俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
86 / 258

85

しおりを挟む
 このえの言葉を受け、絶賛頭の中はプチパニック状態の沖長。それもそのはずだ。
 千疋が呪いを受けたと聞いてから、少なくともそれは十三年以上前に彼女をその身に受けたことを示していたからだ。

 加えて修一郎からも、十鞍千疋という存在が十三年前も勇者として活躍していたという話も聞いている。
 しかし千疋の見た目は自分と変わらないような見た目をしていることもあり、年を取らないような何かしらの影響をその身に受けていると考えた。そして呪いを受けたのが千疋だと聞き、それが不老に関することではとも考察したのだ。

 その喋り方もそうだが、纏う老獪な雰囲気などにも納得がいく。
 だがこのえは、千疋は十五年しか生きられないと口にした。これは一体どういうことなのか。それが真実とすれば、いつ呪いを受けたというのか。いや、そもそもの話、このえは千疋のことを幼馴染とまで言っていたはず。

 だからこそ様々な情報が矛盾を呼んで思考が纏まらない。そんなこちらの動揺を察してなのか、千疋自身が解明してくれることになる。

「そう難しく考えんでもええよ。ここにいるワシは間違いなく十鞍千疋じゃし、お主が聞いたであろう十三年に活躍した勇者である十鞍千疋とは別人のようなものじゃ」
「!? ……別人。ちょっと待ってくれ、なら呪いを受けたってのは? ダンジョンはつい最近……十三年ぶりに出現したって聞いた。俺たちが経験したあのダンジョンがそうなんじゃないのか?」

 実はそれは違っており、以前にもダンジョンが出現し、それが〝カースダンジョン〟であり、その呪いをここにいる十鞍千疋が受けたというならまだ理解できた。
 しかしそれを否定するかのように千疋は、沖長の言葉に同意する。

「その通り。お主が足を不意入れたダンジョン。恐らくあれが此度のダンジョンブレイクの始まりじゃのう」

 それはつまり、彼女はそれ以前にはダンジョンに入っていないということだ。いや、その前にあることを確かめておこう。

「……十鞍千疋、君は一体今何歳なんだ?」
「おやおや、女性に年齢を聞くなどマナーがなってないのう」
「こちとらお茶目で聞いてるわけじゃない」

 沖長の真剣な眼差しを見て、「そう怖い目をするでない、冗談じゃ」と軽口を叩くと、千疋が静かに唇を開く。

「十歳じゃよ。さっきもこやつが言うたであろう。ワシは幼い頃から、こやつとともに育ってきたと」

 このえが口にしたことに偽りはないと言う。

「おっと、追加で言うとくが、ワシ自身もこの間のダンジョンが初めての経験じゃぞ。一応のう」

 飄々とした佇まいではあるが、こちらを騙そうとしているようには見えない。このえも一切動揺していないし、それが真実なのかもしれない。

(十歳……つまり俺と同い年。そんでダンジョンに入ったのも先日が初めて? おいおい、訳が分からんぞ)

 彼女たちが言うことが正しいなら、呪いというのは〝カースダンジョン〟にしか存在しない。そして沖長たちが経験したダンジョンは普通だったはず。そもそもコアを掌握したのはナクルであり、呪いを受けるのなら彼女になるのだ。
 だからこそ矛盾が生じる。〝カースダンジョン〟に入ったことがない千疋が、何故呪いを受けることになったのか。

「……十鞍が受けた呪いってのは、間違いなく〝カースダンジョン〟で受けた呪いなのか?」
「うむ、間違いないのう」
「……それも十鞍自身が受けた?」

 こちらの確認に対し、二人ともが同時に頷く。

「どういうことだ? 〝カースダンジョン〟の呪いは、ダンジョンに入らなくても受けてしまうものなのか?」
「いーや、ワシの呪いは、間違いなく〝カースダンジョン〟の主を討伐したことによって、そのコアの浸食で受けた呪いじゃよ」

 益々分からない。難しく考えるなと千疋は言ったが、こんなもの困難過ぎて解明の糸口すら掴めないではないか。
 するとこちらの困惑する様子が楽しいのか、千疋はクスクスと笑うので思わず睨みつけてしまう。

「……千、あまり人をからかうのは……どうかと思うわ。彼には……協力を頼みたいのだから」
「おっと、そうじゃったそうじゃった。沖長よ、すまんのう」

 謝罪を受けて、沖長も怒気を少し収める。

「ちゃんと説明してくれ。協力するか否かはそれで決めたい」

 直感でしかないが、彼女たちは悪い連中ではないように思える。だから困っているなら力になるのは吝かではないが、ただ一方的に利用されるのは嫌だし、何も知らずに手を貸すのも勘弁だ。

 だからこそ彼女たちからできる限り情報を絞り出したい。それもきっと将来、ナクルのためになるだろうから。
 仮にそれでこちらを騙そうとしているなら、あとで長門と情報をすり合わして確認すればいい。そしてそれ相応に対処するだけだ。

「お主の疑問を解決するには、たった一つに真実を説明すればいいだけなんじゃよ」
「たった一つの真実? それは?」

 もったいぶったように間を取った千疋が、苦笑を浮かべつつその言葉を口にする。

「ワシには『継ぎ憶』という特別な力が備わっておる」
「つぎ……おく?」
「『継ぎ憶』……それは親の記憶を子に継がせる……力よ」

 その説明をしたのは、このえだった。当然まだハッキリと理解できていない沖長の様子を察し、そのまま彼女は続ける。

「つまり……親が死ぬ時に、そのすべての記憶が子へと注がれる」

 そこでハッとする。記憶とは経験とも言い換えられる。
 親が人生で経験したものすべてが、知識として子へと受け継がれるということは、それはどこか転生者――自分にも似た作用に思えた。
 沖長もまた、転生前の記憶を所持して生まれ変わったのである。

(なるほど。そう考えれば、十鞍千疋が醸し出す子供らしくない雰囲気やその喋り方は……)

 その受け継がれた知識によって表面化したものなのだ。

「まず言っておくがのう、この十鞍千疋という名もワシの本名ではない。初代勇者として活躍した十鞍千疋の名を引き継いでいるに過ぎないのじゃよ」
「……! つまり十三年前にも活躍した勇者というのは……君の親で、その知識を受け継いで生まれたのが、今代の十鞍千疋である君ってことか?」
「うむ、物分かりが良くて助かるわい」

 何ともまあ、想像以上の真実が飛び込んできたものだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...