能天気男子の受難

いとみ

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俺は、白い天井に白いカーテン、白い枕に白い布団、どこも真っ白な空間で目が覚めた。

ここ、は………、救護室だ。以前も使った事があるので覚えている。

あの時、意識は朦朧としていて、最後の方は覚えていない。
俺は、起き上がろうと身体を動かしたが、腰の鈍い痛みと、お尻の穴が焼けつくような痛みが走り、ベッドと仲良くしてるしかないらしい。
少し動いただけでも痛みを感じるため、寝返りを打つのもしんどい。

今は、この痛みの原因を考えたくない。
前世でも、保健室のベッドは真っ白だった。カーテンも天井も、布団もシーツも…似ている。
保健室の先生が優しくて、いつも怪我をした時とか行っていたな。男子生徒全員の憧れの女性だ。

「………くん。……オンくん。ルシオンくん。」

うわっ!
思い出に夢中になっていて、呼ばれていた事にも気付かなかった。
カーテンを少し開けて覗いていたのは、ここの救護室の先生のソフィー・ガブリエン卿だ。

ソフィー先生は珍しいピンク色の瞳だけを、カーテンの隙間から覗かせて、俺を見ていて、ちょっとビビった。

「起きているようね。熱を計るわよ。」

カーテンを開けて、横になっている俺の額に手をかざすと、体温が解るようだ。

前に来た時は俺は、具合が悪い訳でも、怪我をしていた訳でもないから会わなかったが、ソフィー先生は美女と間違えそうなくらい綺麗な…男性だ。
紫色の長い髪からはフローラル系の良い香りがする。

「熱はもう無いわね。しばらくは起き上がれないと思うけど…薬は飲める?」

こっちの世界でも救護の先生は優しい。美人だし、女じゃなくても、俺の鼻の下が伸びてデレそうだ。

「…………。……?」

ん?もう一度。

「…………。………。…。」

声が、出ない。
普通にしゃべろうとしても、喉の奥を震わせても、音が出て来ない。
どうなってるんだ?

「ルシオンくん。声が出ないの?」
「……。」

はい。と声を出したつもりが口を動かしただけになり、伝わったか解らないので、頭を縦に頷く。

「ショックな出来事からの自己防衛本能かしら。」

???事故…暴走、本の?聞きなれない言葉に、俺の頭の中はハテナだらけだ。

「自己、防衛、本能。つまり、強いストレスやショックから身を守る為の本能が働いたと、いう事ね。」

え?それって………思い出したくないけど、あの事だよな。
ソフィー先生、知ってるんだ。

沈んだ表情をしていたようで、ソフィー先生に頭を優しく撫でられる。
頭に触れる瞬間、無意識に少しびくついてしまったが、ソフィー先生が女性っぽいからか、怖いと思う事はなかった。

「辛かったわね。今は忘れて眠りなさい。」

そう言われたとたんに、眠気が襲いかかり、俺は頭を撫でられながら、瞼が重くなり閉じて意識が途切れた。



ーーーーー


睡眠を誘う魔法を使いルシオンを眠らせ

「あんた…やり過ぎよ。」

ソフィーはカーテンの奥で、後悔に苛まれ項垂れているネフィルに向かって言った。

ネフィルが美少年を抱き潰し、ソフィーを頼って連れてくるのはいつもの事だった。
どの少年も本人が喜んでネフィルの虜になり、次第に壊れていったが。
だが、ルシオンに対しては、暗い顔をしたまま大事そうにシーツに包み連れてきた時は驚いた。
しかもネフィルは、流血させるほどドSじゃなかったはずなのに、ここまで酷いのも初めてだった。

「解ってる。罪は償う。」

ソフィーは、ネフィルがここまで素直なのも初めて見て、更に驚く。

「何なのよ。いつもの胡散臭い笑顔は?飄々とした態度は?あんた、これからどうすんのよ。」

ルシオンを連れてきた時は、ネフィルの馬鹿を許せなかったが、らしくなく落ち込んでいる様を見せられては、怒る気にもならなかった。
ネフィルが、自分で自分を軽蔑しているだろうと思ったから、他人が怒っても許さなくても、それは違うと感じた。
後悔をし、反省している人間には、罵声も慰めも無用だし、本人が理解しているなら、後は見守るだけだ。

「私は、ルシオンの目の前から消える。研究も止めて、田舎に行くよ。」

こんなにも気落ちしているネフィルは、ほっといたら死にそうだ。

「それは、逃げてる事にならない?」

今のルシオンには、ネフィルが付けた傷跡が深すぎて、近くにいない方が良いだろう。
だからといって、何もかも止めて田舎に引っ込む事は、本当に償いになるのだろうか?

「私は…もう……。」

ネフィルが更に落ち込んだ時
『バターンッ!』勢いよくドアが開いてセレスが現れる。

「ルシオンは?」

ソフィーは、セレスの大きな扉の音と声に、ルシオンが目を覚ましそうに思い、人差し指を唇の前に当て『静かに』とジェスチャーする。

「今は眠ってるわ。」

「そうか…。ネフィル、何故こんな事をした。」

セレスは声の音量は小さいが、酷く怒っていて、ネフィル相手に敬語も敬称もなくなっていた。

「言い訳はしない。すまなかった。」

「すまなかったで、許せるか!」

セレスはネフィルのシャツの襟元を掴み、思いっきり頬を殴った。
セレスは、それでも許せない。許せるはずがなかった。
愛しい人を、やっと手に入れたと思ったら、嫌いな奴に避けるように促され、無理やり犯され傷つけられて、殴っただけでは、まだ気がすまない。

「罰を受けてもらう。覚悟しとけ。」

セレスはそう言い、ネフィルの顔はもう見たくないと、ルシオンが眠っているベッドへ向かった。

安らかに眠っているルシオンの顔を見て安堵し、セレスは静かに涙を流した。



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