能天気男子の受難

いとみ

文字の大きさ
24 / 73

21

しおりを挟む
「………これで書類は全部終わりました。エルーシ殿下、休日に呼び出すのは止めて下さい。」

エルーシ殿下の嫌がらせはいつもの事だが、休日にわざわざ呼び出す事は無かった。

ルシオンが部屋にいるだけなら、からかわれる程度ですんだはずだった。
ルシオンの、あの格好を見られたのがまずかった。
男のロマン、いわゆる彼シャツ。ダボッと着て下着を着けているのか、いないのか解らないギリギリの裾。
その微妙な長さから見える、白い太ももが想像を掻き立てる。

ルシオンの華奢な体型と、つり目でキツそうな顔なのに優しい性格が危ういバランスを絶妙に保っている彼だから似合いすぎていた。
はっきり言ってエロかった。

そんな格好をさせているという事は…深い仲だと言っているようなものだ。

いや、ルシオンの事だから、それしか服がないと言われればなんの疑いもなく着るだろうが…。

だからエルーシ殿下は邪魔をしたくなった。
いや、セレスの事だから監禁して離さないかもしれないと、思ったのもあった。

、休日に、悪かったね。」
楽しそうにエルーシ殿下は謝る。
しかし、そんな事はいつもだとセレスは流す。

「本当に、急ぎの用事でも止めて下さい。」
どれだけ早く、ルシオンの元に行きたいのか丸分かりだ。

「誰か居ても…いや、セックスの最中だとしても平気で私と話をしてた奴が、そこまで変わるとはね。」
ニヤニヤしながらエルーシ殿下は言う。

セレスは、もう話す事は無いと切り上げる。
「では、私は楽しい休日に戻りますので。」


セレスはエルーシ殿下の執務室を出て行った。

「うーん、もう邪魔する用事が無くなってしまった。」
エルーシ殿下は困ったようにため息をつく。

「殿下……悪ふざけはほどほどになさいませんと、本当に嫌われますよ。」
執事のノースが主に小言を言うのもいつもの事だった。

「だが、恋愛は障害があればあるほど、盛り上がるものだろ?ふふふふ。」

「仕返しされても知りませんよ。」

「今日は、ここまでにしとくか…。はぁ…。」
エルーシ殿下は心の底から深いため息をはいた。
本当に残念そうだ。





一方で、セレスは急いでいた。
早く部屋に戻ってルシオンで癒されたかったからだ。

それなのに、嫌な奴に捕まっていた。

「セレス様、今はどちらにいらっしゃったんですか?昨日からルシオンを探しているのですが、部屋にいないらしくて、セレス様なら居場所をご存知なんじゃないかと思いまして。」
ネフィルは、まるでセレスの部屋にルシオンが居ると知っているような感じで引き止めていた。

「ネフィル様、ルシオンを探しているのはどうしてです?」
セレスは笑顔だが怒っているようにも見える。

「いえ、たいした用事でもないですが、週明けに講義を個別でしたいと相談をしたくてね。」
ネフィルは妖艶な笑みを浮かべ、意味深な事を言ってくる。

「そうでしたか。ではルシオンに会ったら伝えておきますよ。」

この変態研究者、だいたいの美少年はこいつに食べられ毒されると言われるほど、手を出すのが早い。
飽きるのも早く、セレスがつまみ食いした子達の中に、ネフィルが手をつけた相手もいた。
もちろん、どの子も身体だけの関係なのでセレスも文句は無いが。
ネフィルがルシオンを狙っているとなると話は違う。
絶対にこいつに渡す訳にはいかない。

ネフィルはそんなセレスの心中が解っているようで、わざと寮にまで来て話しかけ探りを入れに来たのだ。

「ちゃんと伝えて下さいよ。」
ネフィルはセレスの肩に手を置いて釘を刺してくる。



「ふふふふふ…。」
ネフィルは、わざわざ寮に来た甲斐があった。
ルシオンの事も気に入っているが、セレスの事も気に入っていた。
優等生で悪い噂など無く、誰にでも平等で優しいセレスが執着している少年が、どういう子なのか興味が湧いていた。
いざ会ってみれば馬鹿がつくお人好しで、のんびりで能天気。しかも表情がコロコロ変わる面白い奴だった。

今まで会った貴族には居ない感じで、もて遊んだら長く楽しめそうなオモチャだと思った。

セレスのあの様子だと、ルシオンとはまだ最後までいっていないらしい。
益々、面白くなりそうだ。
ネフィルはニヤつきながら、今日のこれからの遊び相手を探した。





自分の部屋に近づいてくるとセレスは、嬉しくてニヤける顔を抑えられなかった。
やっとルシオンを堪能できると思うと、足取りも弾んでくる。
セレスは部屋の鍵を開けて入ると、静かだった。

ルシオンは奥の大きな3人掛けのソファで寝ているようだった。
その寝顔を見ていると、いつかの光景を思い出す。

たまたま、実家の侯爵家に戻った時に、ルシオンの部屋に行った時の事だ。剣術の訓練で疲れたようでルシオンはソファで眠っていた。
その時の寝顔が可愛くて、誘われるように唇にキスをしていた。
そして頭を撫でるとサラサラとした髪が、思ったより触り心地よかった。
そのまま滑らかな頬を撫で、首筋に手を持っていくとルシオンの肩と顎でその先を阻まれた。
起きたのかとびっくりしたが、まだ瞼は閉じたまま。
どうやらくすぐったかったようだ。
「ふふ…。」
その動作が凄く可愛くて、悶えていたのを覚えている。

その時と明らかに違うのは、ルシオンを誰にも見せたくない独占欲と、俺だけのものにしたい執着心が強くなった事だ。

ルシオンの寝顔を、近くでしばらく見ていると

「ん………んん………。ん?………セレス兄さん……………。」
目を開けたルシオンは、まだ寝ぼけているようだ。

「おはよ。」
セレスは笑顔で言ったのだが、ルシオンはびっくりした顔をした。

「セレス兄さん!俺、ドアノブ壊したかも。どうしよう…出られなくなっちゃったよー。」
ルシオンは飛び起き、焦ったようにセレスの腕を掴んでくる。
セレスは笑顔のままルシオンを宥める。

「ルシオン、大丈夫だよ。壊れてもいないから俺が入って来れたんだろ。」

まだ寝ぼけているのか理解が追い付かないようだ。

「え?あ、お帰りなさい。ん?でも何で開かなかったんだろ。」
さすがにそれは気になるようだ。

「鍵を掛けてたんだよ。大事なモノが盗まれたり(逃げたり)したら困るだろう?」
セレスが笑顔で当たり前のように言うため、ルシオンは軟禁されていたとは解らなようだ。

「?そう、なん、だ?」
ルシオンはまだ理解出来ないらしく腑に落ちないようだが、セレスが抱き締めると考えるのを放棄した。
「セレス兄さん、急にどうしたの?」

「疲れたから、癒し補給中。」
セレスはルシオンの首筋の匂いを嗅ぎながら、目をつむり堪能する。
帰ってきた………と、セレスは安堵した。



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...