除霊と妖狐

陽真

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プロローグ/姉はブラコン

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俺、九条怜の家、つまり、九条家は旧家の歴史ある家柄だけど、それだけでは生活していけない。
九条家の財産のほとんどが曽祖父の九条治一郎の遺産。
しかし、どれだけ遺産が多くともいつかはなくなる。

そこで、わが家の財政を支えているのは父の九条來の仕事と九条家の裏稼業だ。
父さんは俳優をしている。
それなりに売れている、と父さんは言っていた。
けど、あまりそういうことに興味がないから分からない。
そして、九条家の裏稼業というのは《除霊》を行う仕事だ。
除霊は簡単に言えば死んだ人の霊や妖、俗に言う幽霊や妖怪、を祓う事、今は兄の九条優が主に担っていいる。
当家の裏稼業の当主が兄さんで表の当主が父さんだ。

「起きてくださいませ。怜さま」
「うんっ、もう朝なの?」
九条家の家政婦で父さんの式神である巴菜はなが朝を知らせる。
式神というのは主を助け、善と悪を見分ける能力を持った者で元人間が霊となり、相応しき主に仕える者のことだ。
巴菜は父さんが裏稼業の当主をしていた頃に従えた式神で、詳しくは教えてくれない。
俺が生まれた頃にはもうすでに巴菜はなはいた。
兄さんもいつからいるのか知らないのだそうだ。

「はい、朝でございます。リビングに朝ご飯出来ていますよ」
「分かった、今からいく」
寝ぼけた頭を抱えながら身支度をしてリビングに向かうと、父さんと母さんの九条想佳がすでに座っていた。
「母さん、父さん、おはよう。あれ、兄さんたちは?」
「優と颯はまだ寝ているのよ。ね、巴菜はな
「はい、優さまは先日の除霊でお疲れになったのでしょう。颯さまは相変わらず朝が弱いようで」
俺が聞くと母さんと巴菜はなが教えてくれた。

勿論、この九条家が代々、裏で除霊を行う家系だと母さんは知っている。
母さんの旧姓は江成想佳。
江成家も表では大手グループであり、ホテルや航空業、サービス業といった色んな事業を展開する、江成グループを経営する名家。
でも、裏では九条家などの除霊を行う、除霊家から、除霊された霊を転生輪廻の輪の中に送るのを、また、この世の果てに送るのを見守る家系である。総称は巫女家で、母さんは現当主の娘だ。
そのため、母さんも江成家の裏稼業を今も行なっている。
そして、姉さんの九条颯もまた、江成家の裏稼業を手伝っている。

「はぁぁ~。おはよぉ。あれぇ、怜、起きてるじゃん」
暫く、食事をしていると眠たそうな姉さんがリビングに入って来た。
「颯、おはよう」
「おはよう、父さん、母さん。怜~、相変わらず可愛い!」
母さんが姉さんに言うと、姉さんは返しながら、俺の方に近づいて来て俺をギュッと抱きしめて頬を俺の頬にスリスリし始めた。
「ね、姉さん、痛い」
「あ、ごめん。あまりの可愛さに」
聞いての通り姉さんはブラコンだ。
大体、起きてくると俺にスリスリし始める。
だから、いつも戦々恐々としている、いかに逃げるか。
今日は、兄さんがいないから半分以上ましだ。兄さんの方が極度のブラコンだ
から。

「颯、早く食べないと学校遅れるわよ」
「そうだぞ、いくら怜が可愛くたって別れの時は来るんだ、父さんだって出来ることなら怜と離れたくないんだぞ」
「あら、貴方?いい加減になさって」
父さんの親バカに対して母さんが丁寧な言葉で圧をかけると、父さんは身震いしていた。

「さ、怜。颯は時間が掛かりそうだから先に行きなさい」
「分かった」
母さんはいつもの優しい顔に戻り言った。
姉さんはやっとご飯を食べ始めたが、まだ眠いのかウトウトしながら食べている。
「じゃあ、行ってきま」
「怜、ストップ。まだ、完璧じゃないわ」
行こうとするとものすごい勢いで立ち上がり俺の髪をいじくり回すと、大きなメガネを掛けてきた。

「ね、姉さん。これ着ける必要ある?」
「あるに決まってるでしょ。そんな可愛い顔晒して見てよ、もう、私、泣くよ」
「え、え?あ、いや、分かった。じゃあ行って来ます」
姉さんの説明を聞いても無駄だと判断した俺は諦めて、家を出た。
今の俺は、長い前髪が顔の上半分を隠して不釣り合いな大きなメガネを掛けた、the根暗って感じの格好だ。
中学生の頃からずっとこの髪型を姉さんによって作られていた。

「おっはよう。怜くん」
「え、あ、朽木さん。おはようございます。父さんなら家の中にいますよ」
家を出てすぐの道で父さんのマネージャーで九条家の秘密を知っている杤木雅樹がいた。
杤木さんはハイスペックでイケメンなのに、九条家が住む結市に伝わる御伽話に出てくる御稲荷さんをこよなく愛す、ちょっと不思議な人。
御稲荷さんは九条家の裏稼業の通り名的な所があるけど、それを知る人は数える程しかいない。
「お、ありがとう。学校頑張ってね」
「ありがとうございます」
杤木さんと軽く話すと歩くのを再開した。

暫く歩くと、学校の校舎が見えて来た。
「あ!デカメガネじゃん」
後ろからとても嫌な声がしだけど、振り返るのが面倒くさくて無視してしまった。
俺は姉さんに作られた髪によってデカメガネと呼ばれている。
けど、この髪型を崩すつもりはない、というか、崩せない。
姉さんが‥‥‥、おっと、思い出しただけでゾクゾクする。

「無視すんなよ。デカメガネ!」
「なに、柚木さん」
声を掛けて来たのは柚木愛羅。
俺のクラスのボス的女子でいつも周りに女子というか取り巻きを連れている。
教室の後ろの方で固まってあいつがうざいだとかキモいだとか大声で叫んでいる。
「はぁ⁉︎おい、デカメガネ、誰が私の名前呼んでいいなんて言った?お前みたいなやつに名前呼ばれて欲しかねぇんだよ」
そして、何より理不尽だ。
周りを見れば心配そうに見る人や気の毒な目で見る人ばかりで、本当、嫌になってくる。
誰も助ける気なんてないんだから。

「ごめん」
俺は何が悪いのか全く分かんないけど取り敢えず謝る。
柚木は自分より弱い立場をイジメるのが好きなのだ。
俺だって無駄な火種作りたくない、面倒くさいし、何より、俺がイジメられたりしたら兄さんたちが暴走しそうで怖い。
「ハッハッハ、バッカじゃないの。デカメガネが謝ったところで私たちに得あるわけ?」
俺の謝罪に柚木は大声で笑い、叫んだ。
「‥‥‥」
「チッ、ダンマリかよ。面白くな、愛莉、美愛、もう行こうぜ」
柚木たちは、飽きたように踵を返して校舎の方へ向かって行った。

「はぁ、やっと行った」
柚木たちが行ったのを確認した後、ついつい心の声が漏れてしまった。
今回の収穫は柚木の取り巻きの名前が愛莉と美愛という名前だったんだ、ってくらいだな。面白くもない収穫だ。
「大丈夫だった?」
「あ、うん。大丈夫‥‥‥って!姉さん!」
心配そうな声が後ろから聞こえ、振り返ると最強美少女と学校で言われる顔を、怒りに染めていた。

「‥‥‥許さない」
「え?」
「許さないわよ!私の可愛い怜をあんなに言って!叔父さんに頼んでみようかな」
「ストップ!叔父さんに何を頼む気?」
怒りを露わにしている姉さんにストップをかけると不思議そうな顔をした。
叔父さんというとは母さんのお兄さんで江成グループの代表取締役である江成奏志郎のことだ。
まぁ、色々と力があるわけで、叔父さんに頼み事次第では大事になりかねない。

「えっ?怜が学校で過ごしやすくなるように頼んでみようかなって」
あぁ、悪い予感しかしない。
「絶対にダメだから。叔父さんとの権力を舐めちゃダメだよ」
「‥‥‥‥そうだね」
不満そうな顔で呟くと、俺の背中を押しながら校舎の中に向かった。
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