俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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「こらこら、君たちだけで話を進めない」

 ナクルと蔦絵を嗜めつつ、修一郎はどこか微笑まし気な様子だった。勝手に決めていいことではないものの、ナクルが素直に自分の気持ちを口にしてくれたことが嬉しいのかもしれない。何せ原作では家族に相談することも、自分の気持ちを打ち明けることもせず、一人で突っ走ることが多かったから。

 それは間違いなく沖長との出会いで変化したもっとも大きな改変といえるだろう。それが今後、どのような結果をもたらすのかは分からないが、今のナクルの方が人間的にも魅力が溢れているように思えるので良しとした。
 修一郎の言葉に二人が謝罪したあとに、続けて彼が織乃に問う。

「織乃……いや、【異界対策局】にとってナクルたちが必要ということは分かった」
「! では修一郎さん!」

 その瞳には明らか期待が込められていた……が、次に言い放たれた修一郎の言葉に表情を凍り付かせる。

「しかしそちらにナクルたちを預けることはできない」

 一瞬彼の言ったことが理解できていないかのように固まる織乃だが、それに対し一早く「ど、どうしてですか!?」と声を上げたのは、それまで口を閉ざしていた大淀あるみだった。

「……大淀くん」
「あ、も、申し訳ありません!」

 つい声を荒らげたことを上司である織乃に気づかされ、即座に頭を下げたあるみ。
 そして織乃は冷静さを保ちつつ、修一郎に対し「ご説明をして頂けますか?」と尋ねた。

「理由は幾つかあるが、やはりまだ子供であるこの子たちを、そちらの組織に預けることには不安しかないこと。何せいまだに実体が掴めていないしな」
「そ、それは先ほども申し上げた通り……」
「総理大臣が主軸となった組織、だろ? それは理解している。けれどだからこそ、だ」
「……?」
「あの人が、どれだけダンジョンに執着しているか知っているからこそ、大事な子供たちを預けるわけにはいかないんだよ」
「あの人が望むのは日本国の平和です。それは昔から変わっていません。それは修一郎さんやユキナさんにも分かってるはずです」
「あくまでもそれはお前の見解だろ?」
「そ、それは……そうですが」
「あれから十年以上が経ち、彼は国のトップとして腕を振るってきた。それまで彼と言葉を交わすことも俺たちにはなかった。十年も経てば、人だってどうなるか分からない」
「! それは……あの人が修一郎さんたちにとって害を成す存在になっているということですか?」
「それは分からない。だが分からないこそ、そんな曖昧な判断のもとナクルたちを託したくはないということさ。なまじダンジョンについて知っているゆえにね」
「っ……けれど修一郎さんたちは、彼女たちにダンジョンに挑むことを許可しているんですよね?」

 その言外には、危ないならそのようなことすら禁じるべきではないかと言っているのだろう。しかし実際にはそうしていない。つまりフリーで挑むか、組織の指示に従って挑むかの違いだということだ。

「確かに許可せざるを得ない状況にはなっている。現状、ダンジョンに対処できるのは、この子たちだけだからね。ただ、その際に報告や連絡、そして相談をすることは厳命しているよ」

 修一郎の不安はもっともだ。
 フリーなら比較的自由に沖長たちは動ける。報告なども沖長たちの判断で行うことが可能だろう。しかしこれが組織に入ったらどうだろうか。

 組織には組織のルールというものが確実に存在し、それを遵守することを求められる。
 その中には機密事項などを扱うこともあるだろうし、家族とはいえ話せないことも増えていくはず。それを修一郎は危ぶんでいるのだろう。

 まだ幼く思慮の浅い子供であるからこそ、まだ手元に置いて自分たちの経験のもと成長させていきたいのだ。ここで余計な横やりが入ることで、子供たちの成長の妨げ、あるいは歪んだ成長をしてしまうことを危惧しているのだ。
 これが自身で責任を負うことのできる大人なら話は別だ。個人の考えで行動させることだって許容できるだろう。しかし現状はそうではない。

「で、ではダンジョンに挑む際に、必ず家族には連絡をするという条件ならばいかがでしょうか?」

 それは子供を預かる組織としては常識的な提案だろう。しかし修一郎は首を左右に振り、織乃とあるみを困惑させる。

「っ……手を貸してはくださらないのですか?」

 納得できないような、僅かに失望さえ滲ませた声音が織乃から飛ぶ。その返答をしたのは修一郎ではなくユキナだった。

「その不貞腐れた表情は懐かしいですね、織乃さん」
「ユキナ……さん」
「あなたがまだナクルくらいの頃から変わることのない癖です」
「……私が成長していないと聞こえますが?」
「ふふ、そうではありません。あなたが私たちの知っているあなたでホッとしているということです。ただ……それでも私たちの気持ちも理解してほしいのです。何もあなたのことを蔑ろにしたいわけではありません。わたしたちの与り知らぬところで、この子たちが傷つき倒れるところを見たくはない。そう……あの時のように」
「で、ですから必ず報告を行うと……」
「別に手を貸さないといっているわけではありませんよ」
「……え?」
「組織に入らずとも、今のままともにダンジョン攻略に臨むことだって可能ですよね?」
「それは……しかし組織に入れば、全面的にバックアップも受けられますし、仕事ということで報酬だって発生します。フリーで活動するよりは比較的安全度は増すはずです」

 どうもこのままでは平行線のようだ。 
 ただナクルは話の内容をすべて理解できていないようで小首を傾げているが。

 確かに組織のバックアップを受けられるのは大きいだろう。ダンジョンが発生すれば、その都度その場所に向かう足にもなってくれるだろうし、怪我を負ってもすぐに対応してくれるはずだし、様々な情報だって得られる利点がある。

 しかしながら修一郎の言うように組織に入ることで、ルールに縛られることも間違いない。それに周りは大人ばかりということもあって、子供である自分たちにどんなしがらみが発生するかも定かではない。中には気に食わないと足を引っ張る輩も出てくる可能性だってある。

 どんな組織だって、大きくなればなるほど歪みは生じるし、その影響を子供が受けるのはキツイものがあるだろう。沖長は一応そういう社会で揉まれた経験もあるから耐えられるかもしれないが、初体験のナクルにとっては心を砕くことに繋がりかねない。

 実際、原作でも悪い大人に騙されて利用されるシーンだってある。その度にナクルは傷つき、それでも平和のためと我慢して我慢して、ひたすら日々を過ごしていく。
 そんな一つの未来を知っている立場からして、やはりまだナクルには社会組織に入るのは時期尚早のような気がするのだ。そしてそれは修一郎たちもまた思っていること。
 何を言っても許可をもらえないことを悟ったのか、悔し気な表情を浮かべたまま「分かりました」と織乃はその場から立ち上がり一礼をする。

「この度はご多忙の中、我々のために時間を割いて頂き感謝申し上げます。今回は弊社が求める形にならなかったのは残念ですが、またいずれ声をお掛け致したいと存じ上げます。その時はどうぞ快い返事を期待しております」

 そう淡々と言い放ち、その場から去って行く。慌ててあるみがこちらに向かって頭を下げてから「待ってくださぁ~い!」と彼女を追いかけて行った。
 修一郎とユキナたち親組は見送るために後を追っていき、その場には沖長、ナクル、蔦絵が残った。

(どうやら向こうはまだ諦めてないようだなぁ)

 今後、どのようなアプローチを仕掛けてくるか、気を引き締めないといけないと思う沖長だった。
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