能天気男子の受難

いとみ

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リビアン・ブルーラは、ずっとイラついていた。

可愛らしい顔立ちで、薄桃色のふわふわの髪、宝石のような緑色の瞳、肌は白く背は低いが細身で、か弱そうな体躯で、誰もが守ってあげたくなる。
この恵まれた容姿で、伯爵家の1人娘という事もあり両親に可愛がられ、我が儘も言いたい放題だった。
気に入らない事があれば、侍女に八つ当たりをしたり、いじめたりしていた。
その為、ブルーラ家の侍女は入れ替わりが激しかった。

リビアンが、恋愛ゲーム『ラビリンス学園~あなたと共に~』の世界だと解ったのは学園に入る前、14歳の誕生日だった。

凄く嬉しかった。夢にまで見ていたヒロインに、物語の主人公になれたのだ。どんなに挫折があってもイジメられても、最後には主人公が笑うのだ。
そう、王子様と幸せに暮らす事が確定しているのだ。

それなのに……それなのに………っ!
なぜ、誰も攻略出来ないのっ?

この世界の男性は皆、イケメンが多い。

「おはよう、皆さん。」
そうリビアンが笑うだけで、周りの男達は呆けたようにリビアンに見惚れた。

「リビアン嬢、今日も美しいです。」
「聖女様、今日も素敵です。」

この容姿のお陰で、他の女どもが嫉妬するほど、攻略対象者以外の男性に、ちやほやされてモテすぎていた。

それだけでも前世の自分からしてみれば、もの凄く嬉しい出来事なのだが、慣れてしまうと物足りなくなり、憧れのゲームなのだから、攻略対象者全員を落として、逆ハーレム状態にしたい。
そんな欲望を胸に入学したっていうのに…、攻略対象者とハプニングが起こる気配もなく、何とか近づいても、リビアンを見もしない。

『おかしいわ。誰か私の美しさに嫉妬して邪魔しているのよ。そのせいで皆がおかしくなっているのよ。』
リビアンは思い通りにならない事に苛立っていた。
他の男子はリビアンの思い通りになるのに対して、攻略対象者はゲーム通りに物事を進めようとしても、現場に現れないし、セリフも違っていた。彼らと、接点を持とうと思っても、必ずそこにはルシオンがいた。
だから、グレース王子やマクビルと接触するため、ルシオンを使っていた。
それなのに、何故か彼らはルシオンを気にかけてリビアンには振り向きもしない。何度も何度も試しても、結果は同じだった。

『何だか……攻略対象の男子はゲームと性格が違う気がするわ…。特にルシオン………違見た目は一緒なんだけど、もっと不良っぽくて喧嘩っ早くて…無理やり迫ってくる感じとか……何もないのよね。』
リビアンは、ゲームとの違いに気がついたが、深く考えようとしなかった。自分は主人公で物語の中心人物だから、何があってもグレース王子と結ばれると信じていたからだ。
それでも、グレース王子と親密にならないし、2番目に好きなマクビルとも親密になる所か、ルシオンとテオルドが邪魔だった。

年下のジオードが入学式してくれば、彼を攻略出し、そして、テオルドは弟と仲が良いリビアンに嫉妬、しだいに愛憎が増していくので、テオルドの事は後回しにしていた。

また、ルシオンは最後の方で大事な役目があるため、殺せないし、闇落ちして欲しいのに…なぜ光属性なんて持っているのか、リビアンは解らなかった。

『ルシオンには、何か…大勢の前で恥をかいて、闇落ちしてくれないかしら…。このままでは、聖人様だなんて言われて、ストーリーからズレてしまうじゃない。光の聖女は私1人で良いのよ!』

リビアンはルシオンが、聖人様と言われている事にも苛立っていた。だから、腹いせがしたかったのだ。

『そうだわ。前に子爵家の男子と、一緒に飲んだモノがまだ残っていたはず。あの時は、凄く盛り上がったのよね……。
ふふふ…アレを入学式の直前に飲ませれば…式の最中に漏らして恥をかけば良いのよ。そして、皆から嫌われて……ふふふふ。良い考えだわ。』

だが、どうやってルシオンに『それ』を飲ませられるのか頭を悩ませていた。
ルシオンの周りには常に、マクビルとテオルドがいるし、光属性の講義も個別になり、会う機会も無くなったからだ。

そこで、リビアンは取り巻き達の男子にやらせる事にした。男子寮でルシオンの飲み物に入れて貰うのだ。効き目を遅らせる為に、水魔法が使える奴に頼んで膜を張ってもらい、入学式の最中に効いてくるようにするのだ。

『…ふふふ、私って頭良いわ!』




そして…入学式の当日になった。

ルシオンにとっては2度目の入学式だが、朝から嫌な予感がしていた。
今日はジオードが学園に入学してくる日なので、ヒロインとハプニングが起こるはず。
ゲームでは、入学式前に桜が咲いている木の方から、動物の鳴き声が聞こえて来て、リビアンが近づいていくと子犬が木から降りられなくなっていた。
だが、助けたくてもリビアンでは手が届かない。一所懸命に手を伸ばして助けようとしていると、リビアンの横から背の高い男子が子犬を持ち上げて助ける。
それが、ジオードなのだ。

リビアンは、絶対にゲーム通りにしたいはずなので、ルシオンは桜の木に近づかないようにしようと誓った。
今年もまた、ヒロインのハプニングを自分がやってしまうんじゃないかと内心不安だった。

ルシオンは気を張っていたせいか、少し早めに目が覚めてしまったので、制服に着替えて食堂に向かった。
朝はいつもコーヒーを飲むので、まず始めに給仕に頼む。食事が来る前にコーヒーを一口飲んでいると、いつもより薄味のような気がしたが、そんな日もあると気にも止めなかった。
それが、罠だとも知りもせずに。


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