」
「理九、正解」

 エリアは仕切りで区切られていて、そこには各々ゾンビが放たれている。いろいろなシチュエーションでの戦闘経験を積むことで、実際に外で戦う時にその経験が十分に活かされるというわけだ。

「まずは平地エリアで、少数のゾンビと対峙してもらう。慣れてきたらゾンビを増やし、さらにレベルを上げて別エリアで行っていく」

 砂地では足が取られやすいし、それは沼地でも同様だ。障害物エリアでは、常に身を隠しながらのスニーキングミッションにもチャレンジしてもらうつもりである。
 こういった経験は、必ずどこかで役に立つだろうからと作っておいたのだ。というよりも実際に日門が師にやらされたことを簡略化したものである。

「んじゃ、さっそく平地エリアで訓練開始だぜ!」
 


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