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第三十四話
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――写楽は瞼をそっと上げた。
先程まで感じていた身体の痛みが嘘のように消失している。
「……ふぅ、どうやらまた死んだようだな」
ゆっくりと上半身を起こす。傍には自分が持っていた剣と、血塗れで絶命しているスカイフロッグの姿があった。
「そ、そうだ! コニムはっ!?」
崖の上を見つめる。しかしかなりの高度なので先を確認することができない。耳を澄ましても、コニムの声が聞こえない。
「……おかしい。彼女の正確ならあそこで泣いているか、叫んでいるかのどっちかだと思ったが……」
もしかして一人でノージュがいるところへ戻ったのだろうか。
「いや、それともモンスターに……!?」
一刻も早く確認に行かなければならない。
「けどこの崖をどうやって…………っ!?」
その時、ハッとなってスカイフロッグの死体を見つめる。
ゴクリと喉を鳴らしながら近づき、死体にそっと手を触れた。
「はぁ~ふぅ~…………頼むぞ。――“転換転生”っ!」
頭の中に例の言葉が流れ込んでくる。
スカイフロッグの身体が光の粒子に変化し、写楽の身体へと吸い込まれていく。
「っ…………ふぅ。……《ステータス》」
少し確かめるのが怖かったが、そこに映し出された表示を見てニヤリと頬を緩めた。
《パラメータ》
体力:196/196 魔力:196/196
攻撃:斬撃196 打撃196 魔術196 スキル196
防御:斬撃196 打撃196 魔術196 スキル196
敏捷:196
命中:196
精神:196
器用:196
《魔術》
雷精魔術:1
《スキル》
威圧:3 隠密:1 空歩:1
《ユニークスキル》
転生開闢:0
一度死んだことにより、《パラメータ》も上がっていた。
そして何より、手に入れたかった《空歩》の文字に心が躍る。
「よしっ! それじゃさっそくだ! 《空歩》!」
ジャンプをして足元に足場があると思いながら蹴り出してみると、空中を蹴ることができ、さらに上空へ跳ぶことができた。
(このまま一気に崖上まで!)
しかし空を駆け上がるというのは非常に難しくて、バランスを崩すと……。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
身体が傾いてそのまま地面へと直下してしまった。
「~~~~っ!? う、腕がぁぁっ」
頭こそ打たなかったが、右腕を強打したようだ。嫌な音もした。
「くそぉ、マジかぁ……。いきなり大ダメージとかシャレにならんぞ」
せっかく全回復したというのに、落下の衝撃で体力がかなり削られてしまった。防御力がもし低ければ、今のでも十分死んでいたのかもしれない。
「……けど、諦めるわけにはいかないんだっ! たとえ何度死んでも、コニムたちのところへ行くって決めたから!」
写楽は歯を食いしばって、何度も立ち上がり空を駆け上がる。
二十回ほどチャレンジして、そのうち二回――落下地点が悪く、岩場に直接頭をぶつけて死んでしまった。
《パラメータ》の器用がかなり236と上がったお蔭もあったのか、二回目に死んで復活してからのチャレンジで、一発成功し、崖上まで一気に駆け上がることができた。
「ふぅ……器用さってのは、思った以上に重要な《パラメータ》だったんだな」
しかし明らかに自分が強くなっているのが分かる。何せ三回も死んだのだ。力も跳ね上がっている。
「よし! モタモタしてられない! 早くコニムたちを探さないと!」
崖上すぐにはコニムはいなかった。
モンスターに襲われた様子もないことが少し安心できた……が、まだ不安はある。ならば彼女はどこへ行ったのかということ。
「コニムゥゥゥッ! どこだぁぁぁっ!」
呼んでみるが返答はない。
(近くにいない……? ならどこに……! ま、まさか!?)
写楽はノージュが戦っているであろう方角に顔を向ける。考えたくはないが、もし、彼女が敗れビビルアたちが勝ったのだとしたら、コニムを見つけることも容易いだろう。
「……確認に行ってみるか」
急いで戦いの現場へ向かうことに。
しかし近づくにつれ不思議に感じていた。それは戦いの音というものが聞こえてこないのだ。剣戟や魔術の応酬。それらは確実に周囲に影響を及ぼす。それは音になり、聞こえてくるはず。
それなのに、まるでこの先には誰もいないかのように静けさが前方から感じられる。
そして―――。
「そ、そんな……っ!?」
辿り着くと唖然とする光景が広がっていた。
大地に横たわるは、写楽とノージュが倒した魔人たち。……それだけ。
どこにもノージュやビビルアたちの姿がなかった。
「戦闘場所を変えた? いや、そんなはずはないだろう」
何故なら耳を澄ませても、やはり何も聞こえないからだ。つまり戦闘はもう終了したということ。
コニムが崖上から消え、ここでは戦闘も終了している。ノージュがコニムを連れて逃げ出したという可能性も確かに存在するが……。
「攫われた……のか?」
その可能性の方が高いと思ってしまっていた。その理由として、地面にノージュの槍が落ちているからだ。彼女が唯一の武器を捨てて逃げるとは思えない。
となると、やはり可能性として最も高いのは……。
「くそ……どうする? どうしたらいい?」
追いかけたいが、残念ながらどこに行ったのかが分からない。誰かに聞こうにも、ここにいるのは死んだ魔人だけ。
もう関係ないと割り切って旅をし続けることはできる。だが……。
脳裏に浮かぶのは彼女たちの顔。
(……コニムはオレを助けるために、ここまで来た。そしてノージュは、オレを信じてコニムを託してくれた)
それなのに、彼女たちの信頼を裏切ってしまった。
(このままなかったことになんかしてもいいのか? それで旅をしてて胸を張れる生を生きられるのか?)
……絶対に無理だ。彼女たちの助けになってあげたいと思った。だからこそ、囮になってまで、彼女たちを逃がそうとしたのだ。
(ここで逃げるわけにはいかない……よな)
怖い。本当は物凄く怖い。ウェンガのあの技だって、信じられないくらい痛くて、二度と受けたくないものだ。ビビルアの威圧感なんて、まともに受けたら精神がどうにかなりそうだ。
今でも思い出すと恐怖で身体震える。
あのノージュが負けるほどの相手。恐怖が押し寄せてくるのは当然。
「…………けど、守ってやりたいって思ったんだ」
だから――。
「オレにできることはしてやる!」
自然と震えは止まっていた。
(じいちゃんが言ってた。ゴールを決める。そしてブレることなく、そこへ突っ走れば、いつかは辿り着ける!)
ゴールは二人の救出。そこに向かって突っ走るだけだ。
しかし目的を定めたのはいいが、問題はコニムたちがどこに連れて行かれたのかということだ。
「……何か情報がないか? 何でもいい……ん?」
視界に飛び込んできた魔人の死体。
「……とりあえず、オレが倒した三人を“転換転生”しておくか」
死に顔を見分けていくのは良い気分のするものではないが、この際我慢するしかない。
「……いた。コイツだ」
まず一人目。スカイフロッグの時と同じように、近づいて“転換転生”を行使する。
すると驚くことに、魔人を吸収した瞬間――何か記憶のようなものまで流れ込んできた。流れ込んできたのは一部だったが……。
「……【アデスの森】……?」
思わず写楽は頬を緩める。
「……なるほど、人に対してやったのは初めてだったけど、人だったら少し記憶――知識もものにすることができるのか」
これは好都合だった。
「この力が便利で本当に良かった。これでオレは、ゴールに一歩近づけた!」
記憶にある森の方角を睨みつけながら写楽は宣言する。
(待ってろよ、二人とも。必ず助けに行くからな!)
先程まで感じていた身体の痛みが嘘のように消失している。
「……ふぅ、どうやらまた死んだようだな」
ゆっくりと上半身を起こす。傍には自分が持っていた剣と、血塗れで絶命しているスカイフロッグの姿があった。
「そ、そうだ! コニムはっ!?」
崖の上を見つめる。しかしかなりの高度なので先を確認することができない。耳を澄ましても、コニムの声が聞こえない。
「……おかしい。彼女の正確ならあそこで泣いているか、叫んでいるかのどっちかだと思ったが……」
もしかして一人でノージュがいるところへ戻ったのだろうか。
「いや、それともモンスターに……!?」
一刻も早く確認に行かなければならない。
「けどこの崖をどうやって…………っ!?」
その時、ハッとなってスカイフロッグの死体を見つめる。
ゴクリと喉を鳴らしながら近づき、死体にそっと手を触れた。
「はぁ~ふぅ~…………頼むぞ。――“転換転生”っ!」
頭の中に例の言葉が流れ込んでくる。
スカイフロッグの身体が光の粒子に変化し、写楽の身体へと吸い込まれていく。
「っ…………ふぅ。……《ステータス》」
少し確かめるのが怖かったが、そこに映し出された表示を見てニヤリと頬を緩めた。
《パラメータ》
体力:196/196 魔力:196/196
攻撃:斬撃196 打撃196 魔術196 スキル196
防御:斬撃196 打撃196 魔術196 スキル196
敏捷:196
命中:196
精神:196
器用:196
《魔術》
雷精魔術:1
《スキル》
威圧:3 隠密:1 空歩:1
《ユニークスキル》
転生開闢:0
一度死んだことにより、《パラメータ》も上がっていた。
そして何より、手に入れたかった《空歩》の文字に心が躍る。
「よしっ! それじゃさっそくだ! 《空歩》!」
ジャンプをして足元に足場があると思いながら蹴り出してみると、空中を蹴ることができ、さらに上空へ跳ぶことができた。
(このまま一気に崖上まで!)
しかし空を駆け上がるというのは非常に難しくて、バランスを崩すと……。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
身体が傾いてそのまま地面へと直下してしまった。
「~~~~っ!? う、腕がぁぁっ」
頭こそ打たなかったが、右腕を強打したようだ。嫌な音もした。
「くそぉ、マジかぁ……。いきなり大ダメージとかシャレにならんぞ」
せっかく全回復したというのに、落下の衝撃で体力がかなり削られてしまった。防御力がもし低ければ、今のでも十分死んでいたのかもしれない。
「……けど、諦めるわけにはいかないんだっ! たとえ何度死んでも、コニムたちのところへ行くって決めたから!」
写楽は歯を食いしばって、何度も立ち上がり空を駆け上がる。
二十回ほどチャレンジして、そのうち二回――落下地点が悪く、岩場に直接頭をぶつけて死んでしまった。
《パラメータ》の器用がかなり236と上がったお蔭もあったのか、二回目に死んで復活してからのチャレンジで、一発成功し、崖上まで一気に駆け上がることができた。
「ふぅ……器用さってのは、思った以上に重要な《パラメータ》だったんだな」
しかし明らかに自分が強くなっているのが分かる。何せ三回も死んだのだ。力も跳ね上がっている。
「よし! モタモタしてられない! 早くコニムたちを探さないと!」
崖上すぐにはコニムはいなかった。
モンスターに襲われた様子もないことが少し安心できた……が、まだ不安はある。ならば彼女はどこへ行ったのかということ。
「コニムゥゥゥッ! どこだぁぁぁっ!」
呼んでみるが返答はない。
(近くにいない……? ならどこに……! ま、まさか!?)
写楽はノージュが戦っているであろう方角に顔を向ける。考えたくはないが、もし、彼女が敗れビビルアたちが勝ったのだとしたら、コニムを見つけることも容易いだろう。
「……確認に行ってみるか」
急いで戦いの現場へ向かうことに。
しかし近づくにつれ不思議に感じていた。それは戦いの音というものが聞こえてこないのだ。剣戟や魔術の応酬。それらは確実に周囲に影響を及ぼす。それは音になり、聞こえてくるはず。
それなのに、まるでこの先には誰もいないかのように静けさが前方から感じられる。
そして―――。
「そ、そんな……っ!?」
辿り着くと唖然とする光景が広がっていた。
大地に横たわるは、写楽とノージュが倒した魔人たち。……それだけ。
どこにもノージュやビビルアたちの姿がなかった。
「戦闘場所を変えた? いや、そんなはずはないだろう」
何故なら耳を澄ませても、やはり何も聞こえないからだ。つまり戦闘はもう終了したということ。
コニムが崖上から消え、ここでは戦闘も終了している。ノージュがコニムを連れて逃げ出したという可能性も確かに存在するが……。
「攫われた……のか?」
その可能性の方が高いと思ってしまっていた。その理由として、地面にノージュの槍が落ちているからだ。彼女が唯一の武器を捨てて逃げるとは思えない。
となると、やはり可能性として最も高いのは……。
「くそ……どうする? どうしたらいい?」
追いかけたいが、残念ながらどこに行ったのかが分からない。誰かに聞こうにも、ここにいるのは死んだ魔人だけ。
もう関係ないと割り切って旅をし続けることはできる。だが……。
脳裏に浮かぶのは彼女たちの顔。
(……コニムはオレを助けるために、ここまで来た。そしてノージュは、オレを信じてコニムを託してくれた)
それなのに、彼女たちの信頼を裏切ってしまった。
(このままなかったことになんかしてもいいのか? それで旅をしてて胸を張れる生を生きられるのか?)
……絶対に無理だ。彼女たちの助けになってあげたいと思った。だからこそ、囮になってまで、彼女たちを逃がそうとしたのだ。
(ここで逃げるわけにはいかない……よな)
怖い。本当は物凄く怖い。ウェンガのあの技だって、信じられないくらい痛くて、二度と受けたくないものだ。ビビルアの威圧感なんて、まともに受けたら精神がどうにかなりそうだ。
今でも思い出すと恐怖で身体震える。
あのノージュが負けるほどの相手。恐怖が押し寄せてくるのは当然。
「…………けど、守ってやりたいって思ったんだ」
だから――。
「オレにできることはしてやる!」
自然と震えは止まっていた。
(じいちゃんが言ってた。ゴールを決める。そしてブレることなく、そこへ突っ走れば、いつかは辿り着ける!)
ゴールは二人の救出。そこに向かって突っ走るだけだ。
しかし目的を定めたのはいいが、問題はコニムたちがどこに連れて行かれたのかということだ。
「……何か情報がないか? 何でもいい……ん?」
視界に飛び込んできた魔人の死体。
「……とりあえず、オレが倒した三人を“転換転生”しておくか」
死に顔を見分けていくのは良い気分のするものではないが、この際我慢するしかない。
「……いた。コイツだ」
まず一人目。スカイフロッグの時と同じように、近づいて“転換転生”を行使する。
すると驚くことに、魔人を吸収した瞬間――何か記憶のようなものまで流れ込んできた。流れ込んできたのは一部だったが……。
「……【アデスの森】……?」
思わず写楽は頬を緩める。
「……なるほど、人に対してやったのは初めてだったけど、人だったら少し記憶――知識もものにすることができるのか」
これは好都合だった。
「この力が便利で本当に良かった。これでオレは、ゴールに一歩近づけた!」
記憶にある森の方角を睨みつけながら写楽は宣言する。
(待ってろよ、二人とも。必ず助けに行くからな!)
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