俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 季節は夏真っ盛りの八月初旬。初旬とはいっても、すでに日付は八日で中旬の入口近くまで来ていた。
 もうすぐお盆ということで、その期間、日ノ部家は決まって家族全員で籠屋宗家の自宅へと墓参りも兼ねて数日宿泊する予定となっている。

 さすがに身内だけのイベントということで、いつも何かにつけて世話になっている沖長も、そのイベントだけは遠慮させて頂いていた。
 だから今年も例年通り、その日は自宅で引きこもり生活を送るのが自然の流れだったが、

「え? 今年は一緒に来てくれるんスか、オキくん?」

 ナクルが驚き眼で聞き返してきた。
 毎年必ずナクルから誘いはあるものの、いつも断っているのであまり期待はしていなかった様子。だけど今年は一緒に行かせてもらうという話をしたからビックリしているのだ。

「ああ、修一郎さんには話を通してある。今年はお邪魔させてもらおうかなって」
「や、やったッス! じゃあ今年はず~っと一緒ッスね!」

 いつもこの時期は離れ離れになるので寂しい思いをしていたのだろう。とはいってもほんの数日間ではあるが、ナクルにとっては双子のように育ってきた沖長と一日でも顔を合わせない日があれば、それはもう違和感でしかないらしい。

「はは、そうだな。向こうのことはあんまり知らないからいろいろ案内してくれよな」
「任せてほしいッス! うわぁ、すっごい楽しみになってきたッスよ~。あ、じゃあ葵ママさんたちも来るッスか?」
「いんや、母さんたちは来ないぞ」

 毎年札月家も先祖の墓参りに行くが、ナクルの家と違い遠出というわけでもないし、数時間程度で終わることなので、籠屋の家へ行く前に軽く行うことが決定していた。そしてせっかくだからと、墓参りの後、夫婦水入らずで旅行でもしたらという沖長の案を快く受け入れたのである。

「でも何で今年は来てくれることになったんスか?」
「あー……俺も一応日ノ部流の門下生だし、一度くらいは挨拶しておくべきかなってな」

 実際は違う。いや、挨拶もしておきたいという気持ちは嘘ではないが、それよりも重要なのは、原作第二期が始まるきっかけになるのが、お盆の時期であり、ナクルが籠屋の宗家に居る時だからだ。
 もし沖長が行かなければ、原作はそのまま流れに沿って進むだろうし、いろいろイレギュラーなことが起こっていることから、ナクルの身に予想もしない危機が迫る可能性を考慮して、彼女の傍にいようと考えたからである。

「なるほどッス。それじゃオキくん、ボクの秘密基地に案内するッスよ!」
「秘密基地?」
「はいッス! とはいってもとっておきの場所なだけで、基地感はないッスけどね」
「じゃ何で秘密基地なんだよ」
「そう言った方が何かカッコよくないッスか!」

 時折思うのだが、ナクルは天然が過ぎる。いや、純粋というか単純というか。もっともそれが彼女の魅力の一つなのも確かなので、こちらとしては微笑ましい限りだが。

「分かった。楽しみにしてるよ」

 するとスマホが震え、確認すると、そこには千疋からメッセージが入っていた。どうやら時間が空いたら、千疋が身を寄せている壬生島の家に顔を出してほしいとのこと。何やら壬生島このえが話したいことがあるらしい。
 十中八九、原作についてだと思うが、その要望を承諾するメッセージを送った。

 ちなみに現在はナクルの自室で、一緒に宿題をやっていたところだ。
 毎年のことながら、何で小学生というのは宿題は山のように課せられるのか。沖長にとって二度目の小学生であり、問題が簡単過ぎるということもあり、最早流れ作業と化していてつまらない時間でしかない。

 隣でう~んう~んと唸りながら宿題をやっているナクルを見ていた方がずっと面白い。

「ねね、オキくん。ここの計算ってこれで合ってるッスか?」

 算数のドリルをこちらに見せてきた。

「合ってるけど、三問目と六問目の答えは違うぞ」
「ふぇ!? マ、マジッスか……うぅ、またやり直しッス……」

 ナクルは国語や歴史など、読解力と暗記力は問題ないが、どうも計算は苦手のようだ。これから中学に入っていき、数学についていけるか不安である。

「うぅ……分数とか小数とか苦手ッスよぉ。単純に足し算とか引き算ができればいいじゃないッスかぁ」
「はは、気持ちは分かるけどな」

 そう思うのは何もナクルだけではないし、一度社会人を経験している沖長としては頷けるものも多い。
 実際分数や少数を使うことはあまりない。目にはすることくらいあるが、それが仕事に直結しているかと言われればそうではなかった。

 単純な整数での四則演算さえできれば、日常生活を送っていくのに不便を感じることはそうないだろう。

「でもほら、将来ナクルが分数とか少数を扱う職業に就くことだってあるかもだろ?」
「えぇ、絶対にないッスよぉ」
「分からないぞ。学校の先生になりたいって思うかもしれないし、事務作業をする仕事だって分数ができれば効率だって良い。まあ今ではパソコン作業が当たり前だし、そう言う計算はパソコンがしてくれるかもしれないけど」
「オキくんは物知りッスよね。けど安心してほしいッス。ボクは算数を使わない将来を歩むつもりッスから!」
「そんな堂々と宣言してもカッコよくないぞ、ナクル」
「そ、それに……いざとなったら……その、お、お嫁さんとかっていう選択肢もあるし……」
「ああ、いわゆる永久就職ってやつか? けど今の時代って、共働き世代だしなぁ」
「むぅ、じゃあオキくんはお嫁さんにも働いてほしいって言うんスか?」
「別にそういうわけじゃないって。俺だったら奥さんには好きなことをしててほしいからなぁ」

 もちろん働いてもいいし、専業主婦で家を守ってくれててもいい。その人がやりたいと思っていることを尊重してあげたいからだ。

「じゃ、じゃあその……もし、仮にッスよ? 仮にボクがオキくんとけ……結婚したとしたら」
「ナクルと結婚? イメージが湧かないんだけど……」
「んなっ!? むむむぅ……と、とにかくもしもの話っス!」
「わ、分かったってば。だからそんな大声を出すなよ」

 何故そんなにも熱くなるのか。例えばの話でも、女子にとっては結婚関係の話はデリケートということだろうか?

「ほら、想像してッス! ボクとオキくんが結婚したら、ボクにどうしてほしいッスか!」
「う~ん…………好きにしたらいいんじゃね?」
「適当ッスよ!?」
「いやだってなぁ、俺たちまだ子供だぜ? そんな先の話されてもなぁ」

 一度結婚していたならイメージも湧くだろうが、あいにく前世でも独り身だったし、女性と同棲した経験もないので考えるのも難しい。

「もう! もうもうもう! オキくんはやっぱりオキくんっスよ!」
「……わけ分かんないんですけど」
「もういいッス! ほら、さっさと宿題終わらせて遊ぶッスよ!」
「……俺もう終わったんだけど」
「そういうとこッスよ、オキくんはっ!」

 どういうところなんだよ、と心の中でツッコミつつも、何故か涙目のナクルが手伝ってと言ってきたので、一緒にナクルの宿題をすることになったのであった。


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