俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
3 / 258

しおりを挟む
(とりあえずいろいろ整理しよう)

 周りから集められる情報で、まず間違いなくここが現代日本であることは理解できた。
 どこにもファンタジーの要素はないし、何で六歳児なのかということ以外は特に問題はないだろう。

 確かに最後の神の言葉から、生き抜くのに大変なファンタジーな世界に転生するものだと勝手に思い込んだ。
 しかしそれも杞憂だったようで、現代日本ならばそうそう危険な目には遭わないだろうからホッともしている。

(まあ、異世界にも憧れてたけど、こればっかりはワガママいってもなぁ)

 それに物語のように死の危険が多分にある世界だと、当然生存率も落ちる。考えてみれば現代日本で人生をやり直せるのだから十分以上に幸運かもしれない。
 それに……と、自分の身体を軽やかに動かしていく。しかも飛び跳ねたりなんかしても息が切れない。

「おぉ、マジで丈夫そうな身体だな!」

 転生特典の一つ目が、しっかり反映されているであろうことを実感し嬉しくなる。
 これならスポーツマンを目指すこともできるだろう。いや、前世ではできなかったが、やってみたいと思っていた山登りができるかもしれない。

 自分は山という存在が好きだ。あの堂々として大きな存在感に勇気をもらえる。いつか日本の代名詞ともいえる富士山を登頂したいと思っていたが、いかんせん虚弱体質の自分には過ぎた願いだったのだ。 

 だがこれからはしっかり準備を整えれば挑戦することができるかもしれない。それが本当に嬉しかった。もうワクワクが止まらない。

(あ、そういや今の名前は……)

 不意に今世の自分の名前が気になった。するとこれまでの五年間の記憶が朧気ながらも脳裏に浮かび上がってきた。

「……って、名前一緒なのね」

 どうやら今世の名前も前世と同じ札月沖長らしい。まあ慣れ親しんだ名前なので良しとする。
 だが父と母は前世とは別みたいだ。そう思っていると、「入るわよ~」と間延びした声音とともに扉が開かれた。

 そこから現れた人物こそ、今世の自分の母である札月葵。ほんわかした優しい雰囲気を纏いスタイル抜群の女性だ。思わずドキッとしてしまうほどに。

(お、落ち着け、自分の母親なんだから!)

 そう言い聞かせ、慈愛の溢れる笑みを浮かべながら近づいてくる葵を見つめ続ける。

「どうしたのぉ、そんなに見つめてきてぇ。あ、もしかして抱っこしてほしいのかなぁ?」

 こちらの許可を無視し、軽々と抱き上げてくる。
 確かな温もりと女性特有の柔らかさに良い香り。しかしどこか懐かしく心が穏やかになっていく自分がいる。

「もううぐパパも帰ってくるからねぇ……あ、噂をすれば」

 玄関がある方角から扉が開き、そこから「ただいまー」という男性の声が聞こえてきた。
 そしてそのままこちらにその人物が歩いてくる。

「お、二人ともここにいたんだな、ただいま」
「おかえりなさぁい、あなた」

 思わず誰だこのイケメンとツッコミを入れそうになった。いや、自分の親父なのだが。
 しかしそれほどに逞しい身体つきをしたアスリート系のイケメンだった。記憶によると水泳の世界選手権で名を残すほどの人物らしい。今は水泳選手を引退しスイミングスクールを経営しているようだ。

 父――悠二と葵は互いに近づくと軽く口づけをかわす。どうやらラブラブのようで何よりだ。
 そのあとに今度は悠二に抱かれながらリビングへと向かう。

(このガチムチ感、抜群の安心感を覚えるなぁ)

 自分もこんなふうにガッシリとした体格になれると嬉しいなんて思っていると、テレビの前にあるソファで降ろされ、そのまま隣に座った悠二と一緒にテレビを観ることになった。だがそこで前世との違いに気づく。

(あーやっぱ知ってる芸能人はいないか)

 悠二がチャンネルを変える度に現れる人物たち。その誰一人として知らなかった。
 どうやらここは現代日本ではあるが、前世とはまた違うパラレルワールドであることを知る。

(これじゃあ、俺が知ってる競馬とかで大儲けはできないね、残念)

 そんなに詳しくはないが、それでも超有名な名馬がどの賞レースで一位を獲ったかくらいは記憶の片隅にあった。しかし世界そのものが違っている以上は、その記憶は役には立たないだろう。

(けど俺が知ってるアニメとか漫画もないのかなぁ。だったら凹むわぁ)

 日本と言えばアニメと漫画。そう世界に誇れるくらいに盛んだったし、沖長もまた大作と言われるものは目を通している。
 中には何度観ても感動を覚えるものもあるし、永遠に語り継がれて欲しい名作だってあった。それが失われたのならさすがにショックである。

(まあでも、この世界でも新しいものに出会えることに期待するか)

 そのあとすぐに悠二に連れられ、一緒に風呂に入ることになった。親父の持つ男の勲章を直面してしばらく呆気に取られた。
 何せ思わず「デカッ!?」と叫んでしまったほどにモノが巨大だったからだ。ちなみに自分のは当然ながらまだまだ可愛らしいモノだったことは言うまでもないだろう。

 ただ風呂場にあった鏡で初めて自分の姿を確認して、外見は前世とは全く違うことに気づく。前はイケメンでもブサイクでもないどこにでもいるような顔立ちだったが、今は美女と美男のDNAを受け継いでいるお蔭か、それなりに整っていた。

 それでもどちらかというと母親似であり、垂れ目で瞳が大きく愛らしさが強い。沖長としては釣り目で男らしいルックスの持ち主である父に似たかったが。
 そうして風呂から出た後は、葵が作った料理を食べることに。

 葵は料理が得意で、ご飯でさえ土鍋で炊くほどのこだわりよう。あまりの美味さに一心不乱に食べまくってしまった。
 食事の後は、また悠二と一緒にテレビを観ながらの談笑。そして午後九時になると、さすがに六歳児らしく眠気が襲ってきたので自室へと戻っていった。

 ベッドの上で横になりながら少しの間だけ思考に耽る。

(……いい家族だなぁ)

 別に前世の家族が悪かったわけではない。どこにでもいるような一般家庭だった。ただ自分が三十台に入った頃に両親が事故で他界してしまった。
 これから稼いで親に恩返しという矢先にいなくなったことで胸にポッカリと穴が開いたのは覚えている。

 だからか、でき得ることなら次生まれ変わったらキッチリ恩返しできればいいと思っていたのだ。
 それもこんなに早く機会が巡ってくるとは思わなかったが。

(今度は無事に長生きしてもらいたいな)

 それを心から願う。そして育ててもらった恩返しを、前世の家族の分まで今世の家族にしていきたい。
 幸いにも健康的で丈夫な身体を望んだから、怖い病気とかで両親より先に死んだり悲しませたりはしないだろう。

(あーそういやまだアレの確認もしてなかったな……でも……今日はまあ……いいや)

 さらに強い眠気が襲ってきたため、自然と瞼が降りて意識が闇に沈んでいった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

処理中です...