異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

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「マジで来やがったぜ。飛んで火にいる夏の虫ってやつがよぉ」

 敵の一人が勝利を確信しているような笑みを浮かべながら、手に持っている警棒を自身の肩に軽く叩いている。

「っ……人質はどこですか?」

 普通なら恐怖で腰を抜かすところだろう。しかしそれでも気丈に振る舞い尋ねた。
「あぁ? んなこと教えるバカがいるかよ。てか、お前らもう死ぬんだから関係ねえだろうが」
「……あなたたちは、本当にこんなことをしていいと思ってるんですか? 同じ人間なのに。こんな状況なんですから、みんなで手を取り合って生きるべきじゃないですか!」

 何とか彼らに残っているかもしれない善の心に期待して言葉を届ける。
 しかし彼らは全員が楽しそうに「ギャハハハ!」と笑う。

「おいおい、こんな状況だからこそ好きに生きなきゃ損ってもんだろ?」
「え……?」
「力がものを言う時代だ。力さえあれば何でも思うがままだ。食いもんだって薬だって、女だってなぁ! そう葛杉さんが教えてくれたしよぉ!」

 ダメだ。この人たちはもう心根から腐ってしまっている。力に魅入られ、弱者を踏み躙ることに快感を覚えるようになっているのだ。

「んじゃさっそく皆殺しを……ん? いや、よく見ればなかなかお綺麗な顔してんじゃねえか?」

 殺意の眼差しからガラリと変わり、不気味でいやらしい目つきを向けてくる。
 くりなの全身を舐めるようにして見回し口元を綻ばせる男たちに、くりなは言葉にできないほどの怖気が走った。

 くりなの外見は整っている。それこそアイドルやモデルなどをしているといっても誰も疑わないほどのレベルには達しているだろう。
 現に男性に告白された経験も豊富であり、街で一人で立っていればほぼ間違いなくナンパの対象になってしまう。

 その理由は整った顔立ちもそうだが、一番は女性が羨むほどの胸部の膨らみによるものである。そのサイズは実に――Hカップ。グラビアアイドルとしてスカウトされたのも数知れず。
 
 ただ本人にとってはただの脂肪の塊であり、走ったりする時には重いし揺れて痛いしで、何よりも非常に肩が凝る。さらにはどうでもいい男の視線が集中するといった歓迎できない現実にも困惑していた。

 しかし自分の身体が男好きする魅力を持っていることに気づかないほどの天然ではない。だからそういった下心で近づいてくる男に辟易し、下卑た視線にはうんざりしている。

 そんな不愉快な視線が今、全方位から自分に向けられていた。もしこのまま捕縛されれば、その後にどうなるかなどは容易く想像することができる。
 間違いなく殺された方が良いほどの辱めを受けてしまうだろう。

 ジリジリといやらしい笑みを浮かべながら男たちが接近してくる。後ずさりをしようにも、背後にも敵が待ち構えているのだ。その場から下手に動けない。
 すると一人の男が背後から襲い掛かり、くりなの首に腕を引っかけて拘束してきた。

「よーし、よくやった。けどまず最初は俺からだからな、お前ら」
「そりゃないっすよ! 捕まえたのは俺っすよ?」
「俺だって最初がいいぜ。特にその胸……へへへ」

 救いようのないほどの色欲を隠しもせず、男たちは徐々に興奮を高めていく。
 しかし次の瞬間、くりなは背後にいる男に肘打ちを腹部に当て、拘束が緩んだ隙に抜け出して回し蹴りを頭部に炸裂させた。まともに攻撃を受けた男は倒れたまま動かない。

 くりなは深呼吸をしながら、腰を落として武の構えを取る。
 一瞬の出来事に男たちは言葉を失っていた。そしてハッとして気を引き締めるようにして身構える。

「な、何だてめえ、ただの女じゃねえな?」

 くりなが普通の女子ではないと悟った様子だ。くりなは確かにまだ十代の少女だ。しかし幼い頃から武道の道を突き進んできた。
 それはくりなのことを心配した父親が、自衛のためにも必要だと判断して習わせた少林寺拳法である。

 元々父親も幼い頃からずっと足を踏み入れてきた世界であり、だからこそくりなを守るために十分な力になってくれると踏んで勧めたのだ。
 くりなもまた身体を動かすこと自体は好きだったし、動画などで模擬試合を見てカッコ良いと感動したのがきっかけで習うことになった。 

 どうやら父から受け継いだ武才が備わっていたようで、めきめき実力を上げていき、中学に入る頃には、同年代でくりなに勝てる者はいなくなっていた。
 今では大人ですら模擬試合で圧倒できるほどの実力を身につけたくりなは、以前にも痴漢を働いてきた男性や、しつこいナンパ野郎をも見事に粉砕している。

「悪いですけど、暴漢には手加減はしませんよ」

 キリッとした顔つきで鋭く睨みつけ気迫を漲らせる。その威圧に対し数で勝る男たちが頬を引き攣らせた。しかしそれでもたった一人の女性に負けるわけがないと奮起する。
 男たちが武器を手に、一気に制圧しようとくりなへと襲い掛かった。

 しかし無造作に振られる武器などくりなに当たることはなく、それをかわしては瞬時にカウンターで拳や蹴りを繰り出し撃退していく。
 一人、また一人と大地に倒れ、気づけば十人以上いた男たちも半分程度にまでなっていた。

 明らかに気が引いている男たちに比べ、くりなにはまだ余裕があり勝機も感じていた。
 だがそこで、男の一人が悪党らしい手段に躍り出る。

「おい! それ以上抵抗したら、コイツを殺すぞ!」

 倒れているくりなの仲間を人質に取ったのである。

「くっ……あなたたちは、本当にクズですね」
「へ……へへ、好きなだけ言えよ。勝てば官軍っていうだろうが」

 自分が抵抗すれば、人質は殺される。そんなことを許せるほど心を冷徹にできないことがくりなの弱点と言えた。
 くりなは歯がゆさを覚えながらも力を抜いて構えを解く。

「…………好きにすればいいでしょう」

 そう言うしかなかった。仲間を助ける確率を少しでも上げるためにも。
 そもそも嫌な予感がした時に、彼らを無理やりにでも引き返していればという罪悪感もあったのだ。

 すると接近してきた男たちに一瞬で組み伏せられた。
 両手両足を押さえられ、仰向けにされたくりなに、男たちが下卑た笑みで見下ろす。

「おいたが過ぎたなぁ、嬢ちゃん。この詫びに……どうなるか分かってんな?」

 直後、服をたくし上げられ、ブラジャーが露わになる。

「や、止めっ――っ!?」

 叫ぼうとするが口も塞がれてしまう。

「へへへ、まずは俺からだぜぇ」
「んんっ! んんーっ!?」

 必死で抵抗しようとするが、さすがにこれだけの男の力に抗うことができない。
 男の手が胸へと迫ってくる。まだ穢れの知らない身体。こんな場所で、こんなクズたちに弄ばれてしまう。それはくりなにとって地獄にも等しい絶望でしかなかった。

(嫌……嫌だよ……っ! 誰か助けて……助けてよ……)

 しかし願ってもそんな都合の良い未来なんて起きないことは知っている。神様に願ったところで、こんなどうしようもない世界にした神が助けてくれるわけがない。
 それでも……それでもくりなは願うしかなかった。

(お願い……いるなら…………どこかにいるなら来てよ…………ヒカ兄……っ)

 その時、一陣の風が吹いた。
 同時にくりなを拘束していた男たちが次々と弾け飛んだ。


「――――――ったく、うちの後輩に何してくれてんだ?」


 くりなの視界に飛び込んできたのは、とてもとても懐かしい背中だった。



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