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第二話
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――フッと意識が覚醒した。
視界に飛び込んできたのは、見たこともない奇妙な空が広がった光景だった。
「何……だ……あの空……?」
普通、晴れた空の色は澄んだ青、といえるだろう。しかし今、写楽の視界には、縦に雲のような白い物体が空を割るように走り、左右にそれぞれ青と紫に染まった空が見えていた。
右側は青、左側は紫。その境界線には果てが見えない縦長の雲。そんな奇妙な空があるのだから、自分が夢の中にいるのではという見解に辿り着くのは仕方のないことだった。
しかしその時、
「――ふむ。二人、というわけか。――厄介なことだ」
突如耳に入ってきた声にビクッとなり、慌てて上半身を起こして、声が聞こえた背後へと身体ごと向けた。
そこにいたのは、真っ白い装束を着込んだ目つきの鋭い男。まるで人の心を射抜くようなその瞳に嫌悪感を覚える。
ただその男の隣にいる者は、正反対に穏和な雰囲気を醸し出していた。テレビや漫画などでしか見たことのない煌びやかなドレスを纏っており、ふんわりとした水色の髪が腰まで伸びている。
一言で可愛いと呼べるほどの美少女ではあるが、それ以前に……。
(水色の髪? ドレス? え、日本人じゃない……よな?)
それに隣りに立っている男性も、まるでコスプレ会場にいるような出で立ちをしている。それに顔立ちもアジア系ではなく、どことなくフランスやイタリアにいそうな様相だ。
(おいおい、一体どんな夢だ?)
以前呼んだ漫画に出てきたキャラが混合でもして、こういうキャラを作って夢の中に現れているのかと思った。
そこであることに気づく。自分の傍にはもう一人、誰かが横になっていることを。
(……誰だ?)
見たことはない。黒髪黒目の写楽と違って、茶髪で寝ていても美少年だと分かるルックスをしている。どこかの学校指定のブレザーを着込み、静かに寝入っていた。
すると彼が「う……」と顔をしかめながら瞼を上げる。
「…………え?」
恐らく今、彼と同じ表情を、自分もしていただろうと写楽は思った。異様ともいえる空に目を奪われ、言葉を失っている様子。
そんな彼が、写楽や他の者たちの気配に気づいたのか、サッと上半身を起こして、その茶褐色に染まった瞳で周りを見回す。
「えと……何?」
最終的に言葉の通じそうな写楽に視線を向けてそう尋ねてくるが、聞きたいのは写楽も同じなので質問には答えられない。
「姫、後はご随意に。今度は当たりだとよろしいですがね」
男がつまらなさそうに言葉を吐くと、一瞬だけ写楽を一瞥してからその場を説明もなしに去って行った。そして姫と呼ばれた少女が、苦笑交じりに写楽と少年に目を配り、
「突然のことで驚かれていることと思いますが、どうかご説明をさせてくださいませんか?」
申し訳なさそうにそう言うので、話くらいは聞いてもいいと写楽は思えた。
写楽はそのまま立ち上がるが、またも異様な光景を目にすることになる。自分がそれまで寝ていたのは、とても高い塔の最上階なのだろう。そこにある祭壇の上のような場所に寝かされていたようだ。
(これは――島が浮いてるっ!?)
そう、極めつきは、空に浮かんでいる島々。それはまさに日本では――いや、地球では考えられない世界が広がっていた。
それをいうならば、すでに青い空と紫の空が分断して存在している時点でそうなのだが。
(はは、やっぱり夢だな、これは)
そうとしか思えない。だが何だろうか、この全身で感じる現実感は。
夢では感じ取れないであろう感覚。風のニオイやハッキリと動く肉体と思考。夢しかありえないと思いつつも、伝わってくる現実感がそれを否定し続ける。
(いや、そうだ……オレは確か樹から落ちて死んだ……よな?)
本当は死んではおらず、今頃病院のベッドで夢を見ているのかもしれない。
(そうだよな。だってさっきまで感じてた身体の痛みもないし、血も出てない)
ただ着用していた黒のジャージはそのままだ。靴も普段履いているもの。あれだけの血を出したはずなのに、血で汚れているところも見当たらない。
「夢……だよな、やっぱ」
「そう、思うよね」
突然話しかけてきたのは、傍にいた少年だ。彼もまた困惑気味に顔をしかめている。
「いや、けど夢の中のキャラが、これが夢だよなとか言うのかな……? それとも俺が他人の夢の中にいるとか? いや、それじゃ俺は一体何だ?」
明らかに動揺して混乱している様子が窺える。
「あ、あの、あなた方の疑問もすべて解決できると思いますので、どうか私についてきてください」
少女がそう言う。観察してみれば、彼女を護衛するかのように、鎧を着た兵士らしき人物が数人控えている。
写楽は益々わけが分からなくなって、とりあえず手の甲を抓ってみる。
「……っ!? 痛い……んだが」
「うん、俺もさっき抓ってみたよ。痛い、よな。だったらこの状況は夢じゃないってこと? ならここってどこなんだ?」
どうやら少年はすでに痛みを感じるか試してみて玉砕したらしい。
(ちょっと待て、夢じゃ……ない? けどこんな場所……!)
周りを見渡す。遠くには円形状に広がった高い壁が見える。城塞都市というやつなのだろうか。恐らく今写楽がいるのは、城の一部分。
足元には魔法陣のようなものが描かれている。空は異常、浮かんでいるものも異常。
つまり――。
(――異世界、だってのか、ここは……っ!?)
突きつけられる現実に写楽は強烈な衝撃を受けた。
視界に飛び込んできたのは、見たこともない奇妙な空が広がった光景だった。
「何……だ……あの空……?」
普通、晴れた空の色は澄んだ青、といえるだろう。しかし今、写楽の視界には、縦に雲のような白い物体が空を割るように走り、左右にそれぞれ青と紫に染まった空が見えていた。
右側は青、左側は紫。その境界線には果てが見えない縦長の雲。そんな奇妙な空があるのだから、自分が夢の中にいるのではという見解に辿り着くのは仕方のないことだった。
しかしその時、
「――ふむ。二人、というわけか。――厄介なことだ」
突如耳に入ってきた声にビクッとなり、慌てて上半身を起こして、声が聞こえた背後へと身体ごと向けた。
そこにいたのは、真っ白い装束を着込んだ目つきの鋭い男。まるで人の心を射抜くようなその瞳に嫌悪感を覚える。
ただその男の隣にいる者は、正反対に穏和な雰囲気を醸し出していた。テレビや漫画などでしか見たことのない煌びやかなドレスを纏っており、ふんわりとした水色の髪が腰まで伸びている。
一言で可愛いと呼べるほどの美少女ではあるが、それ以前に……。
(水色の髪? ドレス? え、日本人じゃない……よな?)
それに隣りに立っている男性も、まるでコスプレ会場にいるような出で立ちをしている。それに顔立ちもアジア系ではなく、どことなくフランスやイタリアにいそうな様相だ。
(おいおい、一体どんな夢だ?)
以前呼んだ漫画に出てきたキャラが混合でもして、こういうキャラを作って夢の中に現れているのかと思った。
そこであることに気づく。自分の傍にはもう一人、誰かが横になっていることを。
(……誰だ?)
見たことはない。黒髪黒目の写楽と違って、茶髪で寝ていても美少年だと分かるルックスをしている。どこかの学校指定のブレザーを着込み、静かに寝入っていた。
すると彼が「う……」と顔をしかめながら瞼を上げる。
「…………え?」
恐らく今、彼と同じ表情を、自分もしていただろうと写楽は思った。異様ともいえる空に目を奪われ、言葉を失っている様子。
そんな彼が、写楽や他の者たちの気配に気づいたのか、サッと上半身を起こして、その茶褐色に染まった瞳で周りを見回す。
「えと……何?」
最終的に言葉の通じそうな写楽に視線を向けてそう尋ねてくるが、聞きたいのは写楽も同じなので質問には答えられない。
「姫、後はご随意に。今度は当たりだとよろしいですがね」
男がつまらなさそうに言葉を吐くと、一瞬だけ写楽を一瞥してからその場を説明もなしに去って行った。そして姫と呼ばれた少女が、苦笑交じりに写楽と少年に目を配り、
「突然のことで驚かれていることと思いますが、どうかご説明をさせてくださいませんか?」
申し訳なさそうにそう言うので、話くらいは聞いてもいいと写楽は思えた。
写楽はそのまま立ち上がるが、またも異様な光景を目にすることになる。自分がそれまで寝ていたのは、とても高い塔の最上階なのだろう。そこにある祭壇の上のような場所に寝かされていたようだ。
(これは――島が浮いてるっ!?)
そう、極めつきは、空に浮かんでいる島々。それはまさに日本では――いや、地球では考えられない世界が広がっていた。
それをいうならば、すでに青い空と紫の空が分断して存在している時点でそうなのだが。
(はは、やっぱり夢だな、これは)
そうとしか思えない。だが何だろうか、この全身で感じる現実感は。
夢では感じ取れないであろう感覚。風のニオイやハッキリと動く肉体と思考。夢しかありえないと思いつつも、伝わってくる現実感がそれを否定し続ける。
(いや、そうだ……オレは確か樹から落ちて死んだ……よな?)
本当は死んではおらず、今頃病院のベッドで夢を見ているのかもしれない。
(そうだよな。だってさっきまで感じてた身体の痛みもないし、血も出てない)
ただ着用していた黒のジャージはそのままだ。靴も普段履いているもの。あれだけの血を出したはずなのに、血で汚れているところも見当たらない。
「夢……だよな、やっぱ」
「そう、思うよね」
突然話しかけてきたのは、傍にいた少年だ。彼もまた困惑気味に顔をしかめている。
「いや、けど夢の中のキャラが、これが夢だよなとか言うのかな……? それとも俺が他人の夢の中にいるとか? いや、それじゃ俺は一体何だ?」
明らかに動揺して混乱している様子が窺える。
「あ、あの、あなた方の疑問もすべて解決できると思いますので、どうか私についてきてください」
少女がそう言う。観察してみれば、彼女を護衛するかのように、鎧を着た兵士らしき人物が数人控えている。
写楽は益々わけが分からなくなって、とりあえず手の甲を抓ってみる。
「……っ!? 痛い……んだが」
「うん、俺もさっき抓ってみたよ。痛い、よな。だったらこの状況は夢じゃないってこと? ならここってどこなんだ?」
どうやら少年はすでに痛みを感じるか試してみて玉砕したらしい。
(ちょっと待て、夢じゃ……ない? けどこんな場所……!)
周りを見渡す。遠くには円形状に広がった高い壁が見える。城塞都市というやつなのだろうか。恐らく今写楽がいるのは、城の一部分。
足元には魔法陣のようなものが描かれている。空は異常、浮かんでいるものも異常。
つまり――。
(――異世界、だってのか、ここは……っ!?)
突きつけられる現実に写楽は強烈な衝撃を受けた。
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